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忘れられた日本人を読んで#2 【土佐源氏のあらすじ ー 農家の読書日記】

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土佐源氏のあらすじ

というわけで肝心の土佐源氏のあらすじなんですが、詳細にわたって書き連ねるのはクドくなると思うので、ここではあえて短くまとめてみます。

(気になる方は、是非書籍を手に取ってみてください)

土耕に必要な牛を村々の農民に売る仕事(今でいえば農機具の営業マンみたいなものでしょうか)をしていた身寄りのない青年が、上司の妾とデキちゃって、駆け落ちするもなんだかんだで失敗。

現実の世知辛さに嫌気がさして自暴自棄になり、愛を誓い会ったはずの彼女(この時すでに彼女の夫である上司は病気で他界しており、立場としては未亡人になっている)を置き去りにして縁もゆかりもない土地に移住。そこで身分の高い町会議員の正妻と恋に落ちるも、その翌年にその正妻が病気にかかってあっさり死去。

ショックのあまり寝込んでいるうちに高熱を出し、それが原因で失明する。誰かにお世話してもらわなければ生きていけない身の上になるが、身寄りがなく頼れる人も一切いないため、恥を偲んで一度は棄てた彼女の元へ帰る。

受け入れてくれるはずがないと思い込んでいたものの、再会すると「よく帰ってきなすった」と涙を流して喜んでくれて(この時に正式な夫婦の契りを交わす)、その後は地元の役人の計らいで吊橋の下にふたりで住むようになり、食事や生活のお世話をしてもらいながら余生を送る。

と、こんな感じのストーリーです。

放蕩と帰郷と情愛のノンフィクションヒューマンドラマ

一度は理不尽にも棄てられてしまった彼女が、何もかも失いおまけに失明までしてしまった古老を受け入れた理由は、彼が自分を見初めたときに、見返りを求めずに優しくしてくれたから。

女性の地位が低く、特に若い娘はモノ扱いされるのが当然だった当時において、彼だけは自分を独立したひとりの人間として大切に扱ってくれたそうで、それが心底嬉しかったんですね。だから、突然置き去りにされてその後何年間も音沙汰がなくても、そのときのことをずっと覚えていて、帰ってきた彼を無条件に受け入れることができたのだと後に語っていたそうです。

ところで、いきなり全てを投げ捨ててひとり逃避してしまった当時の彼は彼女のことを本当の意味で大切にしていたとは思えないですし、色んな意味でツッコミどころ満載のロクでもない男ではあるんですが、後に犯した罪を悔い改めて彼女のもとへ帰り、赦しを得て自分の存在意義を再発見するという流れは、新約聖書に出てくる有名な逸話の放蕩息子に似ているように感じられます。

で、こうした観点から世の中を見回すと、これは土佐源氏の古老に限ったことではなく、どんな人間の人生にも語るに足るストーリーが最低でもひとつは内包されていると思うんですよね。

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