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ポエトリー

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2020年1月の記事一覧

鍋を磨く

鍋を磨く

彼女からの連絡が途絶えて久しい
月は欠けきったのち、また肥えはじめた
わたしの髪は伸び
きっと彼女も美容院にはまだ行っていない

鍋を磨く
味噌を溶いたり
玉子を茹でたり
キャベツを蒸したり
そうして生活に寄り添った結果
不本意ながら真っ黒なコゲを身にまとった
我が家の鍋

鍋を磨く
たぶん明日も生きているだろう
生きているからには米を炊き
汁を用意することが必要になる

鍋を磨く
彼女の米を炊き

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街を見下ろす丘に住んでいた頃のこと

帰りたいな、といつも思っていた。
目の前ですやすや眠る生き物をぼんやり眺めながら
帰りたいな、と思っていた。
どこにかはわからなかった。
電車で一時間ちょっとの距離にある実家は、帰るたびに私の居場所はないと思わされる場所になっていった。
2日もいると、いい加減に帰りなさいと言われて、おとなしく従った。

最寄りの駅につくと、足は重たくなった。
団地は坂の上にあった。
家に近づいているのに、遠くとお

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家族

手をつながずに
わたしたちは歩く
暗い道を
光の差す方へ
小さな娘も自分の足で歩く
手をつながずに
それぞれの足で
わたしたちは歩く
わたしたちの星のうえを

この星はあまりに軽く
みずから光ることができない
光が当たってはじめて
その美しさがあらわれる
照らされて
わたしたちは光のなかを歩いてゆく
同じ道をたどり
同じ家に憩い
眠り
朝日を浴びてめざめる

みぞおちをひらく

整体の愉気の会に参加した。

バッハのレコ―ドが終わり、先生が前に立つとほぼ同時に、窓の外から光が差してきた。雨がやんだのだ。

久しぶりに会に出て、自分のからだのかたさを呪った。からだのかたさはこころのかたさ、とどこかで聞いた。

「みぞおちを抜いて」と言われた。
みぞおちは、ひとのからだのなかで、もっともやわらかい場所なのだという。そのもっともやわらかい場所をもっともかたくして、ひとは自分を守

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