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海原スーザン~カップラーメンカフェ~

最新のトレンドを発信し続けている表参道の中心地から徒歩2分。
路地を少し入った場所に新たな流行が生まれていた。
「カップラーメンカフェ」
お馴染みのカップラーメンからご当地カップラーメン、ここでしか食べられないカップラーメンと、あらゆるカップラーメンを一ヵ所に集結させてインスタントラーメンの聖地を謳っている。
お店のオープン前から人気芸能人を使ってニュースで取り上げていたこともあり、開店すると行列がすぐさまでき、今では120分待ちは当たり前という盛況ぶりでSNSでは毎日トレンド入りしていた。
 
そのお店に海原雄山がやってきた。
 
颯爽と店頭に現れると、通常は入口に置いてある整理券を取って、番号を呼ばれるまで待ってもらうのだが、海原雄山はお馴染みの着物姿で現れると、店員が拭いている最中のテーブル席を見つけ、そこにどかっと腰を降ろした。
 
通常ならば店員も整理券の説明をし、順番を待つように促すのだが、あの圧倒的な空気感と、有無を言わさぬ雰囲気を前に、店員は海原雄山に促されるまま、静かにメニュー表を手渡した。そして行列に並んでいたお客たちも誰一人海原雄山の割り込みを咎めるような言葉を発するものはおらず、あの海原雄山がここで何のカップラーメンを食べ、どんな言葉を発するのか、固唾をのんで見守っている。
 
「ご、ご注文はお決まりでしょうか?」
店員が震えながら声をかけると、海原雄山は九州で話題のとんこつラーメンをそのまま再現したカップラーメンを指さした。
 
この店のシステムは店員が注文を受けたカップラーメンとお湯の入ったポットをお客の元へ持っていき、そこでお客がかやくや粉末スープを入れて、お好みの量のお湯を注いで、一緒に持っていったタイマーが鳴ったら食べるというもの。お湯の量で味が変わるとSNSで話題になったり、20分待ったほうが美味しくなると新たな食べ方を発信するインフルエンサーがいたり、この待ち時間が食欲を誘うと発信するユーザーもあり、何かと話題には上がっていた。
味のり、ライス、チーズなどちょっとしたサイドメニューも用意してあるが、海原雄山はとんこつラーメンのみを注文した。
 
店員が海原雄山の前にカップラーメンとタイマーを置くと、海原雄山は静かに目をつぶった。
海原雄山が目をつぶっていた数十秒は、店内の時も止まり、ぴ~んと張りつめた空気が流れた。
突如海原雄山がカッと目を見開くと、すごい勢いで粉末スープとかやくを入れ、お湯を注ぐと再び目をつぶった。
タイマーはセットしてないが、どうやら出来上がり具合は匂いで確認しているようだ。
カップラーメンを前に目をつぶる海原雄山の姿をスマホで撮影しているお客もいる。
海原雄山はお湯を注いでから3分を少し過ぎた時、カッと目を見開き、フタを投げ捨てると一心不乱に麺をすすり出した。
その様子はしばらく食事をしていなかった者が久しぶりの食事にありつけたような勢いで、汁までを一気に食べ尽くし、カップラーメンは瞬く間に姿を消した。
 
食べ終わると、海原雄山はテーブルにお金を置いてお店を颯爽と出て行った。
その姿は正に風のようで、店員も客たちも呆気の取られている間に海原雄山の姿は見えなくなった。
 
店員がテーブルを片付けに行くと、そこにはお金と「食べる直前にお入れください」と書かれた特性スープが置かれていた。
 
そうこの男は海原雄山の腹違いの弟・海原スーザンだったのだ。
特性スープは入れ忘れてしまったが海原スーザンは大満足で帰っていった。
 
 
 

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