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WSLで存在感を放った日本人選手の活躍をチェック (WSL 23/24シーズン総括5) :: WSL Watch #078

"WSL Watch 073"と"WSL Watch #075"と"WSL Watch #076"と"WSL Watch 077"に続くWSLの23/24シーズン総括の第5弾は、今シーズンのWSLでプレイした9人の日本人選手の活躍ぶりの振り返りを。

"WSL Watch 002"に「個人的には日本人選手だけに特に注目して観てるって感じじゃないんだけど、多くの選手がプレイしてるんで、せっかく日本語でWSLについて書いてるんだし、タイミングを見てちょっと触れていこうとは思ってる」って書いた通り、基本的にはあまり日本人だからって必要以上に注目したり強調したりはしてこなかった(つもりだ)けど、普通に観てても目を引くっていうか、贔屓目抜きでポジティブな存在感を示した選手が多かったって言っていいんじゃないかな、今シーズンのWSLをフラットな視点で振り返っても。で、紹介する順番に関してはあまり深い意味はないけど、今シーズンの所属チームの順位(同じチームの選手は背番号の順番)って感じで。ちなみに、データは全てFBrefのモノ。

優勝を引き寄せる貴重なゴールを決めた浜野まいか

浜野まいか(チェルシー #23)
▶︎ 出場試合 6試合(スタメン 3試合)
▶︎ 出場時間 314分
▶︎ 2ゴール / 0アシスト

22/23シーズンの1月の移籍ウィンドウでチェルシーに加入したけど、22/23シーズン後半はスウェーデンのハンマルビーIFにローン移籍してプレイしてたからチェルシーでプレイした初めてのシーズンで、リーグ戦出場が6試合(スタメンは3試合)で2ゴール+0アシスト。UEFAウィメンズ・チャンピオンズリーグの登録メンバーに入れなかったことも含めて物足りなかったって言い方もできるけど、シーズン前半はケガもあったみたいだし、まだ20歳だし、選手層が異常に厚いチームってことを考えるとそこまで悪くなかったって印象かな。シーズン終盤に徐々に出場機会もプレイ時間も増えてたって傾向も含めて。シーズンを通じて観てみると、やっぱりチェルシーの選手の質と数の凄さを痛感させられたし。ただ、忘れちゃいけないのが、優勝争いの佳境かつ過密日程の中で行われた18節のトッテナム・ホットスパー戦での貴重なゴール。この試合唯一の得点で決勝点だったからこの試合で勝点3を得るための重要なゴールだったのはもちろんだけど、それだけじゃなくて、結果的に今シーズンのチェルシーのリーグ優勝にとってもものすごく大事な勝利、大事なゴールになったんで。シーズンを通じて主力として活躍したとは言えないけど、限られた出場機会でもチェルシーってチームで十分仕事ができるってことは示せたんじゃないかな。チェルシーはリヨンの監督だったソニア・ボンパストル(Sonia Bompastor)が監督に就任することが正式に発表されたから戦術とか選手の序列とかも変わると思うけど、愛されキャラっぽいところも含めて、来シーズンは今シーズン以上の活躍を期待したくなっちゃう感じはしてるかな。

シティのサッカーの中心に君臨する長谷川唯

長谷川唯(マンチェスター・シティ #25)
▶︎ 出場試合 22試合(スタメン 22試合)
▶︎ 出場時間 1,943分
▶︎ 0ゴール / 3アシスト

21/22シーズンにウェスト・ハム・ユナイテッドに加入してリーグ戦17試合に出場、22/23シーズンにマンチェスター・シティに移籍してリーグ戦20試合に出場してプロ・サッカー選手協会が選ぶベスト11に選出されたっていうのがこれまでのWSLでの経歴で、今シーズンはWSLでは3シーズン目、マンチェスター・シティでは2シーズン目ってことなんだけど、今シーズンのリーグ戦は全22試合に出場してて、"WSL Watch #008"で言及したように、ポジショナル・プレイをベースにした保持型のチームの最重要ポジションって言ってもいい4-3-3のCMFとして絶対的な存在として活躍してたって言っていいんじゃないかな。特筆すべきは出場試合数と出場時間がチームのフィールド・プレイヤーでトップだったってこと。GKのキアラ・キーティング(Khiara Keating)だけはフルタイム出場だったんだけど、フィールド・プレイヤーで全試合出場は1人だけだし、1,943分って出場時間も突出してる。ポジションがポジションだから数字としては0ゴール+3アシスト(コンチ・カップでは見事なゴールがあった)なんだけど貢献度は絶大だし、WSLの中でも質が高いマンチェスター・シティのサッカーを支える中心的な存在って感じ。日本人選手って枠で別格なだけじゃなく、WSL全体を見てもちょっと特別っていうか、存在感は抜けてたかな、やっぱり。

安定したプレイでリヴァプールの躍進に貢献した長野風花

長野風花(リヴァプール #8)
▶︎ 出場試合 21試合(スタメン 21試合)
▶︎ 出場時間 1,841分
▶︎ 0ゴール / 0アシスト

昨シーズンの冬の移籍ウィンドウで加入してリーグ戦11試合に出場して迎えた今シーズン、つまり、初めてフルでプレイするシーズンって感じだったけど、CMFとしてリーグ戦21試合に出場して、"WSL Watch #076"でも言及したリヴァプールの躍進に大きく貢献したって言っていいんじゃないかな。欠場した試合はたしかケガだったと思うけど、出場時間1,841分って数字はチーム内で2位だったりするんで、押しも押されぬ主力として活躍したって言っていいはず。基本的には非保持型のチームだから攻撃面での良さはそれほど出せてないのかもしれないし、ポジションとタスクを考えてもゴールとかアシストとかにわかりやすく数字で表れる感じじゃないんだけど、プレイ時間の長さこそ監督とチームからの信頼の証だと思うんで。現地実況とかでは「オン・ザ・ボールでチームに落ちつきをもたらす貴重な存在」みたいな言われ方をしてることが多いんだけど、個人的には保持局面だけじゃなく、非保持局面でもトランジション局面でも安定したパフォーマンスをいつもできてるのが凄いなって感じ。もうちょっと目立つ仕事ができるようになるともうワンランク上の選手になれるのかもしれないけど、チーム自体の流れもいいし、来シーズンはもっと期待できそう。

ケガの影響もあって本領を発揮できなかった宮澤ひなた

宮澤ひなた(マンチェスター・ユナイテッド #20)
▶︎ 出場試合 12試合(スタメン 6試合)
▶︎ 出場時間 532分
▶︎ 1ゴール / 1アシスト

今シーズン新たに加入してリーグ戦12試合に出場して1ゴール+1アシストって数字だったんで、全体としては不完全燃焼って感じだったかな。本人が望むかどうかとは関係なく、'FIFAウィメンズ・ワールド・カップの得点王'って期待はやっぱりあったと思うし。もちろん、日本代表の期間に大きなケガをしちゃって、しかも、ちょうど出場機会が増えてきたタイミングだったから、アンラッキーだったとは思うけど。引き分けた2節のアーセナル戦でいきなりアシストを記録してたし、ちょうどケガしちゃう前のタイミングだったかな? 今シーズンのマンチェスター・ユナイテッドのプレイモデルについて"WSL Watch 013"でも言及したけど、宮澤ひなたを4-3-3のインサイドMFに置くカタチがハマりつつある感じだったから、やっぱりケガが本当に痛かったんだけど。マンチェスター・ユナイテッドに関しては、そもそもチーム自体のオーナー問題なんかもあったりするし、マーク・スキナー(Marc Skinner)監督の契約延長は発表されたけど、来シーズンに関してはちょっと見えないところが多いっつうか、「今シーズン作ったベースに上積みを」みたいな感じはあまりない印象。主力選手の去就の噂なんかもけっこうあるし。あと、"WSL Watch 051"でも取り上げたけど、ローン先のトッテナム・ホットスパーでブレイクしたグレイス・クリントン(Grace Clinton)の復帰があるかどうかも大きいと思うし。いろんな意味であまり見えない感じだからこそ、このリーグ、このチームでどういう武器をどう活かせばいいかを見極めるって部分も含めて、宮澤ひなたにとって来シーズンは勝負のシーズンになりそうかな。

加入直後から確実にポジションをつかんだ宝田沙織

宝田沙織(レスター・シティ #15)
▶︎ 出場試合 12試合(スタメン 11試合)
▶︎ 出場時間 964分
▶︎ 1ゴール / 1アシスト

"WSL Watch #034"でも触れてる通り10節まで消化してた1月の移籍ウィンドウでチームに加入して、主に4-2-3-1か4-3-3のCMFとしてリーグ戦12試合に出場(スタメンは11試合)で1ゴール+1アシストって数字なんで、しっかり主力選手としてのポジションは確保できたって言っていい感じ。12試合だから最大で1,080分なんだけど、964分出場って数字は十分立派だと思うし。実際のプレイに関しては、「全然問題なくやれてるじゃん」って感じと「やっぱりフィジカル・バトルでちょっと苦労してるな」って感じが両方あったかな、正直なところ。もちろん、対戦相手との力関係とか具体的にマッチアップする選手とかって要素もあるし、レスター・シティはチームの成績じゃない問題で監督交代があったりもしたんで、いろいろ難しかったとは思うけど。個人的にはレスター・シティ加入以前のプレイってそれほど観たことがなかったから先入観とか予備知識とかがない状態でわりとフラットに観てた感じなんだけど、サイズもあって強度もあって、左右に振り分けるパスだけじゃなく挿し込むパスも出せて、スケールの大きなCMF、いわゆるアンカーとしてのポテンシャルはすごく感じたかな。ゴールとかアシストとかに積極的に関わろうって意識もすごく出てたし。とりあえず、レスター・シティは監督人事がどうなるのかまだあんまり見えてない感じではあるけど、宝田沙織自身に関しては来シーズンの活躍が素直に楽しみ。

左足のキックで違いを生み出せることを証明した籾木結花

籾木結花(レスター・シティ #29)
▶︎ 出場試合 12試合(スタメン 11試合)
▶︎ 出場時間 955分
▶︎ 2ゴール / 3アシスト

"WSL Watch #034"でも触れてる通り10節まで消化してた1月の移籍ウィンドウでチームに加入して、主に4-2-3-1のWGだったり4-3-3のWGかインサイドMFとしてリーグ戦12試合に出場(スタメンは11試合)で2ゴール+3アシストって数字なんで、同じタイミングで加入した宝田沙織と同じようにしっかり主力選手としてのポジションは確保できたって言っていい感じ。出場時間に関しても12試合で最大1,080分の内の955分出場してて、宝田沙織よりはちょっと少ないけど、ポジション的に交代枠が使われがちって点を考えると十分立派な数字だし。WSLプレイする日本人選手の増加について言及した『BBC』の記事を紹介した"WSL Watch #038"でもちょっと触れた通り、スウェーデンのリンシェーピングでプレイしてた宝田沙織をレスター・シティが追いかけてる中で同じチームの籾木結花を見つけて獲得に至ったらしいんだけど、すぐに持ち味をわかりやすく印象付けられたのは宝田沙織よりも籾木結花だった印象だったりしたかな。もちろん、ポジションが違うし、年齢とかキャリアも違うから単純に比較できるものじゃないと思うけど、ざっくりとした印象だけで言うと。やっぱり、左足のキックは上手くて長短のパスで攻撃を活性化させることができるし、背は低いけど身体の強さとか相手選手との間合いに潜り込むような上手さは持ってるし、得点に関わろうって意識も強いし。パスとかクロスだったりシュートだったりドリブルでの仕掛けだったりだけじゃなく、ビルドアップとか守備とかの貢献度も高くて。ある程度以上の時間ピッチに立ってれば、毎試合何回か確実に見せ場を作れる、違いを見せれる選手って感じ。普通にフル・シーズン稼働できればゴールとアシストで10〜15点くらいには関与するんじゃないかな。個人的にはWGよりもインサイドMF起用のほうが良さが出る、特にボックス幅でプレイしてより得点を決めるほうが合ってる感じがしてるけど。ビルドアップに関わる、特に後ろの選手がちょっと困ってるときに助けてあげるプレイも上手いし。来シーズンの監督とか戦術とか、まだ見えない部分があるからあまり具体的なことはイメージできないけど、とりあえず個の能力としては十分存在感が出せることを今シーズンの12試合で証明したんじゃないかな。

フルタイム出場して残留に貢献した清水梨沙

清水梨沙(ウェスト・ハム・ユナイテッド #3)
▶︎ 出場試合 22試合(スタメン 22試合)
▶︎ 出場時間 1,980分
▶︎ 1ゴール / 0アシスト

22/23シーズンに長谷川唯と入れ替わるタイミングで林穂之香と共に加入してリーグ戦全試合に出場して迎えた2シーズン目だったけど、驚異の1,980分フルタイム出場を達成。ちなみに、フルタイム出場はリーグ全体でも7人(フィールド・プレイヤーは5人)だけで、もちろん日本人選手でも他にはいない。数字的には1ゴール+0アシストだったけど、4バックの右SBとか3バックの右WBだけじゃなく右CBとかCMFでも起用されてて、基本的には残留争いをしてたチームの中で守備の大黒柱としてフル回転の活躍を見せてた印象かな、今シーズンも。デュエルで弾き飛ばされたりスピードで置いてかれちゃうシーンがないわけじゃないけど、それでもすぐに立ち上がってプレイを続ける献身性は観てて頭が下がる感じだし。個人的には、味方のWGの選手がボールを持ったときに画面の端から颯爽とスプリントで現れて、オーバーラップしたけど使ってもらえなくて、それでも不満そうな態度とかを一切見せず清々しくスプリントで戻ってく姿がすごく好きなんだけど、今シーズンのウェスト・ハム・ユナイテッドではポジション的にも闘い方的にもそういう良さがあまり観られなかったのがちょっと残念だったかな。もちろん、本人の問題ってよりもチームの問題だと思うけど。シーズン終了後には移籍の報道なんかも出てたんで今後の去就も気になるところだけど、とりあえず、今シーズンのプレイぶりに関しては文句の付けようがないっていうか、相変わらずのハイ・パフォーマンスだったし、ウェスト・ハム・ユナイテッドの残留に大きく貢献したって言っていいはず。

攻守にハードワークしてインパクトを残した植木理子

植木理子(ウェスト・ハム・ユナイテッド #9)
▶︎ 出場試合 22試合(スタメン 22試合)
▶︎ 出場時間 1,868分
▶︎ 6ゴール / 1アシスト

加入1シーズン目で全22試合スタメン出場で6ゴール+1アシストを記録、出場時間はチーム4位の1,868分だから十分に主力選手として活躍したって感じかな。ちなみに、リーグ戦6ゴールはチェルシー時代のチ・ソヨン(Ji So-yun)と並んでアジア人選手では最多ってたしか現地実況が言ってた気がする(ただし、AFC加盟国だからサッカー界的にはアジアになるはずのオーストラリア人選手まで含めて発言したのかは謎)。ともあれ、加入して1シーズン目でチーム内で1位タイの得点数は立派だし、どうしても守備をする時間が長くなるチームで守備でも目一杯貢献しながら攻撃でも果敢に屈強な選手たちに挑んでで、貢献度も存在感も抜群だったんじゃないかな。ヨーロッパでプレイする攻撃的な日本人選手って、基本的にはオン・ザ・ボールでのクオリティが売りで、ボールをあまり持てないチームだと良さが出しにくいって傾向が男女問わずあると思うけど、植木理子は攻撃面での武器はありつつも非保持の局面でもチームの大きく貢献できるっていう稀有な個性を持ってる感じで。たしか90分当たりの空中戦数はリーグ最多だったってどこかで見た気がするけど、出し惜しみせずにエネルギーを出し切るスタイルは観てて好感が持てるし、現地のファンにも愛されてる感じがする。

守備に加えて攻撃でも存在感を発揮した林穂之香

林穂之香(ウェスト・ハム・ユナイテッド #19)
▶︎ 出場試合 21試合(スタメン 21試合)
▶︎ 出場時間 1,670分
▶︎ 2ゴール / 3アシスト

22/23シーズンに長谷川唯と入れ替わるタイミングで清水梨沙と共に加入してリーグ戦全試合に出場して迎えた2シーズン目だったけど、21試合に全てスタメンで出てて、出場時間はチーム5位の1,670分、2ゴール+3アシストを記録してるんで、すっかりチームの中心選手って言っていい活躍だったんじゃないかな。アーセナル戦で見せたフィフィアネ・ミデマー(Vivianne Miedema)の突破を止めた見事な守備はインパクト抜群だったし。基本的にCMF起用で、平均保持率がリーグ11位のチームだからほぼほぼ'守備的MF'って役割なんだけど、それでも2ゴール+3アシストって数字を残したのは立派だと思うし。シーズン通して20点しか取れてないチームの5点に関与してるんだから。たしかチェルシー戦だったかな? 誤審でオフサイドになっちゃった幻のゴールもあったし。昨シーズンと変わらず守備ではハードワークしながら、昨シーズン以上に攻撃の面で良さを見せたって意味で、チームとしてはいろいろ苦しかったけど、個人としては充実したシーズンだったんじゃないかな。

WSLでプレイする選手の数を国別で見ると...

「さすがに9人もいると、WSLの日本人選手って、それなりに大きな勢力なんじゃね?」って思って国別の選手数を確認してみたら、上位15カ国は以下のような感じらしい。

  1. イングランド 125人

  2. オーストラリア 16人

  3. スコットランド 15人

  4. ウェールズ 15人

  5. アイルランド 14人

  6. スウェーデン 14人

  7. ノルウェー 12人

  8. デンマーク 10人

  9. カナダ 10人

  10. 日本 9人

  11. オランダ 9人

  12. ドイツ 8人

  13. アメリカ 8人

  14. フランス 7人

  15. スペイン 6人

イングランドが圧倒的に多くて、スコットランドとかウェールズとかアイルランドも多いのは当然としても、オーストラリアの多さがけっこう目を引くかな。あとは、北欧のスウェーデンとノルウェーとデンマーク。もちろん、観てて多いって印象はあるけど。カナダもたしかに多いけど、オランダが日本と同じっていうのはちょっと意外? とか思ったり。あと、ブラジルとか韓国とかイタリアが少ないのもちょっとビックリしたり。ブラジル人選手はアメリカのNWSLにたくさんいる印象はあるけど。ともあれ、日本もそれなりに存在感があるくらいには大きな勢力って言えそうかな? みんなかなり活躍してるし、今後も増えそうな気もするし。



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