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『旅する練習』 乗代雄介

『旅する練習』 乗代雄介

○読書メモ言ってしまえば、コロナ禍で、おじとめいが途中で就職をひかえた女性と出会い、ともに鹿島スタジアムを目指して、おじは風景を描く練習を、めいはサッカーの練習をしながら、歩いて旅するだけの話である。

コロナ禍で学校は休み、密を避けるために歩いての旅は許される、企業は内定者に辞退を促す。時代性が物語の前提を作る。

旅する途中で現れるカワウやアビといった生物、柳田國男が書いた利根川、真言宗の寺院

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本の紹介文~多様性尊重への疑問~『正欲』朝井リョウ

本の紹介文~多様性尊重への疑問~『正欲』朝井リョウ

多様性の尊重が叫ばれる社会であるが、とても人には言えそうもない性質を持った人はどうすればいいのか。本書は小説を通して「多様性」という言葉のもつ脆さと、多様性からこぼれ落ちるマイノリティの生き方に焦点をあてる。

多様性、ダイバーシティ、社会的包摂など誰もが生きやすい社会の実現を、本音と建前はありつつ、多くの個人、自治体、企業は掲げているが、その掛け声に違和感を持つ方にぜひ本書を手にとってほしい。

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本の紹介文
~多様性の尊重と向き合い方~
『スター』朝井リョウ

本の紹介文 ~多様性の尊重と向き合い方~ 『スター』朝井リョウ

朝井リョウさんの小説の魅力は、登場人物の配置を含めた物語の流れの美しさ(意味のあるタイミングで意味のあることを語らせる構成の妙)と、時代を反映した主題に著者なりの答えを思いきって、書き切るところにあると思います。(えらそう。)

デビュー10周年を記念した本作は、大学時代に共同作品により映画祭でグランプリを受賞した尚吾と紘のその後を描く。尚吾は卒業後に日本を代表する映画監督である鐘ケ江氏のもとで、

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