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【小説】まおとプラネタリウムーぼんやり見えるその先に 第3話 ココを楽しまなきゃ

 目の前に広がる見たことのない光景に、まおはプラネタリウムのドアの前で立ちすくんでいた。

「大丈夫?」
お兄さんが心配そうにまおの顔を見ている。
「恐竜が・・・飛び出してきそうで怖いなぁって。」
「あれは、そういう風に見える映像だから、実際には飛び出してこないから大丈夫だよ。」
「こんなの見たことないよ。でも、わたしでもよく見える。」
飛び出してこないと聞いて安心したまおは、だんだんこの見たことのないものばかりの光景に、自分の置かれている状況を忘れてわくわくしてきた。飛び出しているように見える恐竜のそばには、まおにもよく見える大きな文字で「恐竜の時代へようこそ」と書いてあるのがわかる。
「近くで見てもいいですか?」
まおはお兄さんにたずねた。
「いいよ。あ、すぐ戻ってくるからちょっとここで待っててね。」
お兄さんはそう言うと、急いでどこかに行った。まおはちょっと心細くなったけれど、近くを歩いてみた。さっきの恐竜の映像のそばの壁に、ボタンのようなものを見つけたまおは、恐る恐る押してみた。すると、まおのいる場所が恐竜のいた時代になったかのように、目の前の景色がパーッと変わり、目の前で恐竜たちが戦いを始めている光景が見えた。

ーこわいけど・・・これも映像?すごい!たのしい!ー

まおは、恐竜が苦手なはずなのに、なんだか胸がドキドキして楽しくなってきた。

「お待たせ。ボタン押してみたんだね。恐竜の時代を体験できるようになってるんだよ。はい、これあげる。」
そう言うと、お兄さんはまおに何かを手渡してきた。見えにくいまおは、受け取るまで何を渡されるのかわからない。手に取って、顔に近づけてやっとわかる。見たことのない薄い画面のようなもの。これはなんだろう?まおは首をかしげた。
「なに、これ?」
「きみが1996年から来たっていうからさ。タブレットを持ってきたから、これを帰るまで貸してあげる。」
「タブレット?」
「これで写真も撮れるし、撮った写真はあそこの機械ですぐに印刷できる。1996年に持って帰れるのかわからないけど。あと、色々調べてみたくなったら、これですぐに調べられるから。」
お兄さんは、まおにカメラの使い方を教えてくれた。まおは、画面に目をピタッと近づけて見てみた。
「もしかして、目が見えにくいの?」
お兄さんにそう言われて、まおは急に恥ずかしくなった。学校の友達や先生は、まおが顔を近づけて物を見る姿をいつも見ているし、理解してくれているから、そんな風に聞かれた経験が少なかったからだ。
 と同時に、まおは思い出した。まおの小学校では、プロフィール帳というものが流行っている。女子たちは、お気に入りのプロフィール帳を買ってきて、クラス全員に配って書いてもらう。プロフィール帳には、「名前」「生年月日」「星座」「好きな食べ物」「特技」「趣味」「配った人への第一印象」「コメント」など、沢山書く項目がある。そのなかで、「配った人への第一印象」の欄に、まおはだいたい「優しそうな子」とか「ニコニコしている子」と書かれていたが、一枚「目の悪い子」と書かれていたものがあった。それが小学生のまおには、すごく嫌でショックだった。

ー第一印象なんだから、目の悪い子じゃなくて、もっと違うところがよかったのに。そんなコメント嬉しくないよー

その出来事があったからーお兄さんもきっと同じだ、とまおは思った。
「弱視で、見えにくいの。」
まおはうつむきながら小さな声で答えた。お兄さんは、ニコっと笑って、優しく言った。
「そうなんだ。最初は全然気づかなかったんだけど、顔を近づけているのを見て、もしかしてそうかな?って思ったんだよ。ぼくのお母さんも弱視で、きみと同じように見てるから。」
まおは、えっ?と顔を上げた。
「タブレットを見るとき、同じように顔を近づけて見ているよ。あと、最近どんどん便利になってきて、目が見えにくくても困ることが少なくなったんだって。お母さん喜んでる。いっしょに館内見ながら、2032年のこと教えてあげるよ。」

ー目が見えにくくても困ることが少なくなったの?2032年ってどうなってるの?ー

〈第4話につづく〉

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