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移籍マーケットの総括とシーズン(ほぼ)後半戦の展望 :: WSL Watch #034

"WSL Watch #021"で冬の移籍マーケットの動きを主にWSLのチームに加入した選手を中心にまとめたけど、ようやく移籍ウィンドウが閉まったんで、何日か経っちゃったけど移籍マーケットでの各クラブの動きを総括しつつ、今後のシーズンを展望してみようかな、と。内容的には、ウィンター・ブレイクが明けるタイミングで書いた"WSL Watch #031"のアップデート的な感じになりそうだけど。率直な印象としては、冬の移籍マーケットとしてはけっこう活発だった? って思ってるけど。ウィンター・ブレイク前までを総括した"WSL Watch #026"を'ほぼ'前半戦って書いたように、ウィンター・ブレイク明けで移籍マーケットが開いてる間にリーグ戦が3試合消化されててとっくに2巡目に入ってるんで、'ほぼ'後半戦(もしくは'残り1/3ちょい')ってことになるんだけど。

サム・カーとジル・ロードの長期離脱

ウィンター・ブレイク〜中断明け直後の時期に起こった大きなトピックとして、最初に挙げなきゃいけないのがチェルシーの絶対的なエース・ストライカーのサム・カー(Sam Kerr)、マンチェスター・シティに夏に加入して期待通りの活躍を見せてたジル・ロード(Jill Roord)の2人がそれぞれいわゆるACL、つまり前十字靭帯断絶って負傷で長期離脱を余儀なくされたってことがある。もちろん、2人とも優勝争いをしてる上位チームの主力ってだけじゃなく、間違いなくWSLを代表するスター選手なんで、ただただ残念なニュースとしか言えないんだけど。ただ、当然だけど今シーズンの優勝争いへの影響が大きいし、移籍マーケットでの動きも含めて注目ポイントだったのは間違いないかな、と。

王者らしい補強をしたチェルシー

エース・ストライカーのサム・カーの長期離脱で欠くチェルシーは、スペインのレバンテからコロンビア代表FWのマイラ・ラミレス(Mayra Ramírez)をウィメンズ・フットボール史上最高額で獲得。レバンテでは37出場で21ゴール、コロンビア代表としても昨年のFIFAウィメンズ・ワールドカップの5試合を含む30キャップ、まだ24歳で180cm近いサイズがある強力な万能型のストライカーを獲っちゃうあたりはさすがチェルシーって感じ。12節のブライトン&ホーヴ・アルビオン戦で途中出場でさっそくチェルシーでのデビューを果たしたけど、やっぱり存在感っていうか、オーラはすごかったかな。

あと、エヴァートンから獲得したスウェーデン代表DFのナタリー・ビョルン(Nathalie Björn)もリーグ戦2試合に出場してて、さっそく期待通りの活躍を見せてたし。イングランド代表のミリー・ブライト(Millie Bright)が負傷で離脱しちゃってる最終ラインを支える貴重な戦力になってるし、あと、今シーズンのトリッキーな要素として、"WSL Watch #021"の中のアーセナルに加入したサラ・ブアティのところでも触れた2月末〜3月頭のCONCACAF Wゴールド・カップでカナダ代表としてカデイシャ・ブキャナン(Kadeisha Buchanan)とアシュリー・ローレンス(Ashley Lawrence)が抜ける時期があることを想定した獲得みたいなんだけど、同じリーグのチームから主力を当たり前のように引き抜いてるのが王者っぽいな...って思っちゃった。

チェルシーでちょっと驚いたのは25歳のカナダ代表MFのジェシー・フレミング(Jessie Fleming)がアメリカのポートランド・ソーンズに完全移籍したことかな。今シーズンはちょっと途中出場が多かったけど近年のチェルシーでは普通に主力って印象だったんで。逆に言うと、このくらいのスペックの選手がちょっとでも出場時間を減らすといくらでも欲しがるチームがあるってことなのかもしれないけど。あと、チェルシーはいろいろな選手をローンで出してるんだけど、浜野まいかは今シーズンの残りもチェルシーに残ってプレイすることになるっぽい。

新戦力が早くもインパクトを残してるアーセナル

アーセナルは基本的にはピンポイントで動いたって印象。スイス代表DFのノエル・マリッツ(Noelle Maritz)が完全移籍でアストン・ヴィラに移籍してちょっとビックリしてたら、アメリカのノース・カロライナ・カレッジからアメリカ代表DFのエミリー・フォックス(Emily Fox)を獲得したんだけど、エミリー・フォックスは12節のリヴァプール戦に右SBとして出てさっそく2得点に絡む活躍を見せてて。ちょっとイジワルな言い方をすると、しっかり上位互換って感じがしちゃった。

デンマーク代表MFのキャサリン・モーラー・キュール(Kathrine Møller Kühl)がローンでエヴァートンに移籍したのにもちょっと驚いたけど、今シーズンの出場は出場時間を減らしてたんで、アーセナルの選手層の厚さを考えると理解できる感じではあるのかな。

あと、元スコットランド代表CBのジェニファー・ビーティ(Jen Beattie)がチームを去ることになったのもわりと大きなニュースかな。現在32歳で2009年から在籍してたベテランで、今シーズンは出番が減ってたんで基本的には仕方ない系なんだと思うけど。ちなみに、移籍先はアメリカのベイFCとのこと。

今シーズンのアーセナルは、ベス・ミード(Beth Mead)とフィフィアネ・ミデマー(Vivianne Miedema)とリア・ウィリアムソン(Leah Williamson)の3人が長期離脱から復帰したシーズンなんで戦力はかなり充実してて、やっぱり打倒チェルシーの最有力候補って感じはあるかな。

デッドライン・デイに大きく動いたマンチェスター・シティ

ウィンター・ブレイクに入っても特に動きがなくて、中断明けの移籍期間の締切直前にジル・ロードを負傷で失ったマンチェスター・シティは、デッドライン・デイにポピー・プリチャード(Poppy Pritchard)とタラ・オハンロン(Tara O'Hanlon)とローラ・ブリンドキルデ・ブラウン(Laura Blindkilde Brown)の獲得を発表。その数日前からSNSなんかで噂は見かけたけど、ポピー・プリチャードとタラ・オハンロンが18歳、ローラ・ブリンドキルデ・ブラウンが20歳の若手だったりもするし、ある程度準備をせずにいきなり3人っていうのもそもそも考えにくいし、移籍期間の締切直前に主力選手が長期離脱したから慌てて補強した、いわゆる'パニック・バイ'ってわけじゃなさそうかな。

年齢・実績・ポジションを考えると、3人の中でジル・ロード離脱の穴を埋める役割が期待されそうなのはローラ・ブリンドキルデ・ブラウン。現地メディアの反応なんかも大きくて、今後がすごく期待されてる逸材らしいんで、どのくらいのタイミングで試合に絡んでくるのか、素直にすごく楽しみ。

あと、移籍マーケットの話じゃないけど、長谷川唯の契約延長もこの時期に発表されてた。まあ、普通に主力選手として大活躍してるんで別に驚きはないけど、今後もマンチェスター・シティで長谷川唯のプレイが観れるのはシンプルに嬉しい限り。オフィシャル・サイトにはチームメイトとかスタッフとか現地メディアのコメントも紹介されてたりして。

長谷川唯っていえば、13節のレスター・シティ戦で籾木結花との対戦が実現したんだけど、日テレ・東京ヴェルディベレーザで11年一緒にプレイした仲らしくて、2人ともすごく嬉しそうだったりして。

ちなみに、冬の移籍ウィンドウでマンチェスター・シティからはヴェネズエラ代表MFのデイナ・カステラノス(Deyna Castellanos)がアメリカのベイFCに移籍してる。アグレッシブなプレイとテクニックが持ち味の24歳の攻撃的なMFで、昨シーズンまでは4-3-3のインサイドMFで起用されることが多かったけど、ジル・ロードの加入もあって今シーズンは明らかに出場機会を減らしてた。個人的には強気なスタイルがけっこう好きだったし、「ジル・ロードの穴を埋める意味でも今までよりは出場機会が増えるんじゃね?」って思ってたんだけど、移籍って言われるとそれはそれで納得感もあるかな。移籍先のベイFCは新シーズンからNWSLに加盟する新チームらしくて、バルセロナから移籍したナイジェリア代表FWのアシサト・オショアラ(Asisat Oshoala)と並んでデイナ・カステラノスは補強の目玉みたいに報道されてたりする。

そういえば、マンチェスター・シティは1月24日にウィメンズ・チーム設立10年を迎えたんだとか。

素早く積極的な動きを見せたスパーズ

今回の移籍ウィンドウで素早くアグレッシブな動きを見せた印象があるのがトッテナム・ホットスパー。12月の時点で早々に発表された中国代表MFのワン・シュアン(Wang Shuang / 王霜)のアメリカのNWSLのレーシング・ルイビルからの加入を筆頭に、争奪戦になってたらしいスウェーデン代表のマチルダ・ヴィンバーグ(Matilda Vinberg)をスウェーデンのハンマルビーIFから、オーストラリア代表DFのシャーロット・グラント(Charlotte Grant)をスウェーデンのヴィットショーGIKから、スウェーデン代表DFのアマンダ・ニルデン(Amanda Nildén)をユヴェントスから、それぞれ比較的早い時期に獲得動き発表して、中断明けの試合で早くも積極的に起用してる。ワン・シュアン以外の3人に関しては、スウェーデン人選手だったりスウェーデンのリーグでプレイしてたりスウェーデンに縁がある選手で、基本的にはスウェーデン人のロバート・ヴィラハム(Robert Vilahamn)監督のルートってことになるんだろうけど、若い選手が多いし、プレイモデルの面でもコミュニケーションの面でもやりやすいだろうし、今シーズンのグッド・サプライズのひとつだったトッテナム・ホットスパーはますます楽しみな感じ。

ちなみに、インがいれば当然アウトもいるわけで、何人かの選手が移籍してて、移籍先がWSLのチームの選手だと31歳のカナダ代表DFのシェリナ・ザドルスキー(Shelina Zadorsky)がウェスト・ハム・ユナイテッドに、22歳のイングランド人DFのアスミタ・エール(Asmita Ale)がレスター・シティにそれぞれ今シーズン終了までのローンで移籍してる。

宝田と籾木が早くもフィットしたレスター

新加入選手が早くも躍動してるチームとしては、レスター・シティも目立ってるかな。もちろん、目玉は(たまたまなんだろうけど)それぞれスウェーデンのリンシェーピングFCから加入した宝田沙織と籾木結花の日本人選手2人。中断明けの試合でさっそく2人とも出場時間をけっこう得てて、宝田沙織は主に4-2-3-1か4-3-3のCMF、籾木結花は4-2-3-1でも4-3-3でもWGとインサイドで起用されて、かなり存在感を放ってる。基本的には相手との力関係とか噛み合わせで4-2-3-1と4-3-3の併用っぽいけど、個人的には宝田沙織がCMFで籾木結花がインサイトMFの4-3-3が一番面白そうな気がしてる。ともあれ、すっかり主力って感じなのは間違いないし、籾木結花は早くもサポーターが選ぶプレイヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれたりもしてる。

宝田沙織と籾木結花に加えて、22歳のイングランド人DFのアスミタ・エール(Asmita Ale)がトッテナム・ホットスパーから今シーズン終了までのローンで、19歳のスウェーデン人MFのエミリア・ペルガンダー(Emilia Pelgander)がスウェーデンのKIFエーレブルーから加入してる。まだ試合には出てないんだけど2人とも若いし、これからどのくらい試合に絡んでくるのか楽しみな存在かな。

残留のために即戦力を補強したウェスト・ハム

ウィンター・ブレイクに入った時点で最下位のブリストル・シティと同勝点で11位だったウェスト・ハム・ユナイテッドは、リーグ戦再開後のブリストル・シティとの6ポインターで勝利して勝点3差に広げることに成功、しかも、その次のアーセナル戦で大金星を挙げて連勝を飾って、残留争いを考えるとものすごく貴重な勝点6を得たんだけど、その大きな要因として冬の移籍ウィンドウでの積極的な動きが挙げられそう。端的に言って、実効性が高そうな現実的な補強をしたチームって感じで。

アメリカのNWSLのNJ/NYゴッサムFCからアメリカ代表MFのクリスティ・ミュイス(Kristie Mewis)、トッテナム・ホットスパーからカナダ代表DFのシェリナ・ザドルスキー(Shelina Zadorsky)、スウェーデンのヴィットショーGIKからオーストラリア代表MFのカトリーナ・ゴリー(Katrina Gorry)の3人が加入しただけじゃなく、デッドライン・デイにはBKヘッケンFFから24歳のスウェーデン人MFのマリカ・バーグマン・ランディン(Marika Bergman Lundin)まで獲得。特にクリスティ・ミュイスとシェリナ・ザドルスキーとカトリーナ・ゴリーは経験豊富なベテランで、中断明けの試合でもうバリバリ主力としてプレイしてる。マリカ・バーグマン・ランディンはまだ試合には出てないけど、前所属のBKヘッケンFFでは今週まで行われてたUEFAウィメンズ・チャンピオンズ・リーグのグループ・リーグ全6試合に出場してた選手なんで、チームに馴れればけっこう大きな力になってくれそう。

個人的には、特にカトリーナ・ゴリーの活躍が嬉しいかな。オーストラリア代表MFのカイラ・クーニー・クロス(Kyra Cooney-Cross)を紹介した"WSL Watch #012"の中で、FIFAウィメンズ・ワールドカップでのオーストラリア代表の中でも特に目を引いたのがカイラ・クーニー・クロスとカトリーナ・ゴリーのCMFコンビだったことに触れて、「ゴリーはもう31歳だからさすがにこれからWSLに来たりはしなさそうだけど」なんて書いたくらいなんだけど、まさかのウェスト・ハム・ユナイテッド加入、しかも、実際に試合に出たら期待以上の大活躍で。アーセナルに勝っちゃった13節ではサポーターが選ぶプレイヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれたりもしてるんだけど、この試合ではカイラ・クーニー・クロスとの対戦まで実現しちゃって、個人的にはけっこう感慨深かったりして。

ちなみに、清水梨沙と林穂之香と植木理子の3人は新戦力加入後も変わらず主力として試合に出てる。特に、林穂之香はブリストル・シティとの6ポインターで値千金の先制ゴールまで決めてて、守る時間が長かったアーセナル戦でも相手の決定機をギリギリで防いだり、PKを誘発した植木理子へのパスを出したり、攻守に出色の出来だったかな。ちなみに、ブリストル・シティ戦ではウェスト・ハム・ユナイテッドは(たぶん今シーズン初めてだと思うけど)4バックでプレイしてて清水梨沙は久しぶりに右SBでプレイしてたんだけど、次のアーセナル戦では3バックだったんで併用する感じなんだろうけど、とりあえず、冬の移籍ウィンドウでの補強のおかげで清水梨沙がCMF起用されるような事態はさすがに減りそうかな? なんてちょっと期待してたりもする。

残留を目指す昇格チームのブリストル・シティ

厳しい残留争いを闘うブリストル・シティも積極的な動きを見せたんだけど、その中でもビックリしたのは残留争いの直接のライバルのウェスト・ハム・ユナイテッドからスコットランド代表MFのリサ・エヴァンス(Lisa Evans)を獲得したこと。しかも、敗れた12節のウェスト・ハム・ユナイテッドとの6ポインターにもさっそく出てたりして。もちろん、経験豊富な歴戦の強者って感じの選手だからブリストル・シティにとってはものすごく頼もしいと思うけど。

あと、スウェーデンのヴィットショーGIKからカナダ代表MFのサラ・ストラティガス(Sarah Stratigakis)、アメリカのサン・ディエゴ・ウェーブからアメリカ人GKのシェイ・ヤネズ(Shae Yanez)も獲得してて、サラ・ストラティガスは途中出場だったけど既にデビュー済み、シェイ・ヤネズはスタメンで3試合連続スタメン起用なんで、基本的には1stチョイスのGKって認識でいいっぽい。

12節のウェスト・ハム・ユナイテッドとの6ポインターは落としちゃったけど、内容的にはそこまで差があったようには見えなかったし、今シーズンの直接対決の結果は1勝1敗で、もう直接対決がない以上、上位のチームからどれだけ勝点を奪えるか、新戦力のフィット具合も含めてまだまだ注目かな、と。あと、降格チームなのにけっこうホームゲームの入場者数が多いのも魅力だし。

興味深い補強が多いエヴァートン

エヴァートンも移籍マーケットでわりと積極的に動いたチームで、スウェーデン代表DFのナタリー・ビョルン(Nathalie Björn)がチェルシーにステップアップしちゃったのはけっこう痛いけど、アーセナルからデンマーク代表MFのキャサリン・モーラー・キュール(Kathrine Møller Kühl)が今シーズン終了までのローンで加入、さらにアメリカから2人、ノース・カロライナ・カレッジからデンマーク代表FWのリッケ・マドセン(Rikke Madsen)、ネブラスカ大学のネブラスカ・ハスカーズでプレイしてた21歳のイングランド人FWのエレノア・デイル(Eleanor Dale)を獲得。エレノア・デイル以外の2人は移籍発表当日のFAカップでさっそく試合にも出てる。

エヴァートンはもともとデンマーク代表選手が多くて、監督のブライアン・ソレンセン(Brian Sørensen)もデンマーク人で、しかもキャサリン・モーラー・キュールが所属してたときの監督だったりもするらしいんだけど、今回のデンマーク人選手2人、しかも現役の代表選手を加えたってことで、この路線はさらに強まりそうな感じ。あと、もうひとつ面白いなって思ったのは、エレノア・デイルみたいにアメリカの大学でプレイしてたヨーロッパ出身の選手の獲得にも力を入れてるらしいって点で、今まで知らなかったけどエマ・ビッセル(Emma Bissell)とヘザー・ペイン(Heather Payne)もそうらしくて、ウィメンズ・フットボールならではって部分も含めて、意図的にこういうルートにも力を入れてるって、ちょっと興味深いチーム作りだな、と。

巻き返しを図るアストンヴィラ

シーズン序盤に躓いたものの年末に立て直して残留争いからは抜け出した感があるアストン・ヴィラは、アーセナルで活躍してたスイス代表DFのノエル・マリッツを完全移籍で獲得。スイス代表でも100キャップを超えてて、アーセナルでも主力としてバリバリ試合に出てた実力派SBだから発表されたときはビックリしたし、アーセナルがエミリー・フォックスを獲得したから押し出されちゃった感じなのかもしれないけど、どっちにしてもアストン・ヴィラにとっては大きい補強って言えるはず。アストン・ヴィラはもう1人、リヴァプールから23歳のイングランド代表MFのミリ・テイラー(Miri Taylor)をローンで獲ってるんだけど、この移籍はローラ・ブラインドキルデ・ブラウンのマンチェスター・シティ移籍と同時進行で動いてた案件っぽいんで、戦力の上積みって意味では基本的にはノエル・マリッツだけってことになるっぽいのかな。

ブライトンがフィリップス監督を解任

デッドライン・デイまでにたくさんの動きがあった今年の1月の移籍ウィンドウが閉まって、「ようやくちょっと落ちつくのかな」なんて思ってたタイミング、厳密に言うと現地時間の2月1日にブライトン&ホーヴ・アルビオンのメリッサ・フィリップス(Melissa Phillips)の解任ってニュースが飛び込んできたんだけど、正直なところ、コレにはいろんな意味でかなりビックリしたかな。

メリッサ・フィリップス監督は昨シーズン終盤に招聘されて最終的に11位で残留を果たして、夏に大幅な選手の入れ替えを行なって、今シーズンは現時点で勝点11、最下位のブリストル・シティと勝点6差で10位なんだけど、7位のレスター・シティとの勝点2差しかないわけで、マンチェスター・シティに勝ってマンチェスター・ユナイテッドと引き分けるって金星もあげてて、試合の内容的にも個人的には決して悪い印象はなくて、少なくとも成績不振を理由に監督を解任するほど悪かったとは思えなくて。

基本的にはシーズン前に多くの選手を入れ替えてるんで、冬の補強としてはスウェーデンのクリスティアンスタッドDFFから獲得したドイツ人の若手GKのメリーナ・レック(Melina Loeck)とアメリカのNY/NJゴッサムFCから獲得したアメリカ人のベテランFWのテイラー・スミス(Taylor Smith)だけで、チーム自体に大きくテコ入れしたわけじゃないと思うけど、監督を代えるなら新監督の下で必要な補強をするべきなのにとりあえず現状では暫定体制だったりするのもわりと謎だし。現地メディアの反応を見ても理解不能みたいな感じが多くて、そもそもメリッサ・フィリップス監督の評価も高かった印象で、「もっと時間を与えるべきだった」みたいな意見が多いような気がするかな。

動きがなかったマンチェスター・ユナイテッドとリヴァプール

ここまで触れてきた中で名前が挙がってない2チーム、マンチェスター・ユナイテッドとリヴァプールは特に動きがなかったチームってことになる。この2チームはウィンター・ブレイク前は勝点18で並んでて4位と5位だったんだけど、実はチームの状況はけっこう違ってて、対称的って言ってもいいくらいだったんだけど。

マンチェスター・ユナイテッドはトップ4のライバルからちょっと離されてて、危うく中位グループに入っちゃいそうな状況だったし、夏にアーセナルに移籍したイングランド代表FWのアレッシア・ルッソ(Alessia Russo)の穴を埋められてないって問題もあったりするんで、補強があるかと思ってたんだけど特に動きがなくてちょっとビックリ。いろいろ噂されてたイングランド代表GKのメアリー・アープス(Mary Earps)の移籍がなかったのはとりあえず朗報なのかもしれないけど、今シーズン限りなんて噂もありつつ、そもそもメンズ・チームも含めたオーナーの問題もいろいろ取り沙汰されてたりして、ちょっとムードは良くない感じなのかな。11月の代表ウィークで宮澤ひなたがケガしちゃって復帰にはまだしばらくかかりそう(3月くらい?)なのも痛いし。それでも、シーズン後半戦に入ってからの2試合はキッチリ連勝して勝点を積み上げてて、5位とは勝点差5、3位とは勝点差4って順位に踏みとどまってるのはさすがだけど。

ウィンター・ブレイクまでを総括した"WSL Watch #026"でも書いた通り、逆にリヴァプールの5位って成績は躍進って言っていい結果だったんだけど、内容を見ると失点が少なくて得点も少ないチームだったんで、攻撃面のテコ入れ次第ではもっと上を目指せる気もしてて。だから、冬の移籍マーケットで動きがなかったのはちょっと驚きだったし、近い順位のトッテナム・ホットスパーとかレスター・シティとかと比べちゃうとちょっと物足りなく感じちゃったかな、正直なところ。もちろん、チームの財政事情とかはよくわからないんだけど。

スウェーデン・リーグはWSLへの近道?

あと、今シーズンの冬の移籍マーケットでの選手獲得を見てて感じたのはスウェーデンのリーグ、ダームアルスヴェンスカンのチームからの移籍が多かったことかな。"WSL Watch #021"でまとめた移籍を見ても、レスター・シティに加入したエミリア・ベルガンダーとかトッテナム・ホットスパーのマチルダ・ヴィンバーグみたいなスウェーデン人選手だけじゃなくて、レスター・シティの宝田沙織と籾木結花はもちろん日本人、ブライトン&ホーヴ・アルビオンのメリーナ・レックはドイツ人、ブリストル・シティのサラ・ストラティガキスはカナダ人、ウェスト・ハム・ユナイテッドのカトリーナ・ゴリーとトッテナム・ホットスパーのシャーロット・グラントはオーストラリア人だったりするけど、みんなダームアルスヴェンスカンからの加入で。チームはいろいろだけどトータルで8人なんで、けっこう多いんじゃないかな、と。もちろん、長期的に何年も見てきたわけじゃないから、今回だけの特徴なのか前からそうなのかはわからないし、あくまでもイメージなんだけど。

無理矢理理由を考えてみると、リーグ自体のレベルとか経営規模の違いがちょうどいい感じなのかもしれないし、やってるサッカーの親和性があるのかもしれないし、あと、(メンズ・チームでも同じ話題が出ることがあるけど)イギリスは労働ビザが出にくいからヨーロッパの別の国でまずキャリアを積むみたいな部分もあるかもしれないし、理由はいろいろ想像できるかな。ただ、冬の移籍マーケットで動きが多い理由として、ダームアルスヴェンスカンが春秋制だから年末にシーズンが終わってて、フリーで獲得しやすいって点はあると思うけど(アメリカのNWSLに関しても同じ理由っぽい)。特にダームアルスヴェンスカンから長期的なヴィジョンで若手を獲得するなら、冬に獲得してチームに馴染ませながら、本格的に戦力として期待するのは翌シーズン以降なんて考え方もありそうだし。ともあれ、ダームアルスヴェンスカンでは今シーズンも何人か日本人選手がプレイするみたいだし、ちょっと注目しておいてもいいのかも? とか思ったり。リーグ戦のフルマッチが観れるのか知らないけど。

現地メディアの報道をチェック

移籍マーケットを採点するみたいな記事は現地メディアにもいくつかあって、それぞれ視点とか評価とかが違ってるからなかなか面白いんだけど、せっかくだからいくつかピックアップしてみようかな、と。

まずは、世界規模のインターネット・フットボール・メディアの『ゴール(GOAL)』の"Kristie Mewis, Emily Fox and the Women's Super League's 10 best January transfer window deals - ranked"って記事を。チーム単位じゃなくて選手単位でランキングにしてるんだけど、籾木結花が9位、宝田沙織が8位に入ってたりして。ちょっと驚いたのはマンチェスター・シティがアストン・ヴィラから獲得した20歳のローラ・ブリンドキルデ・ブラウンが2位だったこと。曰く、イギリス人選手の国内移籍としては昨年の1月にトッテナム・ホットスパーがチェルシーからベサニー・イングランド(Bethany England)を獲得したときの£250,000に次ぐ£200,000の移籍金だったとのこと。やっぱり、それだけの逸材ってことらしい。ちなみに、1位はもちろんチェルシーのマイラ・ラミレスなんだけど。

『90MIN』の"Every WSL club's 2024 January transfer window- ranked"って記事は、個別の選手じゃなくチームとしての動きをランキングで総括してるんだけど、レスター・シティが1位だったりして、なかなか興味深い感じ。

同じく『90MIN』の"The WSL's most exciting new arrivals in January 2024"って記事は、順位を付けずに注目の選手を7人挙げてるんだけど、ここにも宝田沙織の名前が。

『ESPN』の"Chelsea win WSL transfer window; Villa the biggest losers"って記事はわりと辛辣に「勝者はどのチームで敗者はどのチームか」って視点で書いてたりする。見出しの通り、勝者はチェルシー、敗者はアストン・ヴィラって評価らしいけど。ここでもやっぱりローラ・ブリンドキルデ・ブラウンの件がけっこう大きく触れられてて。もちろん、籾木結花と宝田沙織にも言及してるし。

硬派な分析記事で人気の『ジ・アスレティック(The Athletic)』は"The women’s January transfer window has closed – so what have we learned?"ってタイトルで、高額な移籍金が発生する大型移籍の増加とフリー移籍のこととかNWSLとの関係とかに言及しててて、期待通りなかなか読み応えがあったかな。

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