賀茂史女/かものふひとのむすめ

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こんなことがあったとさ(今日のできごと)

繁華街にあるタワーマンション1階のTSUTAYA&カフェの駐輪場。 隣にある消防設備スペースは植栽や御影石のオブジェ風のベンチがあって、ちょっとした憩いの場みたいになっている。 歩道とは高低差があるので人の目の高さ辺りに植栽がある。 そこにカラスが居て、人がすぐ傍を通っても怯まない。 馴れてるのかそれどころじゃないのか(草と土を咥えていた)どっちやろと思って通り過ぎかけて、歩道を挟んで駐輪場の自転車の横に立っている制服姿のオンナノコが挙動不審なのに気づいた。 アンタなんかした

    • 古代の春 四

      鶏が鬨をつくっている。 ハヤタリが目を開けると、葺茅の間から外の仄かな明るさが見えた。 住処から出て陽の昇る方を見ると、冬のあいだ間近に見えた煙吐く蒼い山は、今は遠く霞んで見えた。 煙吐く頂きから山裾にかけて広がっていた白さは、今はほんの頂の辺りに残っているだけだ。 夜が明けたら女衆は菜を摘みに出かけ、カヤを刈ってくるのだそうだ。あねさまも行くと言っていた。 ハヤタリは空を見上げた。 暖かくなってから、朝が来ても陽が照らないことが多かったのに、かかさまは夜明けからカヤ刈りに行

      • 古代の春 三

        「住処を建てるそうだ」 焼いた魚をむしりながらととさまが言い、かかさまが「誰の住処だね?近く娶りする齢のものも居ないだろうに」と聞き返した。 ととさまは粟の入った粥を飲み干して「先だって兄邑の長と連れ立って来た男よ。ここの田仕事を珍しがって、やってみたいそうだ。今は長の住処で寝起きしているからな。新しく住処を作るのよ」と答えた。 ハヤタリは匙で粥を掻き回しながら目を丸くして住処の中を見回した。 住処は作るものだったのか、どんな風に作るのだろう。 ととさまはハヤタリの方を向いて

        • 古代の春 二

          雨の翌朝吹く大風が、ごうと音を立てて広げてあった粗朶を巻き上げて辺りに散らかしてしまった。 ハヤタリは慌てて走り回って拾い集めようとしたが、再び吹いた大風に、枯葉を付けた小枝は伸ばした指先から掠め取られて、くるくると回りながら遠ざかって行った。 鶏たちは突然の風に羽根を羽ばたかせ、不平そうに喉声を上げた。 その様子が可笑しくてハヤタリが笑い出すと見ていたあねさまも笑い出した。 堤の向こうから大きな人影が数人向かってくるのが見え、誰だろうと目を凝らすと相手もこちらに気づいて手を

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        • 海の近く田を営む邑
          4本

        記事

          海の近く田を営む邑

          10年ほど前に、志波城のマスコットキャラクターしわまろくんとのTwitterでのやり取りを発端に、少しづつ発展して行ったイマジネーションがありました。 駿河湾に安倍川が流れ込んで形成された扇状地、後に駿河国の一部になる、小ぢんまりとした静岡平野の南部には弥生時代にはいくつかの集落がありました。 弥生時代中期後葉に最盛期を迎えたと考えられる拠点的集落(有東遺跡)、弥生時代中期から中世まで長く人が住んだ痕跡のある集落(瀬名遺跡)。 弥生時代後期に成立したと考えられる、短命だったけ

          古代の春 一

          夢の向こうから鶏の長鳴きが聞こえてくる。 眉をしかめ麻衾を引き上げる。 ゆっくりと現に戻ってくる手足と鼻の頭が感じているのが、前の朝のような寒さではない事にハヤタリは気が付いた。 耳を澄ますと鶏の長鳴きの間に住処の周囲の葺茅に当たる微かな雨の音が聞こえてくる。 まだ暗い中で、ととさまとかかさまが身を起こした。 隣で寝ていたあねさまも目を開けていた。 ハヤタリは住処の入口まで行き、掛かっている筵をそっと開けてみた。 外は静かな雨が降っていた。 海の方の空には雲の切れ目が見え、微

          竜田の御廟

          2016年4月の竜田御坊山三号墳の再調査報告から受けたイマジネーションによる情景スケッチ 「いかなることだ、陶邑には高麗尺で丈を伝えおいた筈だが」 冷え込む季節が終わり、埋葬は急がれているというのに、ようやく陶邑から届いた棺は、かの君の亡骸には小さすぎ、土師部の工人を急かして竜田の丘に造らせた御墓の石の槨に納めるには大きすぎると一目で見て取れる。 飛ぶ鳥の明日香は板蓋宮に坐す大王より貴人の弔を仰せつかったは良いが、この斑鳩に赴いてからというもの、何一つ手配通りに事が運ばず、