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就任前から支持率低迷の尹錫悦、打開策はまたも「女性家族部廃止」?

 「もしかしたら、尹錫悦(ユン・ソクヨル)の就任直後の支持率が、文在寅(ムン・ジェイン)の任期末期のそれよりも低い。そんなこともあり得るかもね」。
 3月の大統領選直後、筆者は知人とこのような会話を交わしていた。半分は冗談のつもりだったが、半分は本気でそう考えていた。大統領選の最中に尹錫悦が掲げた公約の中には社会の分断を煽るものもあり、例え選挙に勝利できたとしても反発も少なくないだろうと考えたためだ。また尹錫悦は政治経験がないため、そもそも期待値が高くないという側面もあった。

○現職大統領より支持率の低い新大統領


 半分冗談のつもりでいった言葉は、果たして現実となった。韓国ギャラップが行った5月1週目の世論調査によると、文在寅大統領の職務遂行に対する肯定的評価は45%(否定的評価は51%)で、任期最後の数字としては過去の大統領と比べずっと高いものとなっている。


歴代大統領の支持率の推移をまとめたグラフ(韓国ギャラップHPよりスクリーンショット)
文在寅の支持率(青)が過去の大統領に比べて高かったことがわかる

 一方、尹錫悦新大統領に対する肯定的評価は41%に過ぎず、否定的評価の方が48%と高い。まだ就任してもいない大統領への支持が非支持を下回るのも、ましてや現職の大統領よりも低いということも、過去に例のないことではないだろうか。

○尹錫悦の支持率が低迷する理由


 下に掲げたグラフは、韓国ギャラップの世論調査の結果をもとに尹錫悦新大統領に対する支持・不支持の推移をまとめたものだ。3月4週から4月1週までは「今後5年間の職務遂行に関する展望」について問うたもので、4月1週を例にとると「うまくいくだろう」と肯定的な見方をした人は56%、「うまくいかないだろう」と否定的見方をした人は38%だった。この時点では、新任の大統領としては低い数字ではあるものの、それでも肯定が否定よりも10%以上も高かった。

尹錫悦新大統領の支持率の推移
(韓国ギャラップの世論調査を基に作成)


 しかし、4月2週からは質問の内容が変わる。つまり、大統領就任に向けた実務や人事などの職務遂行に対する評価が問われることになった。すると早くも4月3週から否定的評価が肯定的評価を上回りはじまる。4月4週にその差は縮まるものの、5月1週には再びその差が7%に広がったのだ。
 尹錫悦の職務遂行に対する否定的評価が多いその理由はなにか。過去の記事(https://note.com/k_border_j/n/n6442bee7d12d)でも書いたように、まずはあまりにも唐突な大統領執務室の移転が挙げられる。韓国ギャラップの世論調査(5月1週目)で否定的評価を下した人のうち、その理由として「大統領執務室の移転」を挙げた人は実に32%に上っている。そして前回の記事(https://note.com/k_border_j/n/ne11431e3583a)で書いた通り、新閣僚を巡る数々の疑惑・スキャンダルもダメージとなっている(否定的評価の理由に「人事」を挙げた人は15%と2番目に多い)。
 そして5月1週の世論調査では、否定的評価の理由として「公約を実践できていない」と答えた人が10%と、前の週より6%も増えている。5月3日、引継委員会は尹錫悦政権下で重点的に推進していく「国政課題」を発表した。ところがこの中には、大統領選の最中に話題となった「女性家族部廃止」が含まれていなかった。尹錫悦陣営が20・30代男性の票を獲得するために打ち出したこの公約が、むしろ若い女性たちの票が李在明に流れる要因となったことについては過去(https://note.com/k_border_j/n/n586a4f26b8f6)にも触れている。また実際に女性家族部を廃止するには政府組織法の改正が必要なのだが、野党「共に民主党」が過半数をしめる国会で法案が通過する見込みはほぼない。そのため引継委員会は、当面女性家族部をそのまま維持することとしたのである
 また兵士の月給を月200万ウォンとする公約も、直ぐに実現することは無理と判断、2025年までに引き上げるとした。このように尹錫悦が掲げた公約は大幅に後退することになったのである。尹錫悦を支持する人たちにとって、公約が守られないことは当然受け入れられないことだろう。それが世論調査の結果として表れることは当然のことである。

○またも「女性家族部廃止」を主張し始めた与党


 これに慌てたのが「国民の力」だった。6月1日に行われる統一地方選への悪影響を恐れたクォン・ソンドン院内代表(日本でいうところの国対委員長)は6日、女性家族部を廃止するための法案を発議した。ハンギョレの報道によると、クォン代表は発議した理由について「ある日刊紙の世論調査によれば、女性家族部の廃止に20・30代男性の90%以上、女性も50%近くが賛成」「女性家族部の業務の多くは他部署の事業と重なっており、効率のためには全面的な改編が必要」「これまでのように女性・男性と機械的に分けていては、個々人が直面する問題を解決できないため」などと語っている。これに対しては、1つの世論調査の結果のみを挙げるべきではない、女性家族部だけが担当する業務も存在する、そもそも韓国社会にはいまだに女性差別が厳然として存在する、などの批判の声が上がっている。そもそもこの改正案自体が、「どうせ通らないのはわかっているのだから、『国民の力』支持者たちに『やることはやった』と見せるためのもの」ではないかと、複数の専門家は分析している(https://m.hani.co.kr/arti/politics/politics_general/1041880.html#ace04ou)。
 大統領執務室の移転問題に見られるトップダウン式で唐突な政策決定方式。自身に近い人物、特に検察出身者で固めた人事。そして二転三転する公約。これらが尹錫悦に対する否定的評価につながっており、6月1日の統一地方選に影響を与える可能性もある。検察庁法の改正を巡る動きに代表されるように、国会では与野党の対立が激しくなっており、今後政局はさらに混迷を極めていくだろう。姿勢を改めない限り、尹錫悦と「国民の力」を見る視線はより厳しいものになっていくのではないだろうか。






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