吾輩は童貞である。魔法使いになる気はまだ無い。㉕マッチングアプリ編その9

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直接の続きのため、ご一読いただければ嬉しい。
これは魔法使い化の未来に抗う、アラサー童貞の記録である。


筆者スペック

身長:160代後半
体型:やや細め
学歴:私立文系
職業:税金関係
趣味:映画鑑賞(ハリウッドからクソ映画まで)
拭えないトラウマ:恋愛相談のメールが流出したことがある

登場人物紹介

ベビー
たまたま俺に彼女できた報告をしたばっかりに、今に至るまで俺の無能童貞恋愛相談を受け続けているかわいそうな童顔の友人。圧倒的な恋愛強者でもあり、俺を本格的に恋愛戦場に引きずりこんだ元凶の一人でもある。
さすがに俺の活動に飽きてきているらしい。

後輩くん
職場の後輩。
根暗チビの俺に対し、陽キャ高身長細マッチョと真逆の存在。
この俺相手に懐に入ってくる対人能力を持つ。
アプリでできたドチャカワ彼女と絶賛バカップル中。

モノリッド(26)
俺がマッチングした女の子。クリッとした一重で、ゲラったときの笑顔がとても可愛い。今まで出会った中で最もストレスを感じない相手。

ラウンド3:貴女が高嶺の花だというなら

来たるGW別日。

俺はモノリッドと再会した。心なしかちょっと嬉しそうにニコニコ笑って近づいてきたような気がする。

──あ、今日はヒール履いてる。可愛い~!

ヒールでギリ埋まるか、埋まらないか程度の身長差。正直ちょっと自分のホビット具合に泣きたくなってくるが、単純にヒール履いてる女の子が好きなので相殺ということで(何が相殺なんだよ)。

…あの。ちょっと待ってくださいよケツアナゴ選手。

なんでヒールに気づいたのに口に出さなかったんですか?(クソデカ大声)

バカなんですか?

そういう小さな気づきの積み重ねでポイント稼ぐもんでしょうが?

結局、最後の最後までタイミングを逃し続けついぞ言えなかった。反省。

……

………

今回は夜だ。アルピニストの時と同じ人気店でのディナーだが、前回の反省を活かしてコースは注文しなかった。「分かんないけど、ちょっと多そうじゃない?単品を小出しにしようよ」と、さも初見かのように振る舞って。

モノリッド「連休が終わるとなると憂鬱ですね~…」

俺「憂鬱だね~。モノリッドさんは休み何してたの?」

モ「友達と遊んだり~、友達と遊んだり~、あとはケツアナゴ(筆者)さんとの合間に別の男の人とも会ったりしたんですけど」

──……!!

心臓が跳ねる。俺は心弱き童貞だ。

聞かせてくれ。わざわざそれをカミングアウトした理由はなんだ。

在りし日のベビー『多分何も考えてないぞ』

俺「えー!いいじゃんいいじゃん(大嘘)!その人はどうだったのさ?」

モ「すごく優しい人だったんですけど、ずっとよく分からない自分の仕事の話を延々としてて…正直疲れちゃって。海外支社がなんとか?なんかすごそうではありましたけどね。段々返事が雑になっていったのが伝わったのかな。向こうからも連絡来ないし私も送ってないです」

──アッハッハ!!バーーーーーカめ!!客観能力が著しく欠如した自己承認欲求の怪物め!!自分すごいアピールが通用するのは就活までだぜ?そんなんじゃ戦っていけねーんだよこの世界はよぉ!!俺の!!勝ちだ!!

一体こいつは何と戦っているんだ…(冷静)。

ともかく、競合が一人消えたことに安堵する童貞。

俺「なんか…せっかくの大型連休なのに、大して特別なことしなかったなって思うわ…」

モ「私もです~…」

俺「…!!あっモノリッドさんと会うのが特別じゃないって言ってるわけじゃないからね!!(童貞)

モ「何言ってるんですかwwwそんな風に捉えてませんよwww…私だって特別なことだと思ってるから来てるんですからね!!」

余計なこと考えてるから自爆すんだよオメーは。

ともあれ、ご飯はとても美味しかった。まあ知ってたけどそんなことは。

ほの暗いカウンター席。

シェフが調理している風景が間近に広がっている。

視界に入る情報が流動的であるため、話題は尽きない。

そして、前回見れなかったモノリッドの横顔は、とても綺麗だった。

モ「ケツアナゴさん、左利きなんですか?」

俺「え?右利きだよ?なんで?」

モ「だって、左でナイフ持って切ってるから」

俺「…あ…」

どうも俺は、自分が緊張しているということにすら気づかないほど緊張していたらしい。左右の区別すらついていないとは。まあ逆の手で普通にナイフ使えるのも大概意味不明なんだけど。

モ「あははwwwほんとにケツアナゴさんおもしろいですねwwwこの前もフォークでレタス一枚食べようとしてずっと格闘してたしwww」

俺「ほんとにお恥ずかしい…人類で一番不器用なもんで…」

モ「人類ってwww何基準なんですかそれwww」

俺「たはは…参っちゃうねほんと…」

カワヨ。

……

………

俺「そういえばモノリッドさんさ、ネイル変えた?

モ「えっ、はい!よく気づきましたね!グレーからベージュにしただけなんですけど。ホントにすごい見てるんですねえ」

いつもは鳥頭の俺だが、女の子のことに関しては記憶力が114514兆倍になるのだ。些細な変化に気づけばポイント稼げる(じゃあなんでヒールに言及しなかったんだよというツッコミはやめて)し、単純に話題になる。元カノの時もそうだった。水色から青色になった時でさえ気づいたんだぜ?これくらい訳ないさ。純粋に女の子を見るのが好きということもあるが。

まあ、これは言えない。あとさすがに指フェチだからとも言えない。

俺「ネイルって俺にとっては身近な文化じゃないからさ。気になるんだよね。あとそのシールも新しく貼ったんでしょ?めちゃくちゃ可愛いよね」

モ「そうなんですよ!ちょっと貼ってみたんですけど、可愛いですよね!」

なんか嬉しそう。

可愛いのはお前だよ。

記事にしていない分も含めると、女の子とはそれなり以上に出会ってきたが、正直それらの出会いはおよそ恋と呼べるものではなかった。元カノは論外、カラコンはいまいち乗り切れず、アルピニストは好きになれそう止まり。事実はどうあれ、少なくともそれらがそう思えてしまうくらいには、モノリッドとの時間は心躍るものであった。

だが、深入りするのは危険だ。

向こうもそうであるとは限らない。

彼女とてアプリで男とのやり取りを同時並行している。

年収は俺より高い。

いいねは500に迫る。

敵は無数といる。

道は長く険しい。

壁は高く厳しい。

…知っている。

知っているさ。

望み薄だということは。

──それでも。

そう、それでも。

貴女が高嶺の花だというなら。

俺は目指そう。はるか天上にそびえ立つ、峰の頂を。

ラウンド4:俺が路傍の石だとしても

まだ時間がある。

今度は俺からカフェを提案した。

モノリッドは快く承諾してくれた。そして前回ほど彷徨うことなく、席に着くことができた。さらに前回と同じように、モノリッドは代金を持つという。ここで必要以上に見栄を張ったところで意味が無いのは分かっているので、ありがたくご馳走になることに。

…ガッツリ話しこむにあたって、おしゃれなディナーはあまり向いていないのかもしれない。否が応でも飯に意識が向くからな。

色んな話をした。

モノリッドのベラが止まらない。彼女は割と話を聞いてほしい側の人間だということが分かったので、別に聞き上手ではないが聞き役に回ることに。

だが、一つ懸念があった。

──あんま恋愛に関する話をしてなくないか?

そう、俺たちは恋愛をしに来ているのだ。仕事の話、友達の話、趣味の話…最近あった面白い話…確かに必要なトピックだ。だが、それは外堀であって本丸ではないのだ。

別に今回告白する気はない。ないが、いつまで経っても表層だけをなぞっていても関係は進まない。

…モノリッドのベラが止まらない。全然攻められないなこの大阪城…。

俺はモノリッドの話を聞く傍ら、彼女が展開する話題を、いかに恋愛トークに続けていくかを思考し始めた。逆算は俺が得意とするところである。誘い方を決めた上でメッセージを展開するように、あるいはサブタイトルを先に決めてから記事の本文を考えるように、着地の仕方を考えながら話題のジャンクションポイントを探す。

モノリッドが話を止めた。刹那の沈黙。唇をストローに持っていき、カフェラテを飲み、再び口を開こうとする、その数瞬の会話の空隙。

俺は、舵を奪い取った。

俺「実際どうなの?アプリというか、恋愛に対する熱量は」

モ「…まあ、恋人ができればいいなって思いますけど。そう何ヶ月もやるつもりないですよ、疲れますし。ダメだったらまた何年か寝かせると思います(彼氏いない歴X年)」

俺「…何人もやり取りするのしんどいだろうしね(素)

モ「今にしたって大体は非表示にしちゃってますし。ケツアナゴさん以外には、会ってないけどメッセージが続いている人が二人いるくらいで」

──…。

──……。

──………。

──いや、逸るな。急いては事を仕損じる。

しかして、競合は二人だ。二人。少なくとも二人いる。モタモタしていたら掠め取られる危機感も持たなければならない。

俺「へぇ~そうなんだ(震え声)……」

なんか言えよ!!

モ「…そういえば、前回お会いしてから、ケツアナゴさんのことを友達に言ったんですよ」

──…。

──……。

──………。

俺「…ええ!?」

おーいベビー!!助けてくれ!!登場人物の心境を答えよ!!

ベビー『何も考えてないと思うぞ』

モ「私、写真見せて『この三倍のイケメンが来た』って言ったんですよ。そしたら、『アンタ騙されてるよ!!』って」

俺「…んん??」

モ「『これの三倍に彼女がいないわけないじゃん!!』『この三倍にアプリなんか必要なわけないじゃん!!』って言われてwww」

俺「いやいやいやいや!!彼女なんていないしwww出会いが無いからアプリ使ってんだってwww全然騙してないってwww」

ベビー『ある意味騙してるけどな』

カットインしてくんな。

だが確かに、君の目の前の男の本質は、角刈り眼鏡のチー牛だ。

モ「分かってますよwwwもうその心配はしてませんからwww…会ってから起こったおもしろいこと色々話したら皆笑ってましたしwww」

──え、俺前回レタスと格闘した以外に何やらかしたんだ…?

モ「大丈夫ですよ~!別の友達は『絶対良い人だと思う』って言ってましたし」

──何が大丈夫なんだ…?

──そもそもどういう意図があってこんなことを言い出したんだ…?

──いいのか?感じていいのか?脈を感じていいのか?アリだと思っていいんだな?ん?

童貞だから分からん。誰か助けてくれ。

…いや、誰も助けちゃくれない。モブキャラの恋愛事情に、誰も見向きなどしない。仮に見向いたところで眺めて笑うだけだ。

ならば、自力で歩を進めるしかない。

手探る腕もなければ、走り抜ける足もない。

論理を用いる頭もなければ、感覚に頼れるほど経験もない。

俺がそんな路傍の石だとしても。

進むしかない。たとえ転がりながらでも前に。

俺「ぶっちゃけ人を騙せるほど恋愛経験なんて無いし」

モ「…そのルックスで?」

俺「あ~信じてないでしょ!褒めてもらえるのは嬉しいけど、別に俺はずっとこんな見た目だったわけじゃないんだから!」

モ「え、そうなんですか?」

俺「うん。とてもお見せできるものじゃないけど」

モ「その言い方は、証拠があるってことですよね?w」

──…。

──……。

──………。

俺「…あーよそう!見せるとしても次会う時だね!

モ「言いましたね?言質取りましたからね?私絶対忘れませんから」

どうやら、首の皮が繋がったらしい。

鈍色の星、地獄より出ずる

俺「ぐにゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

後輩くん「…どうしたんですか(苦笑)出勤してからずっとそんな感じじゃないですか」

俺「いや…だって…」

後輩くん「マジで何考えてるんですか?今更ブロックに怯えてどうするんですか。そこまで魔境じゃないでしょマッチングアプリって」

魔境だよ。爆速マッチ爆速ゴールインのオマエにゃ分からんだろうが。

俺「何も信じられない…土台となる成功体験がないから…何も…」

そう。

俺は告白されたことはあっても、自分の告白が上手くいったためしがない。

後輩くん「まあ一つ言うなら、いくら三回目って言っても、初めて会ってから三週間で告白っていうのはちょっと早い気がしますよ」

……

………

俺『…って言われたんですけど』

ベビー『別にお前の好きにすればいいよ。カラコンの時みたいに機を逸したり、モタモタして他の男に奪われたあとに何一つ文句言わねえならな

なるほど。どうやら、するべきことは一つしかないらしい。

つまり、ついに鈍色の星が地獄から出ずる時が来たというわけだ。

これは魔法使い化の未来に抗う、アラサー童貞の記録である。


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