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無名の俳優が魅せた覚悟【インタビュー①】

2021年、夏。

これまで体験した事のない衝撃的な出会いがあった。
強烈な興味を抱かずにはいられないその男は、無名の俳優だった。

東京に生まれながら俳優業を生業とする人間に出会った事のなかった私はインタビューを申し出た。

男の言葉を通して、その魅力の正体と俳優と言う未知の世界を知ってみたいと思ったからだ。

演技の上手い下手は知らないが、この男が出る作品ならどんなものでも観てみたいと思わせる強烈な輝きがある。田中惇之、12月に一人芝居をやると言う彼に、自身の作品について伺ってみた。


僕の一人芝居って、多分お芝居じゃないんです。

-飛田
早速なんですけど、一人芝居ってどんなもんなんですか?

-田中
例えば落語家さんや講談師さんは、一人で何役も演じ分けて物語を展開しますよね?
実際には舞台上の座布団に座って一人で喋っているだけなのに、場所や風景、匂いや味までお客さんに想像させる。
日本の一人芝居のパイオニアと言われるイッセー尾形さんは「そこにいない人」と会話しているから、どんな事を言われたのかとか、どんな人と会話しているのか、とか「そこにいない人」をお客さんは想像してしまう。でも実際にはイッセー尾形さんが一人でお芝居をしているだけ。と言う芸術だと思うんです。

ー飛田
なんか刃牙でそんなシーンありましたよね?

ー田中
あったね!巨大カマキリと戦うやつね!あとアイアン・マイケル!!!

-飛田
なるほど、相手の攻撃をリアルにイメージしてシャドーボクシングして、誰とどんな戦いを繰り広げているのかをお客さんが想像させると。笑

ー田中
まぁでも僕の一人芝居は、相手の台詞も自分で喋っちゃうし、なんなら状況とかを全部説明しちゃうし、そもそもそんな凄い技術なんて持ち合わせてなかったから、お客さんが想像する余白を既にお客さんの中にある世界観を使って、それを変化させる事にしたんです。

「それお金払って観る価値あるよ」

ー飛田
普段は色んな作品に出演されていると思うんですが、一人芝居をやろうと思ったきっかけは何だったんですか?


ー田中
結構昔から、舞台の本番前は楽屋でジブリの色んなシーンの再現をしてたんです。

ー飛田
本番前に?ジブリ作品とは関係ない作品の本番前ですよね?笑

ー田中
一切関係ないね!笑
多分本番前にテンション上がって一人でやってたのが最初で、エスカレートして調子に乗ってたんだと思いますよ。

ー飛田
本番前ってそんな感じなんですか?笑
全然想像出来ないです。

ー田中
集中したい人は絶対迷惑だったと思いますよ。
でもそうやってテンションを上げておく事がルーティンになってきて、本番前に欠かせないウォーミングアップになったのはホント!笑

ー飛田
結果凄い迷惑!笑

ー田中
ね!笑
でもそれ観てた先輩の俳優さんが「それお金払って観る価値あるよ」って言ってくれたのが凄い嬉しくて、誰かが笑うまで面白さを追求してたら原形が変わっていった感じ。

ー飛田
で、やろうと思ったんですか?

ー田中
いや、本番前にうるさい俳優を優しく黙らせたんだと思ったね。でもこれが効果的面で翌日から静かになったよ!笑

偶然の産物

ー飛田
それですぐにやろうとは思わなかったんですね!

ー田中
考えた事なかったね〜
誰も興味ないと思ったしね!
初めてちゃんと一人芝居をやる事になったのは、歌舞伎町でMCとして参加するイベントのフライヤーに勝手に「田中惇之の一人芝居」って書いてあったからなのよ!笑
イベントの4日前くらいだったかに知らされて「やった事ないし時間がなさ過ぎます!」って言ったら「もうこれ配っちゃったんだよね」って決定事項だったのよ。笑
んで、もう逃げ道ないし「役者なら何か出来るっしょ?」って主催の言葉に半ギレで承諾したわけ。
でも本番を想像したらむちゃくちゃ怖くて、その時舞台の本番期間中だったけど、もうその日から台本書き始めて4日間ビビり倒して一睡も出来ずに当日の朝になんとか完成したわけ!笑

ー飛田
あ、ご自分で書いてらっしゃるんですね!
それが本番の日に完成したんですか!?

ー田中
そう!
ほんでその日はさ、朝から一本お芝居の本番があったのよ。で、その後イベントの出演があって、本番中の舞台のマチネ(昼公演)とソワレ(夜公演)やって劇場から歌舞伎町に移動してようやく、本丸のイベントでMCよ?
もう気が気じゃなくてさ!笑
イベントのMCやりながら脳内稽古したわけ!
そしたらなんだか最後のシーンが物足りない気がしてきて、もう逃げちゃおっかなぁ〜って怖気付き始めた頃、そのお店のオーナーが声を掛けて来たわけ。
「芝居中どっかでレミゼ歌ってよ!」って。
普通の人なら本番直前にそんな事言われたら爆発して死ぬよ!?

ー飛田
てか寝てないんですよね!?
その日のスケジュールがもう奇跡じゃないですか!さすがにブチ切れたでしょ?

ー田中
今思い返すと恐ろしいよね!
でもね、そう言えば酔って一人レミゼをやった事があったのよ!
で、あ、これだ!と思って、物足りないと思ってたシーンでとりあえずレミゼ歌っちゃえ!!!って思ったんだけど、今考えたら完全に思考停止しとったんやろね。
とにかく、本番直前に神の一手で作品が完成したわけ!!!!

ー飛田
練習せずにやったんですか!?

-田中
する時間なかったしね!!!

いざ、初陣

ー飛田
やっぱ俳優さんって記憶力凄いんですね!
普段だとどのくらい練習するもんなんですか?

ー田中
作品によるけど3週間くらいはやるんじゃない?
流石に出来たその日に本番迎える事はないんじゃない?笑

ー飛田
ですよね!?
で、やっぱそこはジブリだったんですか!?

ー田中
そうそう!
サツキとメイちゃんがトトロやってる間のカンタとミッチャンの話!

ー飛田
ミッチャン??

ー田中
えっ!?
「さーつきちゃーん」って朝迎えに来てくれる女の子よ!!!知らんの?

ー飛田
あー!!!あの女の子だ!!!!

ー田中
そうよ!!!
もうすっかり都会っ子になり数年ぶりに帰郷したカンタが記憶を辿る話でね、誰も居なくなった草壁家の庭で1963年5月に行方不明になった少女二人に出会ってしまうと言うお話。
サイコーだったな!笑

ー飛田
もう途中からよくわかんなかったです。笑

ー田中
じゃろ!?笑
桃太郎の次くらいに日本中の人が知ってるトトロをね、とにかく皆の脳内に既に存在するトトロの風景を変えてやろうと思ったのよ!笑
二度とまともにトトロを観れなくしてやろうと。笑
DVDだか金曜ロードショーだかでトトロを観る度に「この裏ではこんな事が繰り広げられてんだ〜」とか「これはあいつに仕組まれてたのか〜」とか思い出したら最悪じゃん?笑
でもそれ面白いなぁ〜って。笑

ー飛田
悲し過ぎる!!!笑
てかよくそんな事思い付きましたね!

ー田中
凄いセコいけど、噺家さん達や、それこそイッセー尾形さんが工夫に工夫を重ねて創り出した「想像させる」と言う一番大切なプロセスを、俺はジブリに外注したわけ。笑

予想外の手応え

ー飛田
実際やってみてどうだったんですか?

ー田中
同じ作品を2日間やったんだけど、これが結構手応えがあったのよ!

ー飛田
よかった〜
大成功だったんですね!

ー田中
そうそう!さっきまでMCやってた人がいきなりお芝居を始めるくだりは落語やなんかの「枕」からヒントを得てね、いきなり失礼な暴言をお客さんに吐きまくるわけよ。で、散々お客さんを罵倒して、もうみんな我慢の限界ってとこでジャケット脱いだらスーツ姿ってなったら「なんだお芝居だったんかーい」と総ツッコミが来る流れがもう完璧だったのよ!笑
で、それが最後のオチに繋がっている風だったから「なるほどそうだったのか!」となってしまいがちなんだけど、実はトトロの世界を踏み荒らしているだけで中身は何も無いの!笑

ー飛田
いやいや、よくわかんないですけど凄いですよ!
てか体力ヤバくないですか?笑

ー田中
でもさ、イベント初日までビビって寝れてなかったじゃん?終わって店出た瞬間動けんくなったけえね!笑
ホンマに動けんのんよ!?靖国通りのサイゼリヤで「死ぬ」って思ったもん!笑

ー飛田
普通死んでますよそれ!!!
てか、次の日も同じスケジュールですか!?

ー田中
勘弁してや!笑
あ、でも舞台のニ公演はあった!
で、終演後に劇場からチャリンコでまた歌舞伎町行ってイベントのMCをやるんだけどさ、初日の一人芝居を観た人の評判を聞いた人達がむちゃくちゃ来てさ、路面店だったお店の外の道路にはみ出るくらいお客さんが来たのよ!!!
そりゃイベント自体が楽しくて来た人が殆どなんじゃけどさ、嬉しかったね〜!

ー飛田
なんか僕、今それ聞けて嬉しかったです!
報われた感じします!!!
やっぱ歌舞伎町でも人気者だったんですね〜

ー田中
いや、実際誰も期待してなかったと思うよ?笑
「あーお芝居ね、はいはい」くらいのもんよ?

ー飛田
そうなんですか?

ー田中
じゃけえやり易かったのもあるんじゃない?
安易に想像出来る俳優像がお客さんの中にあるんだもん。


インタビュー第一弾が終わり、第二弾へ

インタビューしながら思ったのは、いつも陽気な雰囲気を纏っている田中がグッと熱くなる瞬間が何度かあり、その時の田中は、去年の夏、リモートワークと夏の陽射しから逃れて入った近所の居酒屋で見せたあの野獣のようなオーラを纏うのだ。
そして熱くなると広島弁になる田中は、私がイメージする広島に住む怖い人たちのそれを彷彿させ、映画でしか観たことのない私は、既に田中惇之の一人芝居を観ているような気にさえしてくれる。


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