kissaame

禁煙中の同人初心者、小説を書いているよ。

kissaame

禁煙中の同人初心者、小説を書いているよ。

最近の記事

ハネムーンは天国へ

 抱えきれるだけのものをかき集めて小さな箱に入れていく。これは要る、こっちはやっぱりいいや、ひとり言を呟きながら荷造りをしていたら、愛猫が箱の蓋にごろりとお腹を出してにゃあと鳴いた。  艷やかで丸々とした金色の瞳に、何をしてるんだ、私を構いなさいという意思を感じて、彼女の毛皮を左手でゆっくりと撫でる。あたたかくてふかふかしていて、これが命の熱量なのだと手の甲に残った三本の並行した爪痕を眺めては獣の本能と強さに笑いがこみ上げてきた。  きっと、私の冷ややかな体温は彼女に分け与え

    • ある職人の死と私の後悔について

      彼はとても優しい人だった。 若く青く生意気だった私を、工場の中で黙々と作業していても優しい笑顔で出迎えてくれる、そんな珍しい昭和の職人のことを思い出したので自分の心の整理のために書いてみることにした。 彼は取引先の職人で、私との年齢差は孫と祖父くらい。職人気質だが優しい人、それが私の第一印象だったと思う。 セクハラパワハラノーカンな業界だったので、引き継ぎ挨拶で紹介されるたびに奇異の目を向けられてうんざりしていたが、彼は作業の手を止めて私のことをちらりと見て、よろしくねと表

      • ミュージカルゴースト&レディの感想、祈りとは何か

        先日ゴースト&レディを観た感想と震災関連について思ったことを書く。 ゴースト&レディとは藤田和日郎先生のゴーストアンドレディを原作としたミュージカルで、フローレンスナイチンゲールの人生を勇敢な幽霊が支えていたとしたら…というストーリー。 2つはそれぞれ表現方法が異なるため、漫画の忠実な再現ではないと作者が述べていたことを添えておく。 看護師という仕事は何の知識もない貧困女性たちが行うものだと差別され、病人たちは粗末な食事と不衛生な環境で死を待つばかり、そういった時代に戦争

        • 人生をともにしたBUCK-TICKへ、愛を込めて

          現実世界ではなかなか半年前に亡くなったアーティストへの生々しい悲しみを共有しづらい方もいると思うので、その中のひとりとして書きました。まとまらない文章ですが、誰かの涙に寄り添えればと思います。 BUCK-TICKの櫻井敦司さんが旅立ってから半年以上経過しても、心のなかにある悲しみがうまく整理できていない。 彼の音楽に初めて出会ったのは、夕暮れのテレビ画面越しだった。美しく彩られた口元から綴られる妖艶な言葉たちは、思春期の私にとって大きな衝撃を与えてくれた。 その後、年月を重

        ハネムーンは天国へ

          加害性について

          加害者を告発すると被害者ぶるし、依存症患者は本人が望まない限り治療できないし、向いてないことをやりたがる下手くそもおる。 加害も依存症だ。 習慣の全てはそれによって脳が心地良いか否かによって決められている。つまり、偉そうなことを言っていたとしても、大義名分役職立場がどうであれ、たった数キロの頭蓋に守られた弱々しい臓器の中、行ったり来たりする少量の分泌物によって決まるのだ。 法律の行き届かないアレコレについて、こっそりと自衛しなさいとしか言えなかった問題がSNSの発展により

          加害性について

          差別と区別と思いやりについて

          ちひろさんという漫画18話を読んだ。 主人公ちひろが勤務する弁当屋の店主の妻が体調を崩して入院し、失明して退院するところからこの話は始まる。 あれやこれやと気を遣われるのではなく、普段通り接してくれる人のほうがありがたいという言葉を妻は漏らしていて、確かになぁと合点がいくエピソードを思い出した。 ある日、駅で目撃したのだけれど、車椅子ユーザーが電車を降りようとするところに居合わせたサラリーマンが、扉の前に仁王立ちしてしまったのだ。慌てた様子だったので恐らく手伝おうか悩んだ結果

          差別と区別と思いやりについて

          ままならない、について

          この言葉を辞書で引くと、不自由さや思い通りにならないことと出てくる。 私の好きな作品の登場人物の口癖なのだが、現代ではあまり使う言葉ではないし、諦めをまとった陰気な雰囲気がどうにもなぁと思っていた。 しかしながら、彼ら(別の作品で二人の登場人物が使用していた)は、この言葉を難関へのスタートラインに置いてから、クラウチングスタイルを取っていたのだ。 「人生ってのはままならねぇってことに今更気付いちまったけどよ、やれるだけのことはやろうや、さて、どこから手を付けようかね。」

          ままならない、について