古代の春 四

鶏が鬨をつくっている。
ハヤタリが目を開けると、葺茅の間から外の仄かな明るさが見えた。
住処すみかから出て陽の昇る方を見ると、冬のあいだ間近に見えた煙吐く蒼い山は、今は遠く霞んで見えた。
煙吐く頂きから山裾にかけて広がっていた白さは、今はほんの頂の辺りに残っているだけだ。
夜が明けたら女衆おんなしゅうは菜を摘みに出かけ、カヤを刈ってくるのだそうだ。あねさまも行くと言っていた。
ハヤタリは空を見上げた。
暖かくなってから、朝が来ても陽が照らないことが多かったのに、かかさまは夜明けからカヤ刈りに行くと支度をしていた。
かかさまは、菜は雨でも摘みに行けるけれど、カヤは陽が照っているときに刈るのだと言っていた。
鶏が鬨をつくるから夜が明けたとはわかるけれど、雨が降るかどうかはどうしてわかるのだろう。
祭殿まつりどのの前で、鏡を持って昇る陽を拝んでいた太占の婆さまが、ハヤタリに気づいて手招きしてきた。
ハヤタリは太占の婆さまの傍に行き、雨が降るかとたずねてみた。
太占の婆さまはぐるりと空を見渡して「春は海、秋は山よ」と言った。

空模様


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