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日本の非営利組織は「プロスペクト・リサーチ」を実行できるか

~営利・非営利のソーシャル事業の成長が、社会課題の解決を加速させ、より良い社会を築くと信じて執筆~

海外のファンドレイジングでは「プロスペクト・リサーチ|Prospect research」(見込み調査)というキーワードがあります。営業やマーケティングでいう「リード|Lead」(見込み客)獲得に近いイメージで、寄付に繋がりそうな見込み支援者を見つけることが仕事になります。

アメリカでは専門職としてファンドレイジングチームの一翼を担っており、また外注することも多くそのための専門会社まであります。

▼参考:「Prospect research」のwiki
https://en.wikipedia.org/wiki/Prospect_research

しかしながら、日本のファンドレイジングの現場ではあまり目にしません。それには二つの理由が考えられます。

課題1:データ分析のスキル

一つ目は「データ分析のスキル」です。彼らリサーチャーはデータベースをフル活用し、確度が高い支援者候補を見つけます。その際に、以下の3要素でリサーチします。

① 寄付自体に関心があるかを見極める「Giving propensity」(傾向)
② 寄付するだけの金銭的な余裕があるかを見極める「Giving capacity」(能力)
③ 寄付先の団体との繋がりは強いかを見極める「Giving affinity」(親和性)

近年ではAIの活用やデータサイエンティストの参入で成果が加速している一方、日本ではまだこうしたデータ分析を行っている団体は少ないかと思います。とはいえスキルの問題のため、外部の専門家に依頼することで、または自組織で育てることで解決できるのではないでしょうか。

課題2:データの存在

二つ目は「データの存在」です。リサーチャーが活用するデータベースには、膨大な個人情報がストックされていますが、自前のデータ以外に外部から購入したデータも含まれています。アメリカではお金を払うことで合法的に見込み支援者情報にアクセスできます。

ここが日本との最大の違いになります。では、この壁に日本の非営利組織は阻まれて実行できないのでしょうか。そうではないと私は思います。

あらためてリサーチャーが活用するデータの特徴を見てみると、以下の二つの指標群に分かれ、そのなかには8つの指標があります。

Phiranthropic Indicators(慈善指標群)
1)「Previous Donations to Your Nonprofit(過去の寄付履歴)」
2)「Donations to Other Organizations(他のNPOへの寄付)」
3)「Nonprofit Involvement(ボランティアなどの奉仕活動の経験)」
4)「Personal Information(個人情報)」
Wealth Indicators(富裕指標群)
5)「Business Affiliations(所属企業の情報)」
6)「Real Estate Ownership(不動産の所有)」
7)「Stock Ownership/SEC Transactions(株の所有)」
8)「Political Contributions(政治献金)」

このうち、1,3,4,5は部分的にせよデータを保持している日本のNPOは少なからずあると思いますし、2はアンケートを工夫することで取得できます。6に関しては、そのままの情報の取得は難しいですが、個人情報に含まれる住所情報をキーとして、外部データと照らし合わせる方法もある気がしています。

7,8及び外部の個人データ購入(またはアクセス)は難しいのですが、個人的には7,8がなくても致命的とは言えず、データを増やす方法は購入以外にもあります。

あらためてプロスペクトリサーチにおける課題として、「データ分析のスキル」と、アクセスできる「データの存在」の二つに対して、日本でも前者はスキルを持った人に依頼することで、後者は工夫することで、実現できると考えています。

大切なこと:富裕指標群だけに依存しない

最後に、プロスペクトリサーチには「ウェルス・スクリーニング|WEALTH SCREENING」という行為が含まれています。先の「Wealth Indicators(富裕指標群)」に基づいて支援者をリサーチすることとニアリーイコールです。

費用対効果だけを考えると、このスクリーニングを優先し支援者を識別することで大口見込み者だけにアプローチする手段があります。しかしながら、これは結果がついてきません(海外では『LIMITS OF WEALTH SCREENING(ウェルス・スクリーニングの限界)』と言われています)。

理由は、裕福だからといって寄付するのではないからです。(一般的な)寄付に関心があり、さらに(特定の)団体及び活動への関心があってはじめて寄付行為に繋がります。ここを蔑ろにしてしまうと、手痛いしっぺ返しを受けるかもしれません。

いずれにせよ日本でのプロスペクト・リサーチはこれからであり、その可能性は大いにあるのではないでしょうか。

~営利・非営利のソーシャル事業の成長が、社会課題の解決を加速させ、より良い社会を築くと信じて執筆~

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