【88.水曜映画れびゅ~】『ある男』~映画を観て、小説を読んでみました。~
『ある男』は、先月から公開されている映画。
平野啓一郎の同名小説を原作とした作品です。
あらすじ
あの人は、誰だったの…?
谷口 里枝にとって、夫 谷口 大祐との日々は幸せそのものだった。
二人の関係の始まりはぎこちなかったが、離婚を経験して故郷に戻った里枝が立ち直れたのは大祐との出会いが大きかった。
里枝の連れ子 悠人にも「父さん」として慕われ、里枝との間にも新しい娘のはなを授かり、大祐自身にとっても幸せな毎日のように思われた。
そんななか…
大祐は仕事中に不慮の事故で亡くなってしまう。
突然の死に里枝は悲しみに暮れた。
しかし、大祐の死がもたらしたのは悲しみ以上に奇妙な展開だった。
・・・
大祐は自らの過去を積極的に語ることはなく、生前には「自分の親族に一切連絡をとらないでくれ」と里枝に告げていた。
それでも「訃報を伝えないわけにはいかない」と思い、里枝は大祐の一周忌に大祐の兄を呼ぶと、里枝の家を訪れた義兄は仏壇に置かれた大祐の写真を見てこう言った。
「これ、大祐じゃないですよ…」
今の自分を捨てられるなら…
”谷口 大祐”は、谷口 大祐ではなかった…
「だったら、私たちの知る”谷口 大祐”とは誰だったのか?」という奇妙な謎を抱えた里枝は、かつて離婚の仲介を依頼した弁護士の城戸に相談をする。
人権派の弁護士で情にも厚い城戸は、里枝のために”谷口 大祐”の身元調査を引き受ける。
なぜ”谷口 大祐”は、他人になりすましていたのか?
その謎を追っていくなかで、城戸は在日3世である自分自身のルーツを省み始め、「今の自分を捨てて他人として人生をやり直せるなら…」という考えが他人事のように思えなくなっていく。
Twitterで話題だったので、観に行きました。
本作については全く前情報なしの状態だったのですが、とにかくTwitterで「おもしろい!」というTLをめちゃくちゃ流れてきたので、気になって観に行ってみました。
実際に鑑賞してみれば、もうとにかくストーリーがヤバすぎて(語彙力なくてすみません笑)Twitterでの感想が間違いなかったことを確かに実感しました。
最初から最後まで引き込まれる物語。
ただのミステリーではなく、人の”生まれ”について、”過去”について、”偏見”について、どう向き合うべきかを問いかけられているかのような作品で、帰り道に一人「自分はどうだろうか…?」と考え込んでしまいました。
そして何より印象的だったのが”映画のラストシーン”。
「えっ?」と息を漏らしてしまうほど奇妙な終わり方で幕が下り、エンドロール後もしばらく放心してしまって席を立つ気力が出ないほど、衝撃的なラストでした。
映画鑑賞後、小説を読んでみました。
そんな映画のラストを受け、気になったのが本作の原作となった平野啓一郎の同名小説。
原作でのラストはどのようなものだろうと思い、映画鑑賞後にBOOKOFFに駆け込み、購入しました。
原作を読み始めて衝撃だったのは、私が感銘を受けた映画のラストが小説の冒頭部分だったということ!
そこからはもう…小説も夢中になって読んでしまいました。
小説と映画をどちらも拝見して思ったのは、映画は物語として小説に忠実だったのですが、小説に比べて全体像としては曖昧にしている部分が多かったように思い返しました。
つまり原作は、映画では説明されなかった部分が細かく記されているんですね。
しかしこの作品の凄いのが、”小説では描かれているのに映画で説明されなかった部分”が映画にしっかり反映されているということ。
小説で描かれいる部分というのは、単に映画で描かれなかったわけではありません。
そういった部分について、映画では背景などの曖昧にしているだけで実は触れていないわけではないんです。
なので、「そういうことだったのか!」という発見が小説を読んでいくうちに何度もあったんです。
例えば…
結局、ラストシーンは何だったのか?
なぜ映画は、一枚の絵画から始まるのか?
なぜ小籔 千豊がキャスティングされているのか?
こういった映画を取り巻く様々な疑問が小説によって回収されていきました。
そして小説を読んでから、「これは凄い作品だ!」と改めて思わされました。
前回記事と、次回記事
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来週は、最新作『ホワイト・ノイズ』の配信が控えるノア・バームバック監督の傑作Marriage Story (2019)を紹介する予定です。
お楽しみに!