第2回講義 熱中症と虫刺され
📚はじめに
2022年7月4日(月)19時より、今年度第2回目の講義が開催されました!今回は福島理文先生より、「夏に気を付けるスポーツ医学 ~熱中症と虫刺され」のタイトルでお話しいただきました。ぜひ以下に記している熱中症や虫刺されについての知識をスポーツ現場や日常生活にお役立ていただけたらと思います😊
✅講師の紹介
福島理文先生
・順天堂大学医学部循環器内科、臨床検査医学科医師
・アジアサッカー連盟メディカルオフィサー、東京オリンピック2020男子サッカー日本代表ドクター等、院外のスポーツ現場でもご活躍中
・ご専門は循環器内科、スポーツ医学
・本塾副塾長
✅講義の内容
はじめに
熱中症のポイントとして、
・放置すると命の危険あり
・予防が重要
・応急手当で救命可能
の3つが挙げられる。
熱中症は最悪の場合、死に至る危険がある。正しい知識、予防や応急処置の方法を知ることが大切である。
熱中症のメカニズムと症状
私たちは汗をかいたり体の表面から熱を逃がしたりして、体温を調整している。通常は、このような体温調節に関する機能が正常に働くことで平熱を保っている。しかし、気温や湿度の高い環境下では、熱をうまく外に逃がすことが難しくなる。体温調整機能が破綻して起こるのが熱中症である。
症状としては、めまいや立ち眩み、顔面のほてり、筋痙攣(こむら返り)、倦怠感、吐き気、嘔吐、発汗の異常、ふらつき、高体温、意識障害などが挙げられる。最悪の場合、多臓器不全を起こし死に至る危険がある。
気温のみならず、湿度が高いときも熱中症発症リスクが高いので、注意が必要である。
熱中症とスポーツ
熱中症とスポーツの関連について、日本救急医学会が2014年に発表した「熱中症の実態調査 ―日本救急医学会Heatstroke STUDY2012最終報告―」内のデータをもとに以下に示す。以下のグラフは、2012年夏季に全国の救急医療機関へ搬送された熱中症患者のデータを分析したものである。
上のグラフより、運動時に熱中症を発症しているのはほとんどが10代の男女だということが分かる。
種目別では野球, バスケットボール, テニスなど屋内外を問わず競技人口の多い競技や、陸上競技のようなグラウンドでのスポーツにおいて発症者が多いことがうかがえる。
重症度では、陸上競技はⅢ度が20%以上と多いことが分かる。またⅡ度が50%以上と多いのはゴルフ, ハイキングなど競技者の年齢層が幅広いことが予測できる競技であった。
(参考文献: JJAAM. 2014; 25: 846-62熱中症の実態調査−日本救急医学会Heatstroke STUDY2012最終報告− (jst.go.jp))
また、運動開始から熱中症発症までの時間については、発症者の40%が運動開始から2時間以内に発症しているというデータがある。運動時間が短くても注意が必要である。
熱中症の予防(🌟重要)
熱中症は未然に防ぐことができ、予防が最も大切である。講義内で紹介された5つの予防法を紹介する。
1⃣ 暑熱順化(暑さに強い体をつくろう!)
暑熱順化とは、暑さに体が慣れていくことである。いきなり激しい運動をするのではなく、徐々に暑さに慣らすことは熱中症を予防することにつながる。例えばウォーキングや自転車, サウナが推奨されている。
暑熱順化について、10~14日間かけて徐々に運動時間と強度を上げていくのが理想的とされているが、2~3日でも効果はあるようだ。しかし、この順化の効果の持続は3週間以内であることが明らかになっていて、注意が必要である。
NCAA(全米大学体育協会)が示している暑熱順化ガイドラインがある。コンタクトスポーツにおけるコンタクトの有無や、アメリカンフットボールの装備の有無についても基準がガイドラインに示されている。
Preseason Heat-Acclimatization Guidelines for Secondary School Athletics | Journal of Athletic Training (allenpress.com)
2⃣ 熱中症リスクを前もって確認
熱中症のかかりやすさには個人差がある。
・過去に熱中症にかかったことがある
・持病(心臓病, 糖尿病, 精神疾患)がある
・体調がすぐれない(睡眠不足, 発熱, 二日酔いなど)
・暑さへの抵抗力が弱い(高齢者, 幼児, 肥満, 体力不足, 運動不足, 暑熱順化不足)
以上のケースは高リスクだとされている。
運動を開始する前に自身のリスクを確認すること、かかりやすい人に配慮することが大切である。
3⃣ 暑さに合わせて無理のない運動を
WBGT(: Wet Bulb Globe Temperature)と呼ばれる指数がある。湿度、日射や輻射など周囲の熱環境、気温の3つを取り入れた指標である。これは、熱中症予防を目的として1954年にアメリカで提案されたもので、人体と外気との熱のやり取りに注目して定められた。現在では、労働環境や運動環境の指針として認定されている。
WBGTについて定義等はこちら→環境省熱中症予防情報サイト 暑さ指数とは? (env.go.jp)
これは、本塾の活動の一環で帯同させていただいた大会で撮影したものである。このようにWBGTはスポーツの現場でも熱中症のリスクをはかる指数として利用されている。
日本スポーツ協会が発表した熱中症予防運動指針にもWBGTが取り入れられている。
(熱中症予防のための運動指針 - 熱中症を防ごう - JSPO (japan-sports.or.jp))
また、日本サッカー協会が発表した熱中症対策ガイドラインには、WBGTが高いときは通常の飲水タイムに加えて、木陰で休むことのできるクーリングブレイクを設定することが示されている。WBGTが高いと汗が蒸発しにくいため、水をたくさん飲んで汗をかいたとしても、体温冷却にはあまり効果がないと考えられている。そのため、体を冷却するためのクーリングブレイクが重要である。ただし、クーリングブレイクをより効果的なものにするには、末梢の血管に循環する血流が十分でなければならないため、脱水状態は厳禁である。
日本サッカー協会熱中症ガイドラインはこちらから→暑熱対策・水分補給|メディカル|JFA|日本サッカー協会
4⃣こまめな水分と塩分の補給を
水分補給のポイントとして、
・運動前後に必ず水分を摂取する
・定期的に水分の補給状態を確認する
・自由に水分補給できる準備を整える
・のどの渇きを自覚する前に水分補給する
等が挙げられる。
サッカー日本代表は、水分補給の目安に体重減少の割合と尿の色を取り入れているそうだ。体重減少については、運動中に減った体重分の水分を運動後2時間以内に摂取する、体重減少が体重の2%以内になるように運動時の水分補給量を調整する、という2つのポイントを教えていただいた。
今回の講義では、経口補水液やスポーツドリンク摂取の重要性についても学んだ。
経口補水液は、口に入れてから腸で吸収されるまでの時間が短いため、発汗により失った水分と塩分を素早く補給することができる。ナトリウムとカリウムを適度に含んでいて、中等症以下の脱水には点滴と同様の効果が期待できる。市販の経口補水液がない場合は、水1リットルに対して砂糖40g(大さじ4~5杯), 食塩3g(小さじ半分)を加えたもので代用が可能である。
5⃣ 体を冷やそう(クーリング)
1)効率の良いクーリング方法とは
クーリングは、熱中症発症時の対応(救命のための対応)時のみならず、日常的な暑熱対策下でのコンディション維持のためにも有用である。
4⃣で水分補給と塩分補給についてまとめたが、水分補給ばかりに気を取られていると、熱中症を発症してしまうこともある。熱中症の予防のためには、脱水を回避するだけでは不十分で、深部体温を上げないようにすることが最重要となる。
よって、WBGTが高い場合には、水分や塩分の補給に加えて身体を積極的に冷却(クーリング)する必要がある。WBGTが高い場合は、水分補給だけでは深部体温の上昇を防ぐことができない。
続いて、具体的なクーリングの方法について。股、脇、首などの大きな血管が通っている場所を冷却するよう学ぶことが多いが、実は冷却効率が良いとは言えない。効率よく体温を下げるにはどうすればよいのか。
下の図2つは身体冷却法と体温低下率の関係についてまとめたものである。
研究概要についてはこちら→Cold Water Immersion: The Gold Standard for Exertional Heats... : Exercise and Sport Sciences Reviews (lww.com)
(医事委員会コラム 第1回「熱中症が疑われる時の身体冷却の方法について」|公益財団法人日本ソフトボール協会 (softball.or.jp)より)
以上のデータから、スポーツ現場で実践できる冷却方法で、効率の良いものとして、
・身体全身を氷水につける
・冷たいシャワーを浴びる
・身体全体に冷やしたバスタオルを巻く
・冷たい水分を補給(シャーベット状の氷:アイススラリーの導入)
・ミスト+送風
・毛細血管の通る手や足の冷却
・従来通りの頸部や鼠径部の冷却
が挙げられる。
身体全身を氷水につけるにはアイスバスを導入するとよい。
日本スポーツ協会から発表されている熱中症予防ガイドブックが、2019年に改訂されている。 主に、身体冷却と水分補給の方法について改定されている。
(リンクはこちら→熱中症を防ごう - JSPO (japan-sports.or.jp))
2)プレクーリングの推奨
運動前に体を冷やす(プレクーリングを実施する)ことは熱中症を予防する効果がある。具体的なプレクーリングの方法としては、冷水浴、クーリングベストの着用、スラリーアイス(シャーベット状の氷)の摂取、手掌冷却の実施などが挙げられる。
6⃣ 熱中症を疑った場合の対応
熱中症を疑った場合は以下のような対応が必要である。
軽症時
具体的な症状:大量の発汗、顔面紅潮、めまい、立ちくらみ、生あくび
対応:涼しいところで安静に、衣服を緩めて頭を低く
身体の冷却と水分や塩分の補給も
中等症
具体的な症状:頭痛、嘔吐、倦怠感、ぼーっとする
対応:軽症時の対応に加え、医療機関の受診を検討
体温の管理(可能であれば直腸)
口から水分摂取できない場合は点滴
重症
具体的な症状:意識障害、高熱、痙攣
対応:救急車を呼ぶ
救急車到着前から身体冷却
環境省発表の熱中症環境保健マニュアルはこちら→heatillness_manual_full.pdf (env.go.jp)
虫刺症(虫刺され)
まずは刺されないように予防することが大切である。長袖や長ズボンを着用することで肌の露出を避ける、蚊取り線香や虫除け剤を使用するなどの工夫が必要である。
続いて、刺されてしまった場合の対応について。蚊やブユの場合、軽症であれば経過観察とアイシングをする。
蜂に刺されてしまったら、刺された場所から10m以上離れる。15分〜30分以内に吐き気や呼吸苦といった症状が出た場合は、アナフィラキシーショックを疑う。そのような症状がでなければ、刺された箇所の対応にうつる。刺された箇所を絞るように水でよく洗い、ステロイド軟膏を使ったりアイシングをしたりする。
また、ダニに噛まれた場合は感染症への注意が必要である。1週間〜3週間後に発熱や皮疹などがみられた場合には受診が必要となる。
所属している部活(屋外競技)での熱中症対策の実践
部活動において学んだ熱中症対策を実践してみました。
・部活動のレベルでは冷蔵庫が近くになく、コスト面からも氷をたくさん使うことが困難
→熱中症リスクが高そうな人は氷で手掌冷却、その他は冷水
・ファンがないのでうちわで代用
・アイススラリーは好みが分かれそう
・クーラーボックスを開けるとすぐに氷が溶けてしまう
→クーラーボックスは出来る限り木陰に設置
・暑熱対策と感染対策の両立が難しい(バケツやボトルの共有が困難)
・塩分摂取のため塩分タブレットを導入
・木陰での休憩の導入
✅まとめ
夏のスポーツ活動は熱中症や虫刺されへの注意が必要で、医学的知識が求められることが分かりました。講義を担当いただいた福島先生、スタッフの皆さまに感謝申し上げます。
最後までご覧いただきありがとうございました。
文責:順天堂大学医学部 廣瀬凜
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