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2023年上半期:映画ベスト10

 あっという間に6月が終わり、今年もすでに下半期である。

 映画好きの友人と会うとき、お互いの上半期ベスト10を公開し合うのが習慣になっているのだが、今回、それをnoteで公開することにした。

 コロナ禍の影響で劇場公開を遅らせていたのか、今年は甲乙つけがたいほど、クオリティの高い作品が立て続けに公開されている。

みなさんのベスト10やオススメの作品も、TwitterやThreads(@junshintani)でぜひ教えていただきたい。

10:スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース

 ピーター・パーカーの遺志を継いだ少年マイルス・モラレスを主人公に新たなスパイダーマンの誕生を描き、アカデミー長編アニメーション賞を受賞した2018年製作のアニメーション映画「スパイダーマン スパイダーバース」の続編。

https://eiga.com/movie/96269/

 今年観た映画の中で「劇場で観ないと後悔するランキング」を作るなら、圧倒的に1位な本作。

 全てのシーンが、そのままポスターになって販売できそうなほど美しく、カッコいい。
 加えて、そうした静止画としての魅力だけではなく、アニメーションの限界というか「表現のバリエーションの限界」のようなものに果敢に挑んでおり、ただただ圧倒されっぱなしの140分であった。

 しかも、作り手が心から楽しんで作品を作っている感じがスクリーン全体から溢れ出しており、観ているこちらも思わず頬が緩んでしまうこと間違いなしだ。

9:そばかす

 30歳の蘇畑佳純(そばたかすみ)は、物心ついた頃から恋愛がよくわからず、いつまで経っても他者に恋愛感情が湧かない自分に不安を覚えながらもマイペースに生きてきた。

 妹が結婚・妊娠したこともあって母からは頻繁にプレッシャーをかけられており、ついには勝手にお見合いまでセッティングされてしまうが・・・

https://eiga.com/movie/97505/

 私だけだろうか。ある時期から邦画を観る機会がグッと減ってしまったのは。

 映画館で観る邦画の予告編は「あのヒット原作の映画化!」のようなものが並び、ミニシアターで公開される作品は、予算の少なさも相まって洋画と比べるとどうにもしんどい。

そんな中、久しぶりに友人に勧めたくなる邦画に出会えた。

 恋愛をしたことがない、そういう感情もない。
だけど楽しく生きていける ——
 それが私だと思っていた。

https://notheroinemovies.com/sobakasu/

 そう語るのは本作の主人公である蘇畑 佳純(そばた・かすみ)。少し具体的な言葉を使うとアセクシュアル(=他者に対して性的欲求・恋愛感情を抱かないセクシュアリティのこと)に該当する主人公。

 彼女を通して見る世界は、「こういう風に生きなきゃいけない」という私たちの思い込みを、やわらかく解きほぐしてくれることだろう。

 どうか、必要な人にこの映画が届き、自分のことを理解してくれない人に「私、こんな感じだから」ってこの映画を差し出してくれることを願う。

 P.S. パンフレットに載っている児玉美月さんのレビューの一文「友達はどうしてそれだけで、最高の存在になれないのだろう。」が最高なので、パンフを見かけたら是が非でもゲットしてほしい。

8:after sun アフターサン

 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。

 まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。

 20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。

https://eiga.com/movie/98881/

 観終わった瞬間「こういうエンパワーメントの仕方があるのか」と衝撃を受け、しばらく席を立つことができなかった。

 映画の表層だけ見ていると、一組の親子がリゾートでバカンスしているだけの映画であり、映画の中のソフィもそういう気分で過ごしていたのだろう。

しかし、人生には時が過ぎてわかることが多々ある。

 本作の感想を見ると「絶賛されてるけど、何が良いのかわからなかった」という意見も多い。

父親が何に悩んでいたのか。そして彼は今どこにいるのか。

 映画は明確な答えを提示せず、あくまでヒントをほのめかす程度にとどめる。しかし、彼と同じか近しいセクシャリティを持つ人は、他の映画では味わうことのない、ヒリヒリとした痛みを感じられるだろう。

そう、夏の暑い日に家に帰ってから気づく、しつこい日焼けの跡のように。

7:ガール・ピクチャー

 クールでシニカルなミンミと、素直でキュートな親友ロンコ。

 同じ学校に通う2人は放課後にスムージースタンドでアルバイトしながら、恋愛やセックス、将来への不安や期待についてのおしゃべりを楽しんでいる。

 そんなある日、恋愛感情を抱いたことのない自分に悩んでいたロンコは、理想の相手との出会いを求めてパーティへ繰り出すことを決意するが・・・

 北欧フィンランド発「ガールミーツガール 」×「自分のアイデンティティと向き合う」様を描いた、これからの時代のガール祝福ムービー!

 予告編でちょっとでも「キュン」としたり「うっ」となった人にはぜひ見てほしい、隠れた名作。(予告の30秒あたりから「ブック・スマート」でも使われていた曲がかかってテンションぶち上がり。)

 観てる間中「女の子に生まれてこんな恋がしたかったなぁ〜」って、ずっと目をキラキラさせながら観てしまった。

 北欧が舞台なので、「バイバイ!」の代わりに「モイ!」って言うのもとってもかわいい。

さびしくなった時に見ると元気になる、素敵な映画でした。

6:ウーマン・トーキング

 赦すか、闘うか、それとも去るか。

2010年、自給自足で生活するキリスト教一派の村で起きた連続レイプ事件。

 これまで女性たちはそれを「悪魔の仕業」「作り話」である、と男性たちによって否定されていたが、ある日それが実際に犯罪だったことが明らかになる。タイムリミットは男性たちが街へと出かけている2日間。

 緊迫感のなか、尊厳を奪われた彼女たちは自らの未来を懸けた話し合いを行う―。

https://eiga.com/news/20230512/14/

 対立する意見が生まれたとき、我々は「話し合い」で対立を乗り越えられるのか。

 この命題に挑むのが上映時間104分のほとんどを「話し合う」シーンで構成した本作だ。

 昨今、#MeTooの流れを組む映画が多数製作されている中で本作が特徴的なのは

  • 話し合いに子どもが参加していること

  • 男性にも理解者がいること

の二点を描いている点だろう。

 そもそも子どもが参加しているのは、彼女も被害者だからであり、本来であれば絶対にあってはならないことではあるが、子どもの意見も一人の人間の意見として対等に扱う光景は、他の作品ではなかなか観られないのではないか。

 私が観た映画館がオフィス街だったせいか、年配の男性が多く観に来ていたのも印象的だった。彼らがこの映画を観て何を思ったのか、聞いてみたいところである。

5:ザ・ホエール

 40代のチャーリーはボーイフレンドのアランを亡くして以来、過食と引きこもり生活を続けたせいで健康を損なってしまう。

 アランの妹で看護師のリズに助けてもらいながら、オンライン授業の講師として生計を立てているが、心不全の症状が悪化しても病院へ行くことを拒否し続けていた。

 自身の死期が近いことを悟った彼は、8年前にアランと暮らすために家庭を捨ててから疎遠になっていた娘エリーに会おうと決意するが・・・

https://eiga.com/movie/96566/

 アパートの一室で繰り広げられる、濃密な117分の密室劇。
 過去のトラウマから、自分で歩くこともままならないほど身体が大きくなってしまったチャーリー。彼に捨てられ、満たされない日々を過ごす娘エリー。二人が再会を果たしたとき、最期の瞬間を賭けた本音のやりとりが始まる。

 先に紹介した「after sun」とは対照的に、本作では父親と娘が自身の全てをさらけだす。

 登場人物は少なく、描かれる場所もアパートの一室のみという地味な設定だが、練り込まれた台詞の数々と”魂の演技”ともいえる役者陣の芝居のおかげで退屈する暇はまったくない。

 主演のチャーリーを演じるのは、ハムナプトラシリーズで一躍有名となったブレンダン・フレイザー。表舞台から遠ざかっていたが、今年のアカデミー賞で主演男優賞を受賞し、これ以上ないほどの奇跡のカムバックを果たした。

 運よく彼が登壇した舞台挨拶上映のチケットを取ることができたのだが、ハムナプトラ公開当時からのファンである私は号泣してしまった。

これからもファンのみんなで支えていきたい。
おかえり。そしてありがとう。

4:ぼくたちの哲学教室

 北アイルランド、ベルファストにあるホーリークロス男子小学校。

 ここでは「哲学」が主要科目になっている。エルヴィス・プレスリーを愛し、威厳と愛嬌を兼ね備えたケヴィン校長は言う。「どんな意見にも価値がある」と。

 彼の教えのもと、子どもたちは異なる立場の意見に耳を傾けながら、自らの思考を整理し、言葉にしていく。

https://youngplato.jp/#intro

 選んだ10本から1本だけをお薦めするなら、間違いなくこの映画を選ぶだろう。

 タイトルや予告から「すごく真面目で、学校の授業で見せられそうな映画感」が漂っているが、どちらかというと「プレスリー大好きおじさんのガチンコ奮闘記」な感じの楽しい映画である。

 「どうして他人を殴ってはいけないんだろう?」「友だちってなんだろう?」アイルランドに実在する小学校では「哲学」と称する授業で、さまざまな問いを子どもたちに投げかける。授業を取り仕切るのは、エルヴィス・プレスリーが大好きなスキンヘッドの校長・ケビン。

 彼が「哲学」の授業を始めた背景には、アイルランド・ベルファストの歴史が深く関わっている。

 過去に内戦が起こったベルファストの地では、現在も様々な”対立”が残っており、またいつ火を吹き返すかわからない。そんな環境で育つ子どもたちに同じ過ちを繰り返さないため、ケビンは「自分で考えられるようになる力」をつけさせようと奮闘する。

 友だちを殴ってしまった生徒に「どうしてそんなことしたの?」と聞くと、「やられたらやり返せって父さんに教わった。」と返ってくる。
 過酷な内戦状態を過ごした父親が、息子にこのように教えるのも無理はない。さらに、家庭の考え方に対して、学校はどこまで介入できるのかという問題もある。

 しかし、対立と暴力という同じ過ちを繰り返していては、いつまでも平和は訪れない。
 己の信念を胸に、ケビンは生徒と向き合う。
「今日の授業では、お父さんにやられたらやり返せと言われたらどのように対応すれば良いのか、みんなで考えよう。」

 ここまでの授業を行う学校が日本にあるのだろうか。
(もしあればそれは希望である。)
「同じ過ちを次の世代に繰り返させない」ためにここまで奔走する大人を見せつけられると、思わず「われわれには何ができるだろう」と考えずにはいられない名作であった。

3:青いカフタンの仕立て屋

 海沿いの街サレの路地裏で、母から娘へと受け継がれるカフタンドレスの仕立て屋を営む夫婦ハリムとミナ。

 ハリムは伝統を守る仕事を愛しながらも、自分自身は伝統からはじかれた存在であることに苦悩していた。ミナはそんな夫を理解し支え続けてきたが、病に侵され余命わずかとなってしまう。

 そんな彼らの前にユーセフという若い職人が現れ、3人は青いカフタン作りを通じて絆を深めていく。

 ミナの死期が迫る中、夫婦はある決断をする。

https://eiga.com/movie/99309/

 長年連れ添った夫婦が、パートナーとの最期の時を過ごす。

 映画においてよくある題材を主軸に、本作では「自分を愛すること」そして「他者を愛すること」の可能性を描き出す。

 主人公が仕立てるカフタン=結婚式や宗教行事などフォーマルな席に欠かせない伝統衣装のように美しい本作の鍵となるのは、舞台が同性愛が犯罪とみなされるモロッコであること。

 未見の方にはあまり多くの前情報を入れずに観ていただきたいので、監督の言葉を引用して締めとしたい。

 愛に正しいかたちはなく、どんな愛でも等しく価値がある。
 だからミナとハリムの愛も、同じように美しいのです。
 愛は人間が決して定義できないものなのだと思います。

https://www.cinra.net/article/202306-bluecaftan_gtmnmcl

2:ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME 3

 クセが強くてワケありな銀河の落ちこぼれたちが結成したチーム「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」の活躍を描く、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の人気シリーズ第3弾。

https://eiga.com/movie/95011/

 VOLUME 1から9年。
 その間、多くの笑いをもたらし、多くの涙を共に流したガーディアンズの完結編。

 上映中、劇場の至る所から鼻を啜る音が聞こえてきた。
しかしそこはガーディアンズ、涙で終わるわけがない。
 エンドロールが終わると拍手が起こり、席を立ったみんなの顔は笑顔だった。

 久しぶりにここまで祝福された映画に出会えて幸せな限りである。
楽しい時間と思い出をありがとう。

1:SHE SAID シー・セッド その名を暴け

 ニューヨーク・タイムズ紙の記者ミーガン・トゥーイーとジョディ・カンターは、大物映画プロデューサーのワインスタインが数十年にわたって続けてきた性的暴行について取材を始めるが、ワインスタインがこれまで何度も記事をもみ消してきたことを知る。

 被害女性の多くは示談に応じており、証言すれば訴えられるという恐怖や当時のトラウマによって声を上げられずにいた。

 問題の本質が業界の隠蔽体質にあると気づいた記者たちは、取材対象から拒否され、ワインスタイン側からの妨害を受けながらも、真実を追い求めて奔走する。

https://eiga.com/movie/98090/

「完璧」

 主演のキャリー・マリガンの眼差しを前に、私の脳裏にはその二文字だけが浮かんでいた。

 2017年にアメリカで始まり、世界中に広がった#MeToo運動。
 この運動がどのようにして広がったのか、背景で尽力したのはどのような人たちだったのか。
 その一端を追体験させてくれるのが、本作「SHE SAID」である。

信頼できる同僚。
理解のある上司。
サポートしてくれる家族。
これ以上被害者を増やさないため、自らの危険を顧みずに告発する被害者。
告発を知り、連帯の声を上げる市井の人々。

 全てのバトンがつながり歴史が動く瞬間、観客も一緒に「Publish(公開)」のボタンを押していることだろう。

 彼女たちの告発がなければ、ジャニー喜多川氏に対する一連の告発も闇に葬られたままだったのではないか。決して海の向こうの物語ではない、今も続く#MeToo運動に乗って自分は何ができるのか。

ぜひ、この映画からヒントと勇気をもらってほしい。


以上が、私が選ぶ2023年上半期の映画ベスト10だ。

 7月も「クロース」「大いなる自由」「サントメール ある被告」「シモーヌ」とクィア系の話題作が相次いで公開されるし、ハリウッド系であれば「トランスフォーマー」「ミュータントタートルズ」などお馴染みのシリーズの新作の公開も控えている。

 個人的に一番の楽しみなのは、ペ・ドゥナ主演の「あしたの少女」。
 2014年に公開された「私の少女」ぶりのチョン・ジュリ監督 × ペ・ドゥナのタッグが観られる日を、心待ちにしている。

text by シンタニジュン @JunShintani(Twitter / Threads

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