吾輩は童貞である。魔法使いになる気はまだ無い。㉖デッドライン編
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直接の続きのため、ご一読いただければ嬉しい。
これは魔法使い化の未来に抗う、アラサー童貞の記録である。
筆者スペック
身長:160代後半
体型:やや細め
学歴:私立文系
職業:税金関係
趣味:映画鑑賞(ハリウッドからクソ映画まで)
初めてインスタで見た光景:初恋の子の結婚報告
登場人物紹介
ベビー
たまたま俺に彼女できた報告をしたばっかりに、今に至るまで俺の無能童貞恋愛相談を受け続けているかわいそうな童顔の友人。圧倒的な恋愛強者でもあり、俺を本格的に恋愛戦場に引きずりこんだ元凶の一人でもある。
さすがに俺の活動に飽きてきているらしい。
後輩くん
職場の後輩。
根暗チビの俺に対し、陽キャ高身長細マッチョと真逆の存在。
この俺相手に懐に入ってくる対人能力を持つ。
彼女の存在をカミングアウトしていることが社長の証言により判明。
何やってんの?
OT
古い知り合いの作業療法士。高身長イケメン。
過去、彼の結婚式に参加したことで網膜が焼けた。
ハンドラー
古い友人で、この連載を見ている。
鳩と絵師との桃源の誓いが崩壊した今、もはや俺と共に最前線に出ている戦友は彼しかいない。AIにアプリのメッセージを推敲させているらしい。
モノリッド(26)
俺がマッチングした女の子。クリッとした一重で、ゲラったときの笑顔がとても可愛い。今まで出会った中で最もストレスを感じない相手。
3回目のデートが決まっている。
普通に好きなんだが誰か助けてくれないか?
原初の毒が心を浸す、公私を腐らせる
今の時点で書くべきモノリッドとのイベントは特に何も起こっちゃいない。
なぜなら、デッドラインはこれから到来するからである。
それでも俺が筆を執る…もとい、キーボードを叩くのは、
そうでもしなければ本当に気が狂いそうだからだ。
憂鬱だ…楽しみなんて気持ちは微塵もない…。
重めの仕事が積まれているのに、全く捗らない…。
疲れているのに眠れない…。寝ても仕事でやらかす夢を見る…。
後輩くん、友人のベビー、そしてハンドラーにひたすら弱音を吐いている。
俺は一瞬思った。カリンより俺の方がメンヘラ気質じゃねーか?
…いや、そうではない。
自己評価が低いわけではない。ただ、何も信じられないと言った方がいい。
職場のA子に童貞を煽られてから一年半が経とうとしている。この一年半で、こと見た目に関して言えば、俺は本当に別人のようになったろう。ボサボサ眉毛の角刈りのメガネチー牛が、旧友に会えば気づいてもらえずにスルーされ、街コンに行けば美容師と間違われ、終電後の繁華街を歩けば夜職に夜職を疑われる程度には激変した(それは問題なんじゃあないのか?)
10年前のOT『ケツアナゴ(筆者)はさあ、髪を伸ばして眉毛整えたらめちゃくちゃモテるようになると思うよ』
”解”は出ていたのだ。10年も前に。
しかし、既に拗らせまくっていて自分否定にまみれていた高校生の俺は、活路を見出してくれた人間の言葉さえ、俺を陥れようとする甘言にしか聞こえなかったのだ。
なぜだ…なぜあの時にすぐOTの言うことを聞かなかった…!!
運動、勉強、仕事。何をするにも中途半端だった俺の人生。後悔することなど無数にある。だが、その中途半端の積み重ねで友人に恵まれた今があるなら、俺は今を否定する気にはなれない。この件を除いてはな…!!
俺がOTの結婚式に出たのは、その後ろめたさから解放されたかったからでもある。
閑話休題。
確かに俺はイケメンと言われることが多くなった。自分の見た目。そこはもはや大手を振って公言していいところではないかと思っている。しかしながら、かつてOTの手を払いのけたせいで、俺はかなり致命的な問題に直面している。
すなわち、俺の問題とは。
ハンドラー『ケツアナゴは部活の中でもイケメンだからね』
後輩くん『両親には感謝した方がいいですね』
元カノ『正直ね、一目ぼれだったの』
モノリッド『写真の三倍のイケメンが来たって思いました』
──俺にはそれ以外に何がある?俺の魅力ってそれしかないのか?
ベビー『お前の最大の欠点はイケてそうなツラとイケてない内面のギャップだよ。でもイケてない内面をどうにかするには経験で埋めるしかないから割と詰んでるんだよね』
未だ、童貞であることである。
砂上の楼閣、虚ろなる自信
女の子は、余裕のある男を好きになるという。
余裕とは、すなわち自信から表出する態度であり、
自信とは、すなわち成功から湧出する感情であり、
成功とは、すなわち勝利から現出する体験である。
俺にはその全てがない。
…
……
………
かつて、中学高校と、たかが四度の敗北で心が折れてしまった俺は、その後最も時間が自由に使えた頃に何の行動も起こさなかった。池で餌を待つ鯉のように、口を開けて間抜け面をしていれば、そのうち何かが起こるだろうと、向き合うべき現実から目を逸らして。負うべき傷を負わず、恥ずべき無知を恥じず、現状維持に甘んじて、友達と一緒にいた方が楽しいからと自分に言い聞かせて、愚かにも『楽しい』と『楽』を履き違えて、そうして何もかもから逃げた結果がこれだ。30を目前にして調子に乗り、俺の見た目だけで寄ってきた、付き合う前から違和感のあった女の告白に喜んで尻尾を振って、当然のように身の破滅を招き、それでも尚諦めきれずに戦い続けている。本当は自信なんてありはしないのに。
『俺は俺を好きになってくれる人を好きになろう』などという、グルクマも思わず閉口するであろう思考は止めた。
これまでにかけられた誉め言葉で悦に入り、うぬぼれにも浸った。
それがなんだというんだ?
贅沢な悩みかもしれない。見た目の良さで好きになってもらえることがあるのに、そこに引っ掛かりを感じているのは。
アプリをすべきではないのかもしれない。自分だってある程度見た目でも選んでいるだろうに、いざ自分が見た目で選ばれたら複雑な気分になるくらいなら。
いや、そもそも…見た目だって…見た目だって本当にあるのか…?
身長はない。稼ぎもない。女の子を喜ばせられるモテテクなんて知らない。そもそも人と関わることが得意ではない。男相手にもうまくやれないのに、女の子にそれができるとは思えない。女の子受けする趣味なんてないし、他人受けするという理由で趣味が続くとも思えない。
何をするにも不安だ。これは正解なのか?これでよかったのか?これでうまくいくのか?そんな思いばかりが頭に渦巻く。いつ終わる?いつ楽になれる?いつ地獄から抜け出せる?俺は…いつまでこんな気持ちでいればいいんだ…。
つまるところ、人生における絶望的なまでの成功体験の薄さ。
それら全てを集約して、未だ童貞であることが問題だと表現した。
死守せよ、我が風前の恋の灯火を
…思考がまとまらない。
今の俺は何か思いつくたびに、言葉を指先に乗せている。
歪んでいる。
歪んでしまった。
歪まされてしまった。
初恋は無様に二度散った。
時が経っても、振られた日が来る度に、部活の仲間には”〇周忌”と囃し立てられて告白メールを転送された。俺は相談するつもりで送ったのに。
高校では一瞬席を外したら、可愛いなと思ってた女の子がいる話をしていたメールを盗み見られて転送された。(それからガラケーにロックをかけることを覚えた)
他校の女の子にデートに誘われたので行ってみたら、翌日その内容がクラス中に言いふらされていた。完全にオモチャと化していた。
二度目の恋も無様に二度散った。
バイト先で童貞を弄られた。「なんで彼女作らないの?」と至極いるのが当たり前であるかのような疑問を投げかけられた。
新卒で童貞を弄られた。同期は彼女が俺を童貞だと言い当てたことを、わざわざ俺に報告してくるような馬鹿だった。
今の職場で童貞を弄られた。弄ってきたのはかつての中学の後輩で、自分が世界の中心に立っていると本気で思っているゴミクソ女だった。
10年経って初めてできた恋人は、まごうことなきカスだった。
時を経て再び恋愛戦場に戻ってきても、望んだ結果は得られない。
モノリッドとの三回目のデートを間近に控えて、それがどう転ぶかなんて分からないのに、既にこんなことばかりを考えてしまうくらいには、俺は、俺は無様で辛くて疲れていて惨めな人生を送ってきて…。
…
……
………
と、ダラダラと書き連ねてきたが、だからといって誰も助けちゃくれない。
俺は悲しいことにまだ童貞だが、悲しいことにもう大人だ。
助かりたければ、自分で助けるしかない。
…『童貞であることが問題で、それが己の歪みを生んでいる』?
ちょっと待てよ。
どうでもよくないかそんなこと?
自分に自信があるとかないとか、自信を持てないのは今までの失敗体験が原因だとか、自責とか他責とか、それは今気にするべきことか?
現実から目を背けてきたからこうなった?なら、今見据えるべき現実から目を逸らすな。お前の気にするべきことは何だ?
『モノリッドを彼女にしたいかどうか』…それだけではないのか?
いや、もっとプリミティブな欲求だ。
『モノリッドを好きかどうか』…問題はこれだけのはずではないか?
そうだ。
俺はモノリッドが好きだ。
たった二度、数時間の邂逅で何が分かる?という話ではある。
ハンドラーの言うように、かかり気味になってしまっているのかもしれない。
後輩くんの言う通り、ちょっと早すぎるのかもしれない。
男は女の子と違って好きになるのが早いという。
振られるかもしれない。このメンヘラ駄文は遺言になるかもしれないし、哀れな男の記録になるかもしれない。
それがどうした?
そうやって何もかもを他責にして、
何に対しても二の足を踏み続けた結果が今のお前ではないのか?
そのせいでカラコンとの出会いをフイにしたのではないのか?
好きなんだろう?モノリッドの笑うところが。
もっと一緒にいたいと思ったんだろう?
色んなところに行きたいと思ったんだろう?
色んなことをしてみたいと思ったんだろう?
だったら掴み取るしかないじゃないか。
無謀だろうが時期尚早だろうが、無意味だろうが無駄だろうが、低身長だろうが低収入だろうが低学歴だろうが、無能だろうがコミュ障だろうが陰キャだろうがチー牛だろうが、自信があろうがなかろうが、この連載を逐次ハンドラーに見られていようが(まあこれ酔っぱらった俺が晒したせいなんだけど)、この連載を読んだ読者諸君に嗤われていようが、
未だ童貞だろうが、
負けたくないなら、挑むしかないじゃないか。
湿り切った俺の魂が、再び燃えるところまで来たのだ。
ならば死守せよ。死守するしかない。風前の恋の灯火を。
これは魔法使い化の未来に抗う、アラサー童貞の記録である。
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