4 ただいま~! 2024.9.3
ただいま~!と元気に帰ってくるなり、ラカはトウモロコシを1本、ドンとテーブルの上に置いた。包装されてない、ビニールにも入れてない、まんまのトウモロコシ。
「自転車、ライフに忘れてきた! トウモロコシ特売だったのが嬉しくて♪ その後、まずいクランベリーが入ってない冷凍のミックスベリーも見つけたから嬉しくなって、もうすっかり自転車のこと忘れてた~」
いや、いくら嬉しいからって、自転車忘れる? それにライフちゃうやろ、ワイズやし。
ラカはトウモロコシが好きだ。それから、昨日久しぶりに自分で作った冷凍ミックスベリー入りバナナジュースが思いのほか美味しくなくて、ずっと気にしてたから、犯人と思われるクランベリーが入ってない商品を見つけたのが嬉しかったのはよくわかる。ラカはバナナが好きだ。
今日は、ラカ帰宅の少し前、「まもなく、小学生の下校時間です。地域の皆さん…」と見守りを促すアナウンスが風に乗って聞こえてきて驚いた。この家に越してきて8年目になるが、今まで一度も聞いた覚えがないからだ。これは、どういうことだ? 風向きのせい? 同じ新宿区だから同じ放送があっても全くおかしくはないけれど。
この家の前に住んでいた西新宿では毎日のように聞こえていて、末っ子である三女が中学生になってしばらくのあいだは、放送が聞こえてくる度に「うちにはもう小学生がいない…」と一人悲しんで、黄昏れていたものである。まもなく「ただいま~!お腹すいた!」と中学生が帰ってくるのに、である。もう一人の中学生もいるし、高校生も浪人もいるのに、である。しかもラカは宅浪だったから、それこそずーっと家にいた。にもかかわらず、である。
「ランドセルを背負った小学生」が家に帰ってくる、それが自分にとってどれだけ幸せなことか… 失ってみて初めてわかった。数えてみれば、「小学生のいる暮らし」は12年も続いたのだった。それが、ある日を境にプツリとそうではなくなり、もう二度とやってこないのだから、喪失感を感じるのは仕方ないことだと思う。
小学生のいない生活にようやく慣れた頃、今度はラカが大阪の大学に合格、ウチを出て行った。私は大きな喪失感にさいなまれた。心にぽっかりと穴が空いたようで、これから自分がどんどん不幸になっていくとしか思えなかった。ウチにはまだ私を必要とする可愛い子供が3人もいたのに、である。
育てていた子が家を出ていく、そのことを初めて体験した私には、ラカに続いて一人また一人と子供たちが出て行って、とうとう誰もいなくなる、という悲しい未来が見えてしまったのであった。
「空の巣症候群」という言葉を知ったのは、この少しあとのこと。
今やウチには、小学生も中学生も高校生も大学生もいない…
19歳で出て行ったラカは、4年後に戻ってきた。そして、今日もまた「ただいま~! お腹すいた~」と元気に帰ってくる。空の巣は、ラカの巣になった…? カラからラカへ(笑) 下の子たちはラカを「子供部屋おばさん」と揶揄する。
玄関のドアが開く音がした。ジムに行ったラカが帰ってきたようだ。「ただいま~」の声がないから、ん?どうかしたのか?と思ったら、息子だった(笑)
あまり口を開かない息子の機嫌を伺いつつ話しかけて対話を試みる、というのがいつもの私だが、この日記は今日中にアップすると決めて書き始めたので、今は息子にかまっている時間がない。という一文を書き終わらぬうちに私のすぐそば、リビングの床で寝息をたてはじめた。(うがい・手洗いはどうした?!)
お疲れのようやね、しばらくそっとしておこう。
ラカ、遅いな。また自転車で来たこと忘れて歩いてたりしないといいけど。
「ただいま~!」今度はラカだ。リビングに入って「はっ!」と大きな声をあげる。弟が来ていることに気づかず部屋に入ってきて、驚いたようだ。ラカはADHD、ビックリしやすい。そのうえ、ビックリした時の反応が普通の人よりちょっと遅い&かなり大きいので、こっちがビックリする。
ラカの声で目が覚めた息子は、目を開けてにっこりと微笑んだ。誰にともなく。そして、すぐまた寝入った。息子は寝つきがいいのであ~る。おやすみ。
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