【農業】ドイツ・バイエルン州にみる家族農業経営
こんにちは。新小樽少年です。
今回で連載が第8回を迎えました。
そして本日取り上げる舞台はドイツになります!
私は大学時代にドイツ語を第2外国語として専攻したので、
とても思い出深いですね。
ドイツには3回ほどしか行ったことがあるのですが、
ドイツの農業や農政事情に深くかかわることはなかったので、
このような機会でしっかり学習していこうと思います!!
これはドイツのファーマーズマーケットで売られていたリンゴ。
ドイツでは街の至る所でファーマーズマーケットが開かれており、
多くの買い物客がこのファーマーズマーケットを利用します。
農業構造の激変
第1回から出ている「新自由主義グローバリズム」は農産物輸出競争と市場争奪戦を激化させ、ドイツの農産物価格の下落を引き起こした。これが農業経営の危機を深刻化させている。
前回の「イギリスの家族農業経営」でも取り扱ったように、中小規模農家の離農が進み、経営数の急減と経営増減分岐点の上昇のような農業経営構造の変化がより拡大した。
DBVが2017年に公表した農用地規模別農業経営はバイエルン州に8万8,600経営帯が存在する。これはドイツの3分の1が該当する。農用地面積は312.8万haで、全体の18.7%にもなる。
このような農業構造の変化は農地賃貸の増加を引き起こした。これに伴い、農地の借地面積率は増加し、2012年時点で約9万の経営帯のうち約6万ものの経営帯が借地農家となった。
(果たして要因はそれだけなのか?人口構造とか。政策視点の言及はない。)
1987年時点で農用地規模が1ha以上の農業経営帯は23万1,326帯、5ha以上の経営帯は68万1,010帯存在した。しかし2012年時点では、後者の割合(5ha以上)は9万9,400経営帯へと減少した。この大きな要因はEUの共通農業政策が関わる。
ドイツのような先進国は所得格差が大きいEUという構造の中で不利益を被ることが多い。
バイエルン州の農業はほぼ8割が副業経営である。かつては耕畜複合経営だったが、近年は減少傾向にある。EUの共通農業政策における酪農家への支援が低くなったことが大きな理由と考えられる。EUは加盟国の所得分配のために、このようなスタンスを取っているのではないかと考えている。
協同バイオガス発電事業と家族事業
現在ドイツでは東日本大震災時に起きた原発事故をきっかけに、脱原発エネルギー開発に取り組んでいる。再生可能エネルギーは注目を浴びている。
バイエルン州の北部では2,330のバイオガス発電所がある。バイオガス発電とは「家畜糞尿や食品残渣などをメタンガス材料として、その処理過程で生まれたバイオガスを基に行う発電のこと」をいう。発電施設は地域の農家が組織を組み、共同出資という形で営まれている。
ここから得られる収益は農家経営の大きな下支えとなっており、再生可能エネルギーだけで域内のエネルギーを賄えている地域も存在し、持続可能な経済状況から、地域雇用が生まれた事例がある。
野生植物のオルタナティブ
2019年に始まった生物多様性保護に関する住民投票を求める「請願書」への署名は175万人ものの署名を集めた。この内容は、有機農業の基準を満たす農地を2020年までに農地全体の20%にして、2030年には農地全体の30%にするというもの。これに加え、川や水路を農薬や肥料の汚染から保護、環境教育を改善を目標にしている。
この運動のきっかけはミツバチが消えたことに起因する。ハチは受粉の媒介者として重要な役割を果たしている。また近年の度重なる気候変動、干ばつ、土壌侵食、砂塵といった問題に直面している。
「経済×環境×社会」面で評価
上で挙げたような問題に対して、どのような対応を行っているのか。それは野生植物の栽培を試みるということだ。
野生植物を栽培することで、①通年土壌被覆、②土壌の団粒構造を改善、③土壌の保水力の向上、④地下水の硝酸塩削減、⑤生物多様性の回復という効果がみられる。
バイエルン州のごく1部の地域においてはトウモロコシを栽培することの経済性は高い。なぜならトウモロコシはバイオガス発電の重要な原材料になり、手間がかからずコストも安い。これを野生植物に転換した際による収益は485ユーロ減となる。ただし生物多様性保全や気候変動への適応といった点では大きく貢献する。
バイオガス発電は収益性や地域雇用を生み出すといった経済的観点では重要な役割を果たしている。トウモロコシのみのモノカルチャー経済ではなく、野生植物の栽培による環境と社会の課題解決を進める必要がある。
ヘーゼルナッツ共同農園
ファーマーズマーケットの回るをウロウロしていたパンダ。
家族農業経営が協同組織を結成し、再生可能エネルギー事業に参入することで、農業所得を補い、「地域おこし」を行う取り組みを考察してきた。
そして経営間協力を超えて、共同経営農場にも取り組み始めている。それがヘーゼルナッツ共同農園である。ヘーゼルナッツとは少し大きめの団栗みたいなものだ。ドイツではよくお菓子に用いられる。
これに出資している農家の多くはバイオガス発電つながりであり、応分の配当・利益配分を受ける仕組みになっている。(ソーシャルキャピタルの恩恵)小規模家族農業経営にとっては、農業所得の補完、地域協力といったことを促している。
有機農業への転換「ロートハウプト農場」の事例から
EUでは生乳生産クオータ制が廃止になり、生乳価格が低迷して、酪農家は経営困難な状況にある。牛乳や穀物の過剰も価格低下の要因である。これに対し、有機栽培が生き残り戦略として登場した。
ドイツの消費者が有機産品の価値を認めて、有機産品の高価格化、農薬削減によるコストカットによる生産者利益の確保が可能になった。中でも、ロートハウプト農場は酪農家から有機栽培農家への転嫁した事例の一つだ。
ロートハウプト農場はもともと酪農経営だった。しかし過重労働やコストパフォーマンスの悪さから2019年に有機耕種生産へと転換した。
(ドイツは酪農への課題を見直す必要があるのではないかと考えられる)
上の図は河原林(2019)を基に作成。
農産物の販売額は27万ユーロ、バイエルン州農村環境支払いが7万ユーロ、再生可能エネルギー売却による収益が8万ユーロになる。
経費は雇用労費の3万ユーロ、借地料2万7300ユーロになる。収支は42万(合計収益額)ー5万7300万=36.27万となる。
これらに加え、近隣酪農経営から乳牛育成を受託することで、もともとの酪農家としてのノウハウを活かしつつ、地域農業に大きく貢献しているように思える。
まとめ
ここまでドイツ・バイエルン州の家族農業経営について見てきたが、農家が国が掲げる大規模なエネルギー政策の一部を担っていたり、小規模農家や家族農家が農協のような営農組合を通さず、地域づくりを可能にしたということを考えれば、日本の農政も大分見直せる部分は多いと思う。また今回はその変革への可能性を高めたように思う。
ドイツはEUの拡大化、そして乳製品の価格低迷による農業の構造の変革が余儀なくされた。その結果、農業所得をいかに確保していくのかという課題に取り組む必要があった。(少なからず著者はそう捉えている)
バイエルン州の一部地域でエネルギー事業に取り組む集落が存在し、地域の結束を促し、収益の確保に大きく貢献している。しかし生物多様性や気候変動といった問題に農業が大きく影響を受けているため、これに取り組む必要があった。
そして有機農業の可能性について述べたのち、「ロートハウプト農場」の事例を挙げ、本稿を結びとしている。
新自由主義グローバリズムが小規模農家や家族農家に対し「農業の工業化」を余儀なくしている。それゆえ、ドイツ・バイエルン州では様々な取り組み、それも環境問題や生物多様性保全を含んだ取り組みを行い、所得確保をしていることは理解できた。そのうえで必要であるならば、地域一丸となって大きな事業に取り組んでいくということも理解できた。
しかし幾つか疑問が残る点がある。まずエネルギー事業を行っていくうえで大規模な農地を発電施設にしているわけだが、それは環境問題を考えるうえで影響は出ないのかということ。また生物多様性への影響、景観が損なわれる可能性も十分に考慮できる。
次に、エネルギー事業に取り組める農家はある程度の所得がある農家、もともと富裕層で家族農家、もしくは小規模経営農家という可能性があるということ。ドイツ・バイエルン州は副業農家が多いというデータがあるゆえ、そちらの方が収入として多ければ、農家所得の拡大、確保という議論はやや薄いように思える。
最後に、家族農業や小規模農家の存在意義がやや不明確のように思えた。連載記事の第1回からのテーマは新自由主義が取り巻く世界で小規模農家や家族農家の存在意義を考えることがテーマであった気がするが、本稿は逸脱しているように思える。
小規模農家や家族農家は本記事でも述べたように、生き残るような戦略に取り組んでいる。所得拡大への取り組みも大きく取り込んでいる。そのために地域一丸となって、活動的に何かに取り組むことが1番伝えたいメッセージなのかもしれない。
新小樽少年
参考文献
この記事は『村田武「新自由主義グローバリズムと家族農業経営』筑波書房、2019年を参考にして書いています。
河原林孝由基(2019)「第7章ドイツ・バイエルン州にみる家族農業経営」
p211-237
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