無名の俳優が魅せた覚悟【インタビュー③】
普段陽気な雰囲気で周囲を和ませ、大酒を飲んだり公園で知らない子供達と走り回っている、とてもチャーミングなおっさんの姿ばかり見ているが、インタビューを続けていくと田中の内に秘めた力強さが見えてくる。
最初のインタビューでは、初めて一人芝居をやる事になった経緯について語ってもらった。
それが評価され、一年間のロングラン公演が決まり、ようやく俳優として自分の芸で食べて行けるようになった。
出る杭は打たれると言うが、収入が時給から出演料になり、来客者数×チケット代3000円が田中の芸に支払われる事になった。
当然、時給より稼げるようになったわけだが・・・
3000円の重み
ー飛田
ロングラン公演って聞くと、劇団四季とか宝塚みたいに毎日やってる印象があるんですが、他の仕事と平行してやってたんですか?
ー田中
広島には昔、鉄人衣笠と言う凄い人がおって、その人の事を考えたら出来ん事もないじゃろうけど、結局俺は月2回Jimushono1kaiを使わせてもらう事にしたのよ。
ー飛田
2回にした理由とかってあるんですか?
ー田中
そりゃ俺が、普通の人が会いたいと思っても会えないような、超絶人気のある人じゃったら、毎日やるべきじゃろうね!
毎日やって毎日お客さんが来たら誰も苦労せんよ。笑
その時Jimushono1kaiで一人芝居を観てくれる人って、俺の事を知っとる人か店の事を知っとる人じゃろ?ロングラン公演が決まる以前に受けとる他の作品の本番も稽古もあるし、一人芝居以外の作品って俺の事を知らない人も俺の事知ってくれる場でもあるじゃん。
ー飛田
お店と本人を同時に営業してたんですね!
ー田中
いや、俺がおらんでもお店は毎日営業しとるよ。笑
大体、毎日稽古やら本番やらで寝る時間以外は何かしらの台本を読みよったし、1日に3つくらい稽古場をハシゴしたり、本番の合間に他の稽古場に行ったりでそんな事考える余裕なかったね〜笑
ー飛田
台詞とかがごっちゃになりそうですね。
それだけやっててもお客さんってつかないもんなんですか?
ー田中
やりゃいいってもんでもないじゃろ!笑
やるならもっと異常な作品数こなさにゃいけんじゃろうし、まず面白くないと楽しめんじゃろうし、何よりそれを的確に伝える芸がないとこの先戦っていけんじゃろう。
でもその時は、俺を知ってもらって、興味持ってもらって、一人芝居に足を運んでくれたら必然的にお店を知る事になるじゃない?
ちょうどお店のコンセプトやら何やらを創っているところだったから、一人芝居を観に来るお客さんは共通のコミュニティというか、話題を共有できるじゃん。新しくオープンした店がそんな人たちの場所になりやすいんじゃないかなぁとは考えたよ。
ー飛田
うまく行ったんですか?
ー田中
全然よ!笑
その頃お客さんがお店に40〜50人くらい一人芝居観に来てくれとったけど、それからお店に来るような人は、元からお店に来とる人くらいじゃったね!笑
その分、終演後はお店でそのままお客さんと終電まで飲んだよ!!!笑
ー飛田
貢献の仕方がアナログすぎる!!!笑
でも50人×3000円を月2回だったら、それだけで結構な生活費になりますよね。
ー田中
有り難いよね!それもあって本番前はどんどんゲボ吐くようになったね。笑
で、足を運んで下さる方々のお陰で「芝居で食う」事の重みと有り難みを感じていた頃に、バイト先では俺に対して物凄い不満が出てたのよ。
ー飛田
稼ぎすぎだろ!って?笑
ー田中
まじでそうよ!笑笑
そのことで呼び出されミーティングが開かれたんだけど「入場料3000円高くね?」って。
そりゃそうよね!自分の時間削って時給稼いでるのに、その横でちょろっと40分芝居して飲んで騒いで帰ってく人が自分より稼いでるのってムカつくっしょ!笑
ー飛田
あ〜、確かに!笑
ここまで話聞いたら40分の対価としては納得できますけど、周りの人からしたら関係ないですもんね。
ー田中
最終的にどうなったのかと言うと、3000円の入場料は500円になって、連日超満員だった来場者数は4分の1以下になったね。
3000円で観劇した人達からは本当に怒られた。そりゃそうだわな。笑
お客さんにはワンドリンクをお店に払ってもらって、チケット代を俺がもらうってシステムじゃったんじゃけど、このミーティングする時に「殆ど出勤してない奴が毎日出勤してる奴より稼いでいるの事への不満が起きている」って事を俺が事前に知っとれば、チケット代3000円のうち2500円をお店に入れると言う選択をしていたんじゃないかな。
ー飛田
え〜、ただの妬みじゃないですか!
ー田中
まぁそんなもんじゃろ♪笑
でもその時は「入場料3000円高くね?」って入り口だったから、馬鹿みたいにこの金額にした理由とか「自分の芸に責任感持ってこれでやらせてもらいます!」って主張しまくってたね。
ー飛田
結構真面目に考えた3000円だったのに。
岡本太郎のね笑
ー田中
まぁ向こうの主張は後から知ったけどさ「殆ど出勤してないやつに対して他のバイトから苦情が出てる」って事だったから、どれだけこっちのスタンスを伝えたとこで、そもそもの趣旨が違ったのよ。
「時給じゃなくてこれで稼げばいいじゃん」と言ってくださった言葉が嬉しくて、まだコンセプトの決まらないこのお店が自分のホームグランドのような気持ちになって、てんやわんやであまり周りが見えてなかったのかなぁと、今思い出しても情けない気持ちになる。
自我と自慰
ー田中
何だかそのミーティングでは、みんなで寄ってたかって自分の作品を全否定されたような気持ちになって、物凄く腹が立ったのよ。
最初のイベントで機会を頂いた事も忘れて、それがきっかけで場所を提供して頂いて「もうこれはバイトじゃないぞ!俺は今芝居で飯を食ってるんだぞ」って躍起になっていたから、何を言われても「なんで俺の足を引っ張るんだ⁉︎」とパニックになって必死に抵抗しまくった。
ー飛田
こっち側の話を知っているから、なかなか辛い展開ですね〜
その戦い方じゃちょっと勝ち目がない感じしますね。
ー田中
黙れクソ社畜が!!!そうやって自我を失って生きてくんだお前みたいな奴は!笑
ー飛田
自我はあるでしょ!自分より楽して稼いでる奴を妬むんだから。笑
ー田中
じゃ、自我を失っとるんは俺じゃの♪笑
そんな馬鹿を冷静に黙らせたのは、とてもお世話になっとる先輩で、俺がゴールデン街に来た頃、チャラチャラした服を着ていたら「明日からデニムに白シャツで来い」と言ってイカしたデニムをくれたり、今の服装のスタイルを教えてくれた先輩の、ぐうの音も出ないワンバースだった。
ー飛田
ん?ラッパーの方なんですか?
ー田中
違うんじゃけどね。笑
「お前のオナニーで金取るような下品な店を作る気はない」って言われたの。
ー飛田
うーん、なるほど!
ー田中
もう戦意喪失したね。笑
ゴールデン街でお店を盛り上げたチームと歌舞伎町で大きいお店をやる。ほんで今度はこの店を盛り上げて行こう。
「お前ら役者なんだしここで何かやったらいいじゃん」なんて言われて、だったらそのお客さんがお店を気に入ってくれたら嬉しいなぁ〜とか、普段飲む人たちが自分のパフォーマンスを観てくれたら嬉しいなぁ〜とか、とにかく自分の事を知っている人にはまず、この場所を知ってもらおう!
さぁ!ここで何やったら楽しいやろなぁ〜。なんて事を、そういえばちゃんと考えていた事を思い出したのは、そのミーティングが終わって家でシャンプーしよる時とかじゃったね。笑
なのにミーティングでは馬鹿みたいにエゴ剥き出しで、俺に対して何か言ってくる人間が全員エネミーに見えてギャーギャー騒いで、別に売れてもない役者が自分の価値を語ってたら、そりゃそうなるわ。笑
ー飛田
そこまで落ち込みます?笑
打たれ弱過ぎないですか!?笑笑
ー田中
そもそも自信なんかないんじゃけえ、そら落ち込むよ!笑
まじで何も言い返せんかったね。
「え〜、皆あんな楽しんでくれとったのに〜」って。笑
と言うか、この言葉を言わせてしまうまで状況が飲み込めない事が申し訳なかったね!
オナニーの価値
ー飛田
そこで俳優として初めて、社会と対峙した感じなんですかね?
それって、ようやくその土俵に立てたのかなって感じもしますよね。
ー田中
確かにね!今はそう思えるかも!ざまーみろバーカ!って。笑
でもその直後に、ここでロングラン公演の上演を提案してくれたオーナーから
「売れてない奴が自分の主義を主張するのが一番みっともない」
って言われてね、その時は「じゃそいつは一生売れねーわ!」と思って、なんかすげー腹が立ったんよ。今もそう思うところはあるけど、それって結局「あなたに価値はありませんよ」って言う社会では当たり前の事なんよね。
俺は自分の価値を自分で創ったような気になっとったけど、場所や機会を与えてもらった事の価値の方が大きくて、自分の価値を主張している時点でもう負けとるんよね。
なのに「じゃあやらない」って選択をせず、そこでやらせて貰うために必死にしがみついとった俺は本当にダサかったと思よ。
ー飛田
なんか後出しジャンケンっぽくてセコイ言い分な気がしますけどね。
だったら声かけた時にそう言ってくれたらいいのに。
ー田中
そん時は何も決まってなかったけーね!
みんなで創っていく中で、みんなの意見として出たんなら、そこにいる以上従わにゃいけんよねって言うのが、今は理解できるね!笑
だからこの言葉は今でも自分にとって大切な言葉で、常に何か作品をやる時に「本当に自分はこの作品がやりたいのか?」と自問自答させてくれるんよ!
価値は作品で語るしかないから、合わないならやらないだけ!
どうせオナニーするなら、自分が最高だと思える作品をやらにゃいかんと思ったね!!!
ー飛田
おーよかった!
いい感じに開き直りましたね!
ー田中
だって多分スピルバーグもルーカスも、どんなジャンルの人でもアーティストと呼ばれる人たちは皆「ちょっとこれ最高だなオイ!笑」って自分の作品の創作を進めとるやろ絶対!笑
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