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ジュウ・ショのサブカル美術マガジン

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美術についてサブカルチャー的な視点から紹介・解説。 学術書とか解説本みたいに小難しくなく、 極めてやさしく、おもしろく、深ーく書きまーす。
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#映画

メソポタミア美術とは? シュメール人・アッシリア人の表現力がすさまじい件

さて、大学の真剣な講義ってのは、意外と頭に残んないもんだ。専門的な内容はあんま話さずに、高田純次バリのテキトー加減でフラフラしゃべってたアゴヒゲMAXのおじいちゃん先生のほうが、意外と記憶に残っているのである。どうもこんにちは、キアヌ・リーブスです。ははは違うかぁ、ははは。 専門的な分野の話というのは、ちょっとユーモアがなけりゃ耳に入ってこないんだと思う。少なくとも集中力のない私はそうでした。 そんなテキトー加減で西洋美術史をお伝えしていく所存のこの連載。ぜひノートとペン

Chim↑Pomの展覧会がマジでやばかった|「美術館」の概念をひっくり返す回顧展

2022年2、3月は六本木ヒルズ ミュージアムが激熱です。東京シティビューでは「楳図かずお大美術展」、森美術館では「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」が開催中。いやもう完全にヤバい。ハイカルチャー貴族が住むヒルズが、名古屋のヴィレヴァンみたいになってる。絶対に地上52階でやることじゃない。もう最高なんですよね。 もうこんなもん行くしかないでしょう。とはへたたいうことで、今回は後者の「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」に行ってきたので、現地の様子をレポートします。

ジョルジュ・スーラとは|点描画の創始者が駆け抜けた31年の人生をたっぷり紹介

「点描画」というジャンルをご存知だろうか。名前の通り、真っ白なキャンバスにピッピッピッピッて点状に絵の具を塗ることで描く絵画のことである。 名前だけで「ハンパじゃなく気が遠くなる作業」ということはわかるだろう。常人がやる表現じゃない。もし隣で血眼になって一心不乱に点描画やってる奴がいたら「おい大丈夫か。病んでんのか」つって、いったんコーンポタージュ飲ます。確実にメンタルを損ねているもの。こんなやつは。 そんな点描画を19世紀に開発したのが、ジョルジュ・スーラだ。スーラって

「フランダースの犬」でルーベンスのキリスト画が描かれた理由とは

『フランダースの犬』と『火垂るの墓』は、ちょっとマジで発禁にしてほしい。いや子どものころは「なにこれ、かわいそう……」って、そんだけだった。しかし大人になってから観ると、救いがなすぎてバウンスビートくらい動悸がしてオロオロ泣く。18才以上禁止とかにしてほしい。O-18。オーバー18歳だこんな作品は、やめろ。観せるなもう(泣)。 そんなフランダースの犬といえば、やっぱり最終回。主人公のネロと愛犬のパトラッシュが寄り添ってルーベンスの「キリスト昇架」と「キリスト降架」を観て「な

線と色彩論争とは|プッサンvsルーベンス、アングルvsドラクロワの話

昨日、友だちの友だちを紹介してもらって、民俗学でいう「境界」についてのお話を伺った。いや、これがめちゃんこおもろおもろ祭りだった。精神的にはもうハッピ着て太鼓打ちまくってた。どんどこどんどん。 「あちらとこちらの境目」って、あらためて認識すると、すごい。白い紙に黒い線を一本すーっと引くと、あちら側とこちら側に分かれる。あの世とこの世とか、男と女とか。そんな区分けが生まれる。区分けがはっきりしていると安定するが、その境目は不安定であり、よく怪異が出てくる、と。 いや、これマ

人間がヲタクになり推し活を終えるまでを4ステップで解読してみた

私は主にアート、マンガ、音楽、小説といった分野でライティングをしている。これらの創作物は、広義で「文化(カルチャー)」という枠でくくられる。 ただ、カルチャーは決してエンタメだけに特化した言葉じゃない。カップ焼きそばUFOのパッケージとか、無印良品のオーガニック食材とか、そういうものもひっくるめて文化だ。決して一過性のブームではない。何人かのヲタがソレを推して歴史を作ったもの。それが文化となる。 カルチャーについては以下の記事で紹介していますので、暇すぎてもう飲料の原材料

アンリ・ルソーとは|40歳を超えて独学で画家になった天然の才能

画家とは絵に魂を捧げなければいけないのか。血や骨を削って、必死に一枚の絵と向き合う必要があるのか。画業をやるうえで絵だけに集中をするべきなのか? 私はそんなスポコンはいらないと思う。noteというプラットフォームの登場はまさに自由な世の中を表している。誰でも作品を自由に投稿でき、不意に発見されてアーティストとして世間に認知される。才能が埋もれない心底素晴らしい世界だ。 作品を投稿している皆さんのなかにも、普段は会社員や公務員として厚生年金を支払いながらも、休日は作品づくり

マン・レイとは|最期まで"アーティスト"を貫いた前衛写真家の「バズ」にない魅力

マン・レイの写真は決して「ただ綺麗なだけ」ではない。カラーリングもほぼないので、どこか不穏な空気すら感じる。それは昨今から続くSNSブームとは一線を画している。 「原宿でカラフル綿菓子を食らう女子高生」や「コントラスト爆上げで海辺を散歩してるカップル」などは日常的に見るでしょう。 ただマン・レイのようなアングラ表現主義の写真家は母数が少ないですよね。特にコンプライアンスがっちがちの現在では、こうした作品群に接する機会がないんじゃなかろうか。 そんな現代で「映え」はもう8

2021年の美術展をずらっと紹介! コロナ明けは生でアートを見つめよう

2020年は新型コロナウイルスの影響によって、予定されていたあらゆる美術展が中止・延期になった。皆さま楽しみにしていた展示もありましたよね。しかし絵より命のほうが大事なので致し方なかろう。 特に2020年の夏ごろは東京五輪での海外客到来を見込んで「ジャパン・アートの素晴らしさ」「バンクシーのやばさ」を訴えたイベントを予定していたが、見事にずっこけたのが同情を通り越してちょっとおもしろかった。 2021年、まだまだ油断はできないが、ワクチンの接種もいよいよ始まりかけており、

サブカルとアングラの違いとは|ヤバい世界について本気で考えてみる

「アングラとサブカルの違い」は一般のメインカルチャーで生きている人には理解し難いものがある。「いやいや、どっちも絡みにくいでしょ」とまとめてしまいがちだ。 しかし気をつけてほしい。アングラ畑で"毒"を撒布している人と、サブカル畑で"無駄"を耕している人は違う生き物だ。当人からすると「一緒にしないでくれ」と思っているパターンは結構ある。 アングラの人に「お前、ほんっとにサブカルだな」と安易に声をかけるのはマズい。「ちげぇよ。俺はアングラだよ」と血走った眼で返されるだろう。な

カリカチュアとは|日本漫画の原点となった「いじり」の芸術

旅行先で似顔絵を描いてもらったことがある方は多いだろう。そして「できました〜♪」と化け物のような絵を手渡された人もいるでしょう。「おいできたじゃねえよ」と怒っちゃった方もいるかもしれない。 似顔絵屋は基本的に写実では描かない。デッサンではなくエンタメである。なので忠実に似せる気なんてさらさらなく、超笑わせる気でふざけて描くのが彼らの仕事だ。 こうした表現を「カリカチュア」という。つまり対象の容姿の特徴や性格などを、これでもかと誇張して描いた表現のことだ。 カリカチュアは

ファム・ファタールとは|起源や言葉の意味、キャラクター紹介など

ファム・ファタール……それは美術、マンガ、アニメなどの世界で「男を惑わせる魅惑の女性」を指す言葉だ。本来の意味は「赤い糸で結ばれた運命の女性」となる。 「赤い糸」と書くとロマンチックに聞こえるが、いやいや、そんなに良いものでもない。もっと妖しくてキケンな存在であり、男はいつだってファム・ファタールの虜になって破滅してしまうものだ。 ではファム・ファタールとは具体的にどんな女性を指すのか。そしてなぜ長い間、クリエイターから愛され続けているテーマとなったのだろうか。 今回は

アルノルト・ベックリンはなぜヒトラーに愛された?死の島など代表作で考えてみる

アドルフ・ヒトラー。彼に「人の感性を持たない独裁者」というイメージを持つ方も多いのではないだろうか。そんなヒトラー、実は絵画への造詣が深かった。自身も若いころは美術家志望で、建築画や風景画などを描いている。 ヒトラーの作品は「西洋絵画の巨匠たちの影響を総合的に取り入れている」と評価される。簡単に言うと「オリジナリティ皆無だなおい」という意見だが、ポジティブに捉えると、彼は絵画オタクだったということが分かる。 なかでもヒトラーはアルノルト・ベックリンという画家を特に愛してい

「人はなぜ絵を描くのか」を人類最初の洞窟壁画から考える

「ねぇ、なんで人ってさ、絵を描き始めたんだろうか」 こんな悪臭漂うセリフを真っ直ぐな目で言う奴には気をつけてほしい。おそらくそいつは重度の厨二病に犯されているか、自己啓発のあまり前後不覚に陥っている。もしポケモンよろしく、目が合って質問された際は食い気味に「知らないです」と答えてください。 ただ相手のレベルが高くて「ねぇなんで? ねぇなんでだと思う?」と食い下がってくるかもしれない。あなたがもし「人類初の絵」を知っていれば「ねぇなんで人は絵を描くのか星人」を撃退できるはず