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2年越しに感想を語りたいー繋渡りー

0.急遽
 皆さんこんにちは。時間的カバー範囲が広いのでこんにちはを多用するのですが今は23時です。明日はいつも通り講義の予定だったのですが急遽お休みになったのでフリーになってしまいました。そういうわけで時間に余裕が生まれたので読んだ本の感想でも書こうかなと思います。今回取り上げるのは、もちぎさんの著作『繋渡り』です。だらだらと思いついたままを綴らせていただけたらと思います。

1.読んだ当時
 私が繋渡りを読んだのは2021年の12月なので今から丁度2年前です。発行は2020年の7月ですが発行当時はこの本の存在は知りませんでした。なぜ2年前この本を読もうと思ったのか、はっきりとは覚えていませんが、1つは高校を卒業して半年以上経つのに同性であるBのことを忘れることができなかった自分と向き合いたかったという理由な気がします。そしてもう1つは、親子とか家族について考えたかったからだと思います。もちぎさんのTwitterには「親と子はどこまで継承するのか」とあり、繋渡りでは親と子が大きなテーマになります。この点もとても興味があったので読んでみたのだと思います。

2.どんな話か。
 大切な部分を台無しにしてしまいそうで内容のサマリーは好きではないのと、ネタバレを防ぎたいので、ブックカバーのそでにあるあらすじ(?)を抜粋します。
〝作家の父と弟と暮らす少年・未智留(みちる)。
凡庸な両親に育てられた少女・残花(ざんげ)。
自らをほんの少しだけ優れた、でも大したことのない存在と断じる二人は、取るに足らぬ同級生を見下ろしながら、卑俗で平凡な住民を横目に見ながら、生活するにはちょっと不便で色々と物足りないこの町で、ほんの少しの諦観とともに退屈で停滞したささやかな日々を過ごしていた。
けれど。
ある日の未智留の一言をきっかけに、二人の平穏な関係は唐突に終わりを迎える。
近親相姦、同性愛、虐待ー
少年が背負う過酷な真実が肌を晒した時、二人を中心とした歪な“家族”の物語が幕を開ける。〟

3.読後感
 これは私のために書かれた本なのかもしれない。おこがましいですがそう思ってしまいました。もちろん主人公たちと同じ人生なんて送っていません。でも、各所に自分と重なってしまう描写が確かにありました。そういう箇所にぶち当たるたびにカタルシスを感じる反面、どんどん、どんどん虚しくなりましたね、、、。この本は疲れているときには読まないほうがいです汗。
 読み終わったときにどんな気持ちだったのか、2年も経った今では的確に言い表すのは難しいですが多分、絶望だったのかなと思います。「私も両親と同じようになってしまうのだ」、「同性が好きなんて異常だ、誰も認めてくれない」そういう感じでしたね。もちろんこれは当時の私が、数多いる読み手の一人として抱いた思いです。どう受け取り、どう自分に落とし込むのかは読み手次第です。
 人生経験も思考経験も未熟だった当時の私(今もまだまだですが、、、)にとってはとにかく衝撃的な内容でした。だからこそ、この作品は私にとって大きな糧になっています。辛い読書体験だったのは間違いありませんが読んで良かったなと思っています。
 ちなみにこれを読む前はBへの思いに何らかの改善(てそもそも何だって感じですが)があるのではないのかと期待していましたが、かえって拗らせました()。自分の気持ちには逆らえませんね、、。

4.メモが挟んでありました
 この記事を書くにあたって久しぶりに本棚からこの作品を取り出したのですが、開いてみると最後のページにルーズリーフが挟み込まれていました。そこには私が気に入った(?)、あるいは印象に残った部分の抜粋が書かれていました。いくらか紹介させていただきたいと思います(以下の鉤括弧がそれです)。

①「…結局、結局みんな、子供の頃のまんま、子供の頃にできなかったことに、囚われて、歳重ねてるだけ、みっともなくトラウマを拭うのに必死な、大バカヤロウしかいない…」
②「結局は全て単純に、答えも人間性も人生の指標も定まらない未熟なままで、それでも寂しくて人と関わることからは逃れられなかっただけなんだろう。それがあの家庭の答えだ。」
③「あの時の俺にとって世界一不幸だった自分も、よくいるダメな大人の不十分な思考による選択に巻き込まれただけの、よくある被害者の一人だったんだ。きっとこんな人間、どこにだっている。そう、俺は世界一不幸でも無いし、今も幸せになれないと憂うほどでもない、なのに俺はあの地点から人生を動かせずにいるだけの人間。もうそれが手遅れかもしれないところまで、時は過ぎているかもしれないというのに。」
 
 なんというか、この小説は恐ろしいほどに過去志向です。だから、過去に対して後悔とか懺悔みたいな思いを秘めている人にほど深く染み渡るのではないかと思います。その意味では、そんな感情持ってない人なんていないのでどなたにでも読んで欲しいです。
 勝手な憶測で恐縮ですが、これはもちぎさん自身の人生をモデルにした私小説に限りなく近いように思います。小説を楽しむ上で作者と作品をリンクさせて読むなんて無粋だと思われるかもしれませんが、むしろ私は、小説は作者の経験から不可分だと思っています。だからこそ作者の経験こそが小説に命を吹き込み、読者を満たすのではないかと。

5.おわり
 読書って孤独な経験ですよね。学部の教科書にしても趣味で読む小説にしても、読んでいるときは一人です。悩むところも面白いと思うところも読み手次第。現代社会ってそこら中が娯楽で溢れてて結構派手なものとかもあります。そういう楽しみに飛びつくのはもちろん大切だと思います。しかしそれと同時に、孤独な経験をしたもの同士だけが共有できる楽しみを与えてくれる読書ってプライスレスだと思います。本は簡単な情報では満足できない人のためにあるみたいなことを村上春樹も言ってた気がします(たしか)。
 長くなりました。もしお読みになられた方がおられましたらありがとうございます。気まぐれに投稿したいと思うのでよかったらまた読んでいってください。それでは!

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