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現役大学生デザイナーに聞く、ルック制作秘話やデザインへのこだわり Part2

Keio Fashion Creatorは昨年12月、ファッションショー「明晰夢」を開催した。デザイナー部員のうち8人がショーのルック制作を振り返る。全4回。


飯島恒典/武蔵野美術大学1年生(現デザイナーチーフ)

ーショーテーマ“明晰夢”をどう自分なりに解釈し、ルックに落とし込みましたか。

飯島:

まず“明晰夢”を“シュルレアリスム=超現実”と解釈しました。 “シュルレアリスム”の理性的な制御や美学的・道徳的な概念から解放された所謂放心状態で遭遇できるものという部分に “明晰夢”に通ずるものを感じました。 それと同時に理性的な社会において、戦争や環境破壊、資本主義的な問題がある中で「理性って素晴らしいものとされてきたけど本当にそうなのか」という疑問をぶつけたいと思い、それをルックに落とし込みました。

ー制作中、他部員との関わりを通し、インスピレーションを受けた機会はありましたか。

飯島:

育った環境や大学で学ぶ分野が異なる人たちがデザイナーにもたくさん集まっていて、インプット源がファッションに関するものだけでなく、例えば政治学部の人は政治について学んだ知見を元に服に落とし込んでいるんですよね。このインプットの幅広さに対して、アウトプットは“服を作る”という共通したゴールなのが面白いと感じたし、そんな環境から影響を受けることは非常に多いです。

ー1年間デザイナー部員として活動する中で、精神面・技術面で成長を感じたことはありましたか。

飯島:
パターンを引かずに、立体的に服を作るのは自分の中で新しい手法を見つけたなという感じでした。実際に人やトルソーに着せながら貼って、縫っていくのは初めての試みでした。 加工したレジ袋を何十枚と手縫で縫い合わせたのですが、パターンという正解がなかったため1回では理想のシルエットにならなくて、崩したり、縫い直したりを何回も繰り返したのが大変でした。グラフィックを立体的な面に貼るのも難しくて苦労しましたが、その辺も楽しみながら制作できたと思います。

ーメンズのルックは何を表現しましたか?

飯島:
まずどちらのルックもシュルレアリスムを代表する画家のサルバドール・ダリから影響を受けています。メンズのルックは理性とか道徳的観念から解放された世界であるシュルレアリスムを自分なりに解釈して表現しようと考えました。ダリの溶ける時計等の作品を参考にして西洋の伝統的衣服が溶けていく、理性的で“硬いもの”が無意識的な“柔らかいもの”に変容する様を表現しました。

Look39「溶ける身体」KOSUKE IIJIMA

ー女性のルックはインスタグラムで“いいね”を最も集めたルックの1つですが、なぜ多くの人々を惹きつけたのだと思いますか?

飯島:
正直ラストルックだったからというのはでかいと思いますね(笑) でもやはりインパクトですかね。シンプルに乳房と子宮のグラフィックが目を引いたんだと思います。そこは意識的に目に焼き付けようとした部分であると同時に、どこまで表現して良いものか、と迷いましたね。直接的な表現だからそれで傷つく人がいるかもしれないと思いました。作ることの責任や社会からの目線と、自分の表現したいこととのバランスを大事にしました。その結果インパクトを残すことができ、それが人々を惹きつけたのではないかなと思います。

Look40「永遠の胎児」KOSUKE IIJIMA

ーなぜ乳房と子宮の2つを選択したのですか?

飯島:
自分にとってシュルレアリスムは全て肯定できるものではないんですよね。レディースルックはメンズルックとは真逆で、シュルレアリスムの負の側面を表現しました。ダリを含めたシュルレアリストは、女性を絵画の対象、性的な対象に仕立て上げる作風の人が多いです。キリスト教的な考え方で、母性が女性を成り立たせるというか、子供は母乳を消費するし、大人になっても男性が性を消費する。つまり、「女性は消費される対象である」という風潮が中世から変わらずにあって、それを批判的な目線で表現したいなと考えました。 乳房が爛れているのは、その本来的な母乳を受け渡すという機能を無くす=溶かすという表現です。そして子宮の中の胎児は実はダリ本人がモチーフになっていて、ダリが女性を性的な対象にしていたことから、男性器がへその緒みたいに繋がっているグラフィックを性的搾取の象徴として用いました。それをランウェイの途中で外すことでそこからの“解放”という表現をしたくてこの2つを選びました。

ーアートからルックに落とし込む時に何を大事にしていますか?

飯島:
そもそもアウトプットするときに“服を作ろう”という意識をあまり持っていないですね。服って最低限人が纏うことができれば良いと思っていて、ファッションショーであれば空間内でモデルさんとその周辺の空気を演出すればそれで完成されていると思っています。その大きな条件を元に今回も制作しました。アートをインスピレーション源にして、アート自体を纏っても良いし、それこそインテリアを人が着ていてもいいと思います。そこはあまり囚われなくてよくて、何に枝分かれしても良いと思っています。たまたまそれが僕は今回アートだっただけでアートが始まりでいなくてもいいし。もっというと僕は“服を作ろう”という強い意識はあまり持ちたくないなって思っています。


宗像日和/法政大学3年生

ーショーテーマの“明晰夢”をどのように解釈し、ルックに落とし込みましたか。

宗像:
私の中の明晰夢は、現実と非現実の境目であり、その明晰夢に連れていくことが私のルックの果たす役割だと思いました。じゃあではどうすれば連れていけるんだろうと考えた時に、夢を見る時や非現実を想像する時、必ず自分が経験してきたことが元になって初めて非現実になると私は思っていて、例えばお話とか読んでいなかったとしたら、そもそも童話の世界の“お菓子の家”というものを思いつかないじゃないですか。なので自分が今まで経験してきたことを元に非現実というのが生まれるという風に思ったので、まず明晰夢に行くには改めて自分を振り返るというような意味を込めて、自分が撮った写真や自分の経験などを、写真に置き換えて生地に入れ、自分が今まで見てきた景色をルックに落とし込むことで、明晰夢に連れていく役割を担うと思いました。

ー選んだ写真やデザインなどの色使いは、どのようにこだわりましたか。

宗像:
デザイン的にかっこいいかなと思ってラインにしました。それから黒の無地を使った理由は、「新たな可能性をはらんだ」というような、 自分の中でそういう意図がありました。

ー制作中、他部員との関わりを通し、インスピレーションを受けた機会はありましたか。

宗像:
わからないことや、どっちがいいんだろうなみたいな悩みは、アドバイスしあったり、こっちがいいと思うみたいな、話し合いはしました。でも逆に自分のルックの世界観がぶれないように、いい意味で影響を受けないようにもしました。他のルックがかっこよすぎるが故に、自分なりの “かっこいい”がぶれてしまいそうだったので、他のデザイナーにアドバイスをされてもそれを自分なりに置き換えて、いい意味で影響を受けすぎないようにしていました。

ー1年間デザイナー部員として活動する中で、精神面・技術面で成長を感じたことはありましたか。

宗像:
精神面では2年目ということもあり、気持ちの準備ができていたというところです。逆に技術面では、今年は袖を作ることができた、ということと、自宅用にトルソーを購入したので、シルエットの取り方は成長したと思いました。

ー2体のそれぞれのルックのデザインが、それぞれどういった理由でデザインの違いがありましたか。

宗像:
2つとも“足跡”というテーマで2つに込められてる意味や解釈的には一緒なのですが、その中での違いはシルエットの差です。

Look34「足跡」HIYORI MUNAKATA

女性ルックの方は、体に沿った細いラインにし、逆に男性ルックの方は少しゆったりにして、体のシルエットラインを拾わないようにしました。解釈の面では、女性ルックの方は、明晰夢を見に行くために、“自分の本質を知る”という意味なので、自分を振り返って自分を知覚するという意味で細いシルエットにしました。

Look33「足跡」HIYORI MUNAKATA

それとは対照的に、男性ルックは自分が外に出ていく時、いい意味で“ありのままの自分じゃない自分”という意味で、ゆったりした感じにして作りました。

ールックに使った写真は何を意識して選びましたか。

宗像:
絶対に自分が撮った写真を使ったことです。理由は、自分で見た景色という方が足跡というか、自分の経験に近いからです。あと、特に選ぶ写真の内容的には出来事の大小、 例えば、旅行に行った写真じゃなくても、日常的に街中で、「可愛いな、この画角」みたいに思ったら写真を撮るという様に全てを自分の経験として捉えるという意味で、大きなイベントの時の写真しか入っていないという様なことはないです。
あと、人を入れなかったことです。人が入ってる写真は個人的に嫌で、 個人にフォーカスを当てたくないという意味と、デザイン的に入れたくないという理由で入れませんでした。

ーそれは自分が今まで持ってた写真を使ったのか、それともルックのために写真を撮りに行ったりしましたか。

宗像:
ルックのためにこの写真を撮るなどはしませんでした。自分の中の体験を全て入れ込みたいって意味と、あと普通に自分で撮るのが好きだからという理由で自分で撮った写真を選びました。

2024.03.01

DESIGNER: KOSUKE IIJIMA/HIYORI MUNAKATA
TEXT: RYO IGARASHI/RYUSEI TSUBO
PHOTO: HIDEYUKI SAKUMA(still)/HOPE(header photo)

【Keio Fashion Creator 関連リンク】
IG : @keio_fashioncreator
Twitter : @keio _fc
HP : keiofashioncreator.com

PHOTO BY YUKI CECIL
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