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【自由を忘れた人たちへ】『モモ』ミヒャエル・エンデ (岩波書店)

時間に追われ、心を無くした私たちへの、警鐘と救いのおはなし。
何をやってもつまらないあなたのところへ、モモがきっと駆けつけてくれますように。

おすすめ度・読者対象・要点

おすすめ度:★★★★★
読みやすさ:★★★★★

読書対象は小学3・4年生から大人まで。
どの世代にも読みやすい文体、響く言葉であるといえる。
子どもだからこそ楽しく読める。
人生を見つめ直したい大人にもおすすめだ。

とある劇場で暮らすモモは、とても不思議な女の子だった。
モモには、だれでもつい何でも話をしてしまう。
そして、モモに話すとなぜか解決する。
つまるところモモは、ある意味で聞き上手だったのである。

そんなモモのところへはいろんな人が集まってきた。
彼らはみんな、モモの友達だったけれども、特に仲がいいのは観光客ガイドのジジと掃除夫のベッポ。
ジジはモモのためのおはなしを聞かせてくれ、ベッポは誰よりも慎重に考えてくれる友達だった。モモは彼らとの時間を過ごすのが大好きだった。

そんな中、都会では灰色の男たちが人の時間を奪ってしまうという事件が起こる。
時間を奪われた大人たちは余裕なく働き、子どもたちはそんな大人たちに向けて、モモを中心にデモを行ったが失敗してしまう。
そしてモモは危険視され、灰色の男たちに追われ、何とか時間の国へ避難した。

しかし、戻ってきたときにはみんなが灰色の男たちによって時間を奪われ、子どもたちは大人たちによって「意味のある遊び」に縛られ、ジジとベッポさえも姿を消してしまった。
モモは、みんなを助けるために、灰色の男たちに立ち向かう決心をする。

手に汗握る、時間と自由を取り戻すための戦いが、始まる。

好きなポイントと注意点

時間とは、生きるということ、そのものなのです。そして人のいのちは心を住みかとしているのです。
人間が時間を節約すればするほど、生活はやせほそっていくのです。

『モモ』ミヒャエル・エンデ (岩波書店)

読んで後悔はさせない。
必ず気づかせてくれることがある、必読の書。人生で1度は読むべき。

モモがひとりぼっちになった世界は、今の私たちの世界そのものだった。
心の豊かさとは何か、心の余裕とは何か。
時間という概念を中心に紐解かれ、気付かされることがある。

大人も子どもも読んで欲しい。

遊びをきめるのは監督のおとなで、しかもその遊びときたら、なにか役にたつことをおぼえさせるためのものばかりです。こうして子どもたちは、ほかのあることをわすれてゆきました。ほかのあること、つまりそれは、たのしいと思うこと、むちゅうになること、夢見ることです。

そしてじぶんたちのすきなようにしていいと言われると、こんどはなにをしたらいいか、ぜんぜんわからないのです。

『モモ』ミヒャエル・エンデ (岩波書店)

最初のペースはゆっくりだが、それがモモのペースなのである。
1時間でもいいので時間を取って、この本を手に取ってほしい。
そしてゆっくり読むことを楽しんでほしい。
なので、この本を要約版で止むのは絶対にやめてほしい。Audible等も推奨しない。
それは「時間」をテーマにしたこの本に対する冒涜だ、とさえ思う。
そして可能ならば、完訳版が望ましい。
岩波書店から出ている本書がおすすめだ。

あなたと、この本だけの世界で、モモとあなただけの世界で、『モモ』に出会い、楽しんでほしい。


余談

この本が悪書といわれないでいるということは、私たちは今の暮らしが良くないと思っているからだろう。

灰色の男たちに奪われた人間ばかりだ。
では灰色の男たちはどこから来たのか?
それは、私たちのせいなのだ。

「ほんとうはいないはずのものだ。」
「どうしているようになったの?」
「人間が、そういうものの発生をゆるす条件をつくりだしているからだよ。
それに乗じて彼らは生まれてきた。
そしてこんどは、人間は彼らに支配させるすきまであたえている。
それだけで、灰色の男たちはうまうまと支配権をにぎるようになれるのだ。」

『モモ』ミヒャエル・エンデ (岩波書店)

モモから何が得られるか、ということを、ここで示したりは今回はしない。
それは、それぞれで読んで、ぜひ得てほしい。

そして暮らしを振り返って、どれだけ灰色の男に支配されているか実感してほしい。
作者はこう、あとがきを残している。

「わたしはいまの話を、」とそのひとは言いました。
「過去におこったことのように話しましたね。でもそれを将来おこることとしてお話ししてもよかったんですよ。わたしにとっては、どちらでもそう大きなちがいはありません。」

劇場というのは、人間の生の根源的なすがたを芝居という形で観客に見せてくれるところです。
そして観客は、芝居という架空のできごとをたのしみながら、そこに示された人間のもうひとつの現実をともに生き、ともに感じ、ともに考えるのです。
おそらく作者は、この芝居と観客の関係を、この本の物語と読者のあいだに期待しているのではないでしょうか。

『モモ』ミヒャエル・エンデ (岩波書店)

ちなみに、恥ずかしながら、私は『モモ』を読んだのは大人になってからである。
だからこそ、感じたものは感動と恐怖だった。
子どもだったらどうだろう、と思う。

いろんな本があり、それぞれに楽しみ方も、楽しめるポイントも違う。
それでも、よりよい、名作といわれる本は、読者を本へ、主人公として引き込む力を秘めているものだ。私はそう思っている。

『モモ』はそんな本である、といえる。
だからあなたにもぜひ、読んでほしいのだ。

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