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【悪書】たまには、悪い本が読みたくなる

チャールズ・ブコウスキー
という作家がいました。

アメリカの作家で、
70年代、80年代に活躍した
自虐的で、常に酔っ払い、
職業も不安定で、
売春婦と仲良くする
なかば私小説風な作家でした。

日本の西村賢太や
車谷長吉に、似ていなくもない。
私小説的という意味では…。

ただし、ブコウスキーは
さすが欧米文化の薫陶が
備わっているからでしょうか、
日本の私小説家にはない、
悪の香り、悪の気配、
つまり、どこかしら
芸術的に高められた香りが
漂っているんですね。

日本の私小説は
本当に「生活」が、
どこまでいっても生活感と
自意識による自己分析が
明かされますが、 
それ以上でもそれ以下でもない。

そこへ行くと、
ブコウスキーの優れた作品は
ほとんどが短編ですが、
反骨な精神が
悪ふざけしてるかのよう。

ただ、自分のふしだらな人生を
余計に自虐的に書いてるのが、
私には気持ちよく感じられず、
普段は読まないでいるのですが、
平凡に過ぎた日曜の夕方は、
ブコウスキーでも
手に取りたくなる。

そういえば、
ブコウスキーを好きだという人は
なぜか品行方正な
まじめな優秀な人が
多かった気がする。

ブコウスキーみたいに
生きられない真面目な本好きほど、
愛好するのかも。

私は真面目でも、
品行方正でもないから、
ブコウスキーは愛好してないけど、
こんなに、
自分を自虐的に描いて
しかも芸術的な地点まで到達した
ケッタイな作家もいるんだなあ、
と改めて思う。

すると、ほぼ同じ時代に
またアメリカで活躍した、
しかも短編を得意とした、
レイモンド・カーヴァーを
思い出してしまいます。

カーヴァーも
アルコールに人生を惑わせた
作家であるなあ。

なのに、なんでしょうか、
ブコウスキーのような
自棄っぱち感がまるでない。
 
失業や離婚や悪意や挫折を
たくさん描いたカーヴァー。
なのに、上品さと
ストイックさと真摯さを
感じさせられるんです。

ああ、
ブコウスキーから
悪の香りを感じ、
日本の近年の私小説作家になり、
気がつくと
レイモンドカーヴァーの
真面目さに辿り着きました。

そうそう、
悪の香りがする本って
日本にはあまりないんですかね?

奇書とはまた違う「悪書」。

サド公爵の本を訳し続けた
フランス文学研究者の
澁澤龍彦とかかなあ??


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