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【43.水曜映画れびゅ~】"Birdman"~激戦の第87回アカデミー賞 作品賞受賞作品~

"Birdman or (The Unexpected Virtue of Ignorance)" バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)は2014年公開の映画で、『バベル』(2006)や『レヴェナント: 蘇えりし者』(2015)で知られる アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督作品。

現在(2021/10/13)、Amazonプライムにて視聴可能です。

あらすじ

かつてスーパーヒーロー映画「バードマン」で世界的な人気を博しながらも、現在は失意の底にいる俳優リーガン・トムソンは、復活をかけたブロードウェイの舞台に挑むことに。レイモンド・カーバーの「愛について語るときに我々の語ること」を自ら脚色し、演出も主演も兼ねて一世一代の大舞台にのぞもうとした矢先、出演俳優が大怪我をして降板。代役に実力派俳優マイク・シャイナーを迎えるが、マイクの才能に脅かされたリーガンは、次第に精神的に追い詰められていく。

映画.comより一部抜粋

激戦、第87回アカデミー賞

本作が公開された2014年。

その2014年シーズンの表彰にあたる第87回アカデミー賞の作品賞の一覧が以下になります。

・『アメリカン・スナイパー』
・『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』
・『6才のボクが、大人になるまで。』
・『 グランド・ブダペスト・ホテル』
・『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』
・『グローリー/明日への行進』
・『博士と彼女のセオリー』
・ 『セッション』

第87回アカデミー賞の作品賞の一覧

ご覧の通り、名作揃いのノミネーションとなっています。

「アカデミー作品賞なのだから名作揃いで当たり前だろ!」と思われるかもしれないのですが、この年のノミネーションはその中でも傑作中の傑作揃いとなっています。

例えば、戦争映画として歴代最高の興行収入を記録したクリント・イーストウッド監督作品『アメリカン・スナイパー』、ベルリン国際映画祭審査員グランプリを受賞した『 グランド・ブダペスト・ホテル』、スティーヴン・ホーキング博士を エディ・レッドメインが演じ主演男優賞に輝いた『博士と彼女のセオリー』、後に『ラ・ラ・ランド』(2016)を手掛けるデイミアン・チャゼル監督の衝撃の長編映画デビュー作『セッション』
などなど。

正直どれが作品賞を受賞しても納得できてしまうクオリティーなんですね。

そんなハイレベルな戦いがたどり着いた答えは、本作『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』でした。

さらに作品賞だけでなく、監督賞までも獲っています。

ではなぜ、この作品がこの激戦を制することができたのでしょうか?

今回の記事ではそんな本作の魅力を深堀りしていきたいと思います。

時代に逆らう"アンチ・スーパーヒーロー映画"?

2008年に公開された『アイアンマン』を皮切りに、今もなおハリウッド界を席巻しているMUC。歴代最高興行収入を連発し続けた『アベンジャーズ』などを筆頭に多くのスーパーヒーロー映画を世に送り出し、世界中のファンを魅了し続けています。

しかし、こういったスーパーヒーロー映画を毛嫌いする業界人はハリウッドに一定数います。「商業的であり、芸術性に欠ける」であったり、「一作で完結しない映画は、映画ではない」というように理由は様々なのですが、私個人の意見としては単なる妬みなんじゃないかな、と思います。

そのようなMCUへの強い妬みを持つ業界人を主人公にしたのが、本作。

スーパーヒーロー映画「バードマン」で世界的な人気を博したリーガン・トムソンは、キャリア路線の変更のため「バードマン」シリーズを打ち切りますが、その結果キャリアは失墜。それとは対照的に盛り上がるハリウッド界のスーパーヒーロー映画市場に対し、不平を垂れ流すシーンが度々描かれます。

その一方で心の中では「もう一度、スーパーヒーローに戻ってしまえば楽になるぞ」というかつて栄光にすがる悪魔のささやきも感じています。

このような主人公のキャラクター性にはすごく複雑な風刺が含まれている、と私は思います。

表面的に見れば「スーパーヒーローものは映画ではない」というメッセージ性が強く取れますが、その一方でリーガン自身はそのスーパーヒーローを演じたことによる恩恵を過去にちゃんと受けているわけなんですよね。それゆえに今もなお一定の知名度があり、その知名度を利用して新しいキャリアを築こうとしている。

こういうことを踏まえると、この映画自体は「スーパーヒーローものを否定しているわけではない」といえるんです。むしろ、映画業界の道理としてスーパーヒーロー映画はなくてはならない存在であることを認めている節さえあると思えます。

実際にスーパーヒーロー映画は監督や俳優などにとってキャリアアップにつながっているケースもありますし、商業的と言われようとも『ダークナイト』(2008)や『ブラックパンサー』(2018)を筆頭に批評的な成功を収めている作品も数多く存在します。

つまり本作は、そういったスーパーヒーローものに対するバイアスを持つ人間に対してのメッセージが強くあるように感じます。

そのような偏見に囚われず、純粋な心で作品を観ることの大切さに気づかせようとすることが本作の究極的な目的ではないかと私は思いました。

登場人物と、出演俳優がリンクする!?

本作の魅力としてあるのが、俳優陣の高い演技力にあります。

実際に前述のアカデミー賞においては、主演男優賞(マイケル・キートン)、助演男優賞(エドワード・ノートン)、助演女優賞(エマ・ストーン)にそれぞれノミネートされています。

この高い演技力の背景には、それぞれの俳優陣の素の姿と演じた人物のキャラクターが非常にリンクしているということがあります。

マイケル・キートン

主演を務めたのは、マイケル・キートン

複雑なキャラクター背景を持つリーガンを演じれたのは、キートン自身の経歴にあります。

今でこそ『スポットライト』(2015)などで知られる硬派な実力派俳優であるマイケル・キートンですが、1990年代前後には初代バットマンシリーズでバットマンを演じていました。

つまりキートン自身もスーパーヒーローの恩恵を受けた一人なんですね!

この背景を知っている人からすれば「なんというキャスティング!」という感覚です。つまり、キートンがリーガンを演じていること自体が本作における一種の壮大なるジョークでもあるんですね(笑)

それでもそこを単なるジョークではなく、きっちりとリーガンというキャラクター作り上げたのは「さすが!」の一言。

スーパーヒーローを演じ、身をもってその功罪を知ったマイケル・キートンだからこそ演じれたのものだったかもしれません。

エドワード・ノートン

自由奔放でありながら演技に対しては非常にストイックな俳優という難しい役柄を演じたのは、エドワード・ノートン

この演技にストイックという役柄は、エドワード・ノートン自身の俳優としてのスタンスとリンクしています。

ノートンは大衆迎合的な映画への出演を好まず、芸術性の高い映画を重視していると度々指摘されています。それは単なるわがままではなく、その演技力はハリウッド屈指とされているゆえに無下にするわけにもいかず、そのために”扱いづらい俳優”と噂されることもしばしばなんですよね(笑)

そういった”扱いづらい俳優”である点が役柄とリンクしており、これまたノートンが演じるからこそのジョーク的な一面が生まれています。

そして演技はもちろん圧巻。
文句なしの助演男優賞ノミネートでした。

エマ・ストーン

大麻中毒のやさぐれたティーンを演じたエマ・ストーン

エマ・ストーンといえば主演女優賞を受賞した『ラ・ラ・ランド』での純潔なイメージが強い方も多いと思うのですが、私は本作でのエマ・ストーンの演技こそが最高峰のものだと思っています。

というのも彼女って、アメリカのレイト・ショーなどに出演している姿を観ると、結構斜に構えている”やさぐれクール”な感じなんですよね。

あと親友はジェニファー・ローレンスだったりして(笑)

だから、性格的には本作のようなちょっとヤバめな女性の方が自身とリンクしてしっくり来ているような気がします。

一発撮り風の高い撮影技術と、編集

そして本作もう一つにして最大の魅力は、全編ワンカットに見える撮影技術と編集にあります。

この作品は「ブロードウェイ公演に向けた最終リハーサルから初回公演まで」を描くというストーリーということで、その舞台裏のドタバタ感を演出するためにあからさまなカットを取り除いてシーンが構成されています。

これが本当にスゴイ!

いつどこで場面転換が行われたかが全く気付かれないまま時間が進み、登場人物の服装が変わってもいて、本当に舞台を見ているかのような錯覚に陥ります。

似たような手法で後年に作られた『1917 命を懸けた伝令』(2019)という映画もありますが、『バードマン』を観た衝撃はそれ以上でした。

だって、時間の流れさえもワンカットで進んでいくのですから!

製作者陣の話によると、このワンカット演出を可能にするとために多大なる撮影技術と編集を必要としたとのこと。

その甲斐あって、アカデミー撮影賞を受賞しました。

最後に

2014年シーズンにおいてオスカーを制した『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』。

今回紹介した他にもジャズ・ドラマーのアントニオ・サンチェスが作曲した映画音楽など、本当に各分野においてレベルが高い一作といえるでしょう。

私自身この作品に完全に魅了されておりまして、何度も何度も繰り返し観ては興奮して眠れない夜を過ごしています(笑)

だからこそ、このレベルの高い作品賞レースを制したことに大納得です。

もっと言えば、この作品は2010年代に公開された映画のなかで最高の映画あると私は思っています。
言いすぎでしょうか?(笑)

つまり言いたいこととして、すごいオススメということです!

なので、観られたことがない方はぜひ一度ご試聴を!
また、すでに見られた方もこの記事を機に再度観てはいかがでしょうか?


前回記事と、次回予告

先週投稿した記事はこちらから!

これまでの【水曜映画れびゅ~】の記事はこちらから!

来週は、現在公開中の007シリーズ最新作"No Time To Die"007/ノー・タイム・トゥ・ダイ…ではなく、2作前の大ヒット作"Skyfall"007 スカイフォール のレビュー記事を予定しています。
なぜ今『007 スカイフォール』なのか?それは来週までのお楽しみに(笑)。