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【文庫祭】夏。戦争小説の季節がやってきた

夏の文庫祭りがやってくる。
新潮文庫、角川文庫、集英社文庫。
毎年楽しみにしてるから、
ワクワクしてきます。

ただ、戦争小説が徐々に
減ってきているのだけ、
ちょっとハラハラしています。
『黒い雨』井伏鱒二、
『火垂るの墓』野坂昭如。
毎年揺るがないのは
この作品くらいで、
遠藤周作『海と毒薬』
大岡昇平『野火』
竹山道雄『ビルマの竪琴』
壺井栄『二十四の瞳』
原民喜『夏の花』
こうした名作が夏の文庫祭りの
ラインナップから外れ始めた。

でも、こうなると、
私としては本意じゃないですが、
百田尚樹『永遠のゼロ』が
若い人にも読まれ続けそうだ。

あ、浅田次郎にも
戦争小説がありましたね。
『終わらざる夏』(集英社文庫)

ほかにももっと貴重な戦争小説が
まだまだあります。

吉村昭さんが書いた
『戦艦武蔵』や『零式戦闘機』
また、エッセイ『東京の戦争』
それから太平洋戦争をテーマにした
短編集もたくさんあります。

でも、娯楽性は少ないなあ。

その点では、井上ひさしさんの
『一週間』や『父と暮らせば』は
親しみやすいですね。

ああ、忘れてました。
今年亡くなった昭和歴史の
探検家・半藤一利の本も
太平洋戦争に関する本がたくさん。
『昭和史』全2巻や
『日本のいちばん長い日』など。

半藤さんは対談も良かった。
『昭和史の10大事件』
対談相手は宮部みゆき。
『腰抜け愛国談義』
対談相手は宮崎駿監督。
『昭和をどう考え生きぬいたか』
対談相手は10人以上。
すべて文春文庫。

それから、戦争について
外せないと思うのは、
『「昭和」という国家』
司馬遼太郎(NHK出版)。

それから学術会議で入会を拒まれた
加藤陽子さんの
『それでも日本人は戦争を選んだ』。
新潮文庫。
加藤さんは右からもリスペクトが
たかい研究者だから
学術会議に拒否された時は
なぜだろうか?不思議でしたが、
福田元首相時代に、
防衛問題で提言を政府に出し、
それをネチネチ覚えてた
首相補佐官が拒んだからだそう。

ちなみに、
最初にあげた日本作家の
戦争小説は、ほとんどが
日本が犠牲者側になっている。

日本人が中国大陸で
どんな残酷な仕打ちをしたか、
という目線で書いたのは、
堀田善衛『時間』『上海にて』。
日本人らしくない
オリジナルな視点で、
戦争を起こした日本と
抵抗する中国側の緊張関係が
中国人の視点で描かれています。

悲劇では終わらない堀田さん、
しかも、日本人を断罪する
意図だけでもない堀田さん。
こんな骨太で、視野が広く、
射程距離も長い作家は、
珍しい存在ですね。

おっと、忘れていました。
漫画家で自分も戦地にいた
水木しげる先生の、
『増員玉砕せよ!』と
『コミック昭和史』全8巻は、
みずから腕を失くし、
戦友を亡くした水木先生の
渾身のノンフィクション。

それに匹敵するのが、
松本清張の『昭和史発掘』全9巻。
うち5~9巻が2・26事件を
克明に描いて、太平洋戦争への
道のりを描きました。

でも、開高健にいわせれば、
戦争が8月の風物詩扱いされちゃ
もう世も末だとか。
でも、せめて普段よりは
手に取ろうとする人が増えるなら
8月は、やはり戦争小説の季節、
でよしとしましょうか。

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