#4沼の底に、居心地の良さを感じて

「退学か復学、どちらか決めなさい」

半年間の休学期間も終わりに差し掛かった2019年の3月。鋭いまなざしで父は言った。テーブルの上には「復学についてのお知らせ」と書かれた少しよれた封筒が1枚。それは2週間前に大学から届き、私が隠しておいたものだった。なぜ隠していたのか。冒頭の言葉が放たれる日を恐れていたからだ。逃げたって選択しなければいけない日が必ずやってくるのに、私は目を背けていた。前に進むどころか、とうとうその場から動けなくなってしまった。


そして私はまたしても「逃げ」を選んでしまった。

「もう半年だけ休学させてください」




「まだ休学して、一体何が変わるんだ?」

何も言えなかった。だってその通りだったから。変わったのは季節だけ。また休学したって何も変わらないことは自分が一番よくわかっていた。なのに、この時の私は辞める選択も、復学する選択もできなかった。
その先を考えるのがどうしようもなく怖くて。だから必死で自分と父に嘘をついた。


「やりたいことを見つける」


最低もいいところだ。本当はどうでもよくて、ただ過ぎていく日々に溺れて沈んでいくだけ。もう私なんて一生それでいいよ。

耐えられなくなった時は、その時は、もう。

そんな考えすら頭をよぎる状態だったのに、威勢のいい嘘はポンポン出てくるから滑稽だ。結局。これが最後の休学であること、この半年間で何かを見つけることを条件に後期までの休学延長が決まった。


私はもう、何もやりたくなかった。
沼の底は妙に温かくてそのまま依存した。

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