吾輩は童貞である。魔法使いになる気はまだ無い。㉔マッチングアプリ編その8

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直接の続きのため、ご一読いただければ嬉しい。
これは魔法使い化の未来に抗う、アラサー童貞の記録である。


筆者スペック

身長:160代後半
体型:やや細め
学歴:私立文系
職業:税金関係
趣味:映画鑑賞(ハリウッドからクソ映画まで)
忌まわしき記憶:他校の女子とデートしたら、翌日そのあらましがクラス中に広まっていた

登場人物紹介

ベビー
たまたま俺に彼女できた報告をしたばっかりに、今に至るまで俺の無能童貞恋愛相談を受け続けているかわいそうな童顔の友人。圧倒的な恋愛強者でもあり、俺を本格的に恋愛戦場に引きずりこんだ元凶の一人でもある。
さすがに俺の活動に飽きてきているらしい。

後輩くん
職場の後輩。
根暗チビの俺に対し、陽キャ高身長細マッチョと真逆の存在。
この俺相手に懐に入ってくる対人能力を持つ。
アプリでできたドチャカワ彼女と絶賛バカップル中。

モノリッド(26)
前回俺がマッチングした女の子。クリッとした一重で、ゲラったときの笑顔がとても可愛い。今まで出会った中で最もストレスを感じない相手。

ラウンド2:猜疑と懐疑、暗鬼を生ず

ランチを済ませた後、駅に向かっていたら「この後どうしますか?」との一声が。

夕方予定があると聞いていたので、それが本当であろうと嘘であろうと解散するつもりだったのだが…まだ一緒にいられるというなら僥倖。その後のプランを何も考えていなかったことに焦りつつも、俺たちはお茶できる場所を探して彷徨う。

…入れない。

GW初日のターミナル駅周辺。

店は無限にある。ただし人も無限にいる。

悲しいことに俺は、事前に用意したプランと現実が乖離すると思考が停止してしまう、神が適当に鋳造せし悲しきケツアナゴーレム。

アルピニストの時は夜も夜であったのですんなり入れたのだが、今回は昼も昼。そういうわけにはいかない。

ウロウロウロウロ。右往左往。五里霧中の暗中模索。

俺「ごめんね、完全にノープランで…」

モノリッド「いえ、私こそ!そもそも私から言い出したことですから!一緒に探しましょう!」

在りし日のベビー『女の子とのデートはな、イレギュラーやトラブルも楽しんでこそだぞ』

──なるほど、こういうことだったのか…。

…なんか一人で勝手に答えに辿り着いた童貞。

時間はたくさんある。俺は肩肘張るのをやめて色々な店をのんびり探すことにした。モノリッドはスニーカーだったので、多少連れ回しても問題なかろうという判断である。すると、なんやかんやで店にも入れた。急がば回れってこういうことなんでしょうね。

俺「何飲みたい?俺買ってくるよ」

モ「いえ、さっきご馳走してもらったので私に買わせてください。ケツアナゴさんこそ席で待っててください」

俺「…そっかぁ!じゃあお願いしちゃおうかな!」

──…。

そこそこ列が長かったので、俺は荷物番をしつつモノリッドが戻ってくるのを待つことに。

モノリッドの行動を素直に受け取るなら、「モノリッドがクレクレの実の全身テイカー人間とかメシモクの〇ソじゃなくてよかったね!いい子でよかったね!」で済むのだが、俺の胸中は複雑であった。

実は、アルピニストとデートした時と全く同じ状況だったのである。

アルピニストの時は、俺はこの状況に置かれた上で爆殺された。

つまり何が言いたいかというと、モノリッドのこの行動の真意が「一方的に奢られただけではなんとなく収まりが悪いから、この男に脈は無いが礼儀としてお茶くらい出してやるか」ではないのかという可能性に、俺は怯えていたのである。

過去の失敗体験の影から、猜疑と懐疑が顔を出す。

俺の顔をした暗鬼が、まる子ちゃんの永沢くんのような表情で呟いている。

年下でお前より稼いでて、いいね500くらい付いてるような女の子がお前なんかになびくと思うか…?いくらでもいるんだよ…選び放題なんだよ相手は…選り取りみどりの状況で低身長低収入低学歴のお前なんか選ぶと思うか…?」

以前あれほどカリンにキレ散らかしたにも関わらず、俺の魂に巣食う闇が俺を陰からなじってくる現状は特に変わらない。俺とカリンの差とは、闇を異性相手に晒すか、そうでないか。その程度の違いでしかないのであった。

「向こうがよく喋るのだって、お前が何も気の利いたことを言えないから、彼女なりに盛り上げようとしてくれてるだけかもしれないぞ…」

「普通は誰にだって愛想が良いもんだろ。お前だってナシだと思った女の子に対してもにこやかにやり取りしてたじゃないかよ?モノリッドは別にお前に好感を持ってるから笑ってくれてるわけじゃないんだぞ」

「自惚れるなよ。そうやって何度くだらない勘違いをして破滅してきたんだ。所詮お前はその程度の人間だ。お前は売れ残りなんだ。前陳して半額シールを貼って、それでようやく拾ってもらえるかどうかでソワソワしなきゃならん側の人間なんだよ。どうせ今回だって──」

在りし日の職場のお姉様『そんなに悲観することないよ。誰にだって選ぶ権利はあるんだよ?もちろん、君にも』

──そうだ!!モノリッドに選んでもらいたいと思ったからじゃねえ!!俺が選びたいと思ったからデートしたんだ!!ここに居るのは俺の意志だ!!拾ってもらいに来たんじゃない!!俺は!!勝ち取りに来たんだ!!

未だ俺の魂に巣食う闇は倒されてはくれない。

くれないが、それでも、立ち向かうことはできる。

どう転ぶかなど、転んでから考えればいい。

これがくだらない勘違いかどうかは、分かってから騒げばいい。

この身が未だ死に体ではないのならば、死ぬまで立ち向かうまでだ。

それが絶対唯一無二の、闇を打ち倒す術である──!!

……

………

実際はこんなマンガ的なシンキング・フェーズに入ったわけではないが、俺の頭の中では天使と悪魔が交互に喚いていた。

そんなこんなで、飲み物を受け取ったモノリッドが席へ戻ってきた。

モ「そういえば、初対面の人と待ち合わせるって緊張しますよね。私、アプリで会ったのケツアナゴ(筆者)さんが実質初めてなんですけど」

俺「え!?そうなの!?」

──本当か…?あんだけいいね付いてて…!?

俺「まあ…俺もそこまで会ってない(当社比)けど、はじめましては何度やっても慣れないかもね。写真と違いすぎたら探しようがないしさw」

モ「そうですねwwwお互い盛りすぎたりしてたらwww」

俺「実際、俺は見つけやすかった?写真と印象違うとか」

モ「いいねが来た時写真見て『めちゃくちゃカッコいい人だな』と思ってマッチしたのに、その3倍の爆イケが来たな~って思いました

俺「さ、3倍…?」

ギレン「だが貴殿の見染めてくれたイケメンは童貞だ!なぜだ!」

シャア「坊やだからさ」

モ「実際すごいイケメンだと思いますよ。これ(ガラTでピースする夏の俺)見る限り、どう考えてもパリピだと思ってちょっと警戒してましたけど」

俺「ありがとうwでも世を忍ぶ仮の姿だからねこれ。性根は全然陰キャだからw」

モ「よかったですwパリピとはちょっとしんどいかもですw」

俺「…ちなみに、俺もモノリッドさんのこと写真より可愛いなって思ってるよ」

モ「ダメで~すそれは完全に後出しで~す今さら響きませ~んw」

俺「え~そんな~たはは…参ったな…w」

カワヨ。

鈍色の星、魂を焦がす焔、地獄より立ち昇る

アルピニストと違って、モノリッドには爆殺されなかった。

この黄金週間に、再び会う機会を無事設けることができたのである。

GW中に二度会う約束を取り付けてくれる時点で既に脈しか感じていなかったのだが、これが童貞特有の勘違いや童貞特有の独り善がりの焦燥である可能性を俺は全然拭うことができず、ヘラり散らかした結果友人たちには呆れられていた。

…いや、しょうがなくない?そういうもんじゃんマチアプって。恋愛戦場って。自己評価が高い低いに関わらず、俺たちは薄氷の上を、あるいは地雷原の上を走り抜けてるんだよ。いつ死ぬか怯えるのはごく自然のことじゃないのかよ?

ベビー『だるいよお前』

後輩くん「マジで毎回なんなんですかそのノリ」

俺「はい…すいません…」

ともあれ、モノリッドはゲラった時の笑顔がとても可愛いし、よく喋るし、価値観も似通っているし、良識と常識があるし、色んな意味で同じ次元で話すことができるし、肩肘張らずに接することができるし、ネイルも整っていて可愛いし、手首と指が白くて細くてイイ!とってもイイ!(性癖)

また会えるというのなら、こんなにうれしいことはない。

心配事は、自分自身のスペックがモノリッドのお眼鏡にかなうかどうか、俺がつまらん男だと思われてやしないか、シンプルに他の男にかすめ取られやしないか…今さら気にしても詮無きことではあるのだが。真相はモノリッドだけが知っている。

それでも、明らかになっているのは。

確実に、間違いなく言えることは。

深くて昏い、絶望と苦痛にまみれた地獄の底から、手を伸ばし始めた鈍色の星は。

俺の魂は。

ついに燃え出したということだ──!!

これは魔法使い化の未来に抗う、アラサー童貞の記録である。


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