暗記して想いをのせるスピーチの魅力

最近はスピーチをする機会がめっきり減ってしまったが、20代の頃のわたしはスピーチが好きだった。

その場で考えて発言しなければいけないディスカッションや会議は、上手く言葉が出てこなくて少々苦手なのだが、事前にしっかりと準備をして本番に挑むことのできるスピーチは大好きだ。

スピーチが好きになったキッカケは何だろう？と考えてみると、以前も記事に書いた中学時代の百人一首大会の読み手や答辞を経験したことが大きいかもしれない。

同じ学年の数百人の前での百人一首の読み手。百人一首を全て暗記して、家で何度も何度も練習したから、本番は気持ちよく読み上げることができた。

卒業生や保護者、在校生の前での答辞。このときも、3分ほどの長さの原稿を、必死に覚えて、丸暗記。緊張は半端なかったが、丸暗記していたから、原稿を見なくても口からスラスラ出てきてホッとした。

この二つの経験があったから、わたしにとってスピーチ＝楽しいものと思えるようになったのだ。

20代になって、スピーチをする機会が増えた。

イベントでのスピーチや、結婚式の友人代表のスピーチなど、頼まれたものは喜んで引き受けてきた。

イベントでは、ちょっと長めのスピーチもあった。人の名前や略歴など丸暗記することは、充分な時間が必要であり、毎日、隙間時間にひたすら声に出して覚える。

覚えたあとは、どうやったら伝わりやすいか、声の出し方や感情ののせ方を考える。

その作業は、とても大変だったけれど、楽しくて充実した時間になったし、本番を終えたあとの達成感は半端なかった。

結婚式の友人代表のスピーチ。最初は、失敗が許されないというプレッシャーから、丸暗記はもちろんするけれど、大きな文字で書いた手紙を読もうと思っていた。

だけど、わたしのなかで、「目を近づけて読むこと」に抵抗を感じた。

「目を近づけて読むのって、顔がよく見えないし、かっこ悪いかな…」

「目が見えにくい親友って思われたら、友達嫌かな…」

こうゆうときに、普段は意識の遠いところにあるはずの【顔を近づけてものを読むことは、かっこ悪いのではないか】【弱視と悟られないようにうまくやらなければ】という意識が強く働いたことに驚いた。

だから、必死に丸暗記して、絶対に手紙は見ないでスピーチするぞと心に決めていた。

このときは、友人代表をするくらいだから、お手紙もスラスラ書けたし、気持ちをのせて書いたものだから、すぐに丸暗記できた。

丸暗記はできたけれど、充分頭に入っているけれど、これでもか！というほど声に出して練習をした。

「絶対に、弱視と悟られないように…」

当日は、念のため大きな文字で書いた手紙をバッグに忍ばせた。

自分の番までは、ドキドキがすごくて、ずっと顔が熱かった。

「～さんのご友人の…」

ご紹介されて席を立つ。「がんばってね」と他の友達がささやいて手を握ってくれた。

友人のすぐ隣に立ち、友人の方を見て気持ちを整えたら、さっきまでの緊張が嘘みたいに和らいできた。

心をこめて書いたお手紙、沢山暗唱したから、何も考えなくてもスラスラと言葉が出てくる。心を込めて気持ちをのせて書いたから、自然と感情も入る。

ーお手紙に顔を近づけることもなく、何も見ずにスピーチすることができたときー

よかったなぁという安堵感と共に、弱視だと悟られたくないから…お手紙に顔を近づけたらかっこ悪いから…なんて、そんな卑屈な情けないことを考えたことを恥ずかしく思った。

なぜか。

「自信をもって堂々とスピーチしたいからこそ、丸暗記する。そうすれば、緊張してても感情をのせられる」

卑屈な考え方を捨てて、そう思えばいいだけだったと気づいたからだ。

わたしは物事をついネガティブに捉えがちなときがある。

だけど、その物事のなかには、ポジティブな面もちゃんとあるのだ。

最近は、すっかりスピーチをする機会はなくなった。

もし、今後スピーチをする機会が訪れたら…

感情をのせてスピーチするために、伝えたいことを堂々と伝えるために、丸暗記をしてたくさん練習して本番に挑む！

そして

あの楽しさをまた味わいたい！！

いつかまた、何かの機会でスピーチできる日がきたら、今度は弱視である自分に胸を張って、誰かの前で堂々と話していたい。

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