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Jazzに出会うほんの少し前の話

僕がまだ小学生の頃とある地元のスーパーにて母親と買い物をしていた時BGMにそれまで聴いたことのないピアノの曲が聴こえて来た。

ピアノ教室をしている実家で良く耳にしていたクラシック曲でも当時中学生位になると教室の生徒さんたちが弾いていたリチャードクレイダーマンなどとも違う。ちなみに僕も当時リチャードクレイダーマンが好きだったし、何曲か練習したものだ。クレイダーマンは毎年山梨のホールにも来るほど人気があった。

ともかくそのそれまで感じたことのない質感、が地元スーパー"いちやまマート"のスピーカーから流れるそのピアノ音楽にはあった。
僕はその曲のことをどうしても知りたくて母に頼みスーパーの事務所へ行き何を流しているのか対応してくれた店員さんに訊ねた。
「じょーじ・ういんすとん」
初めて耳にした名前だった。
数日後、甲府駅すぐ近くにあったレコード店、サンリンに行った。ほんの数年前にはまだまだレコード、そしてカセットテープが主流だったが登場したCDは怒涛の勢いでその勢力を広げていた。
父ももうCDプレーヤーを持っていたので僕はそのアルバム、George Winstonの大ヒット作"Autumn"
を買った。その日から僕はすっかりそのアルバムの虜になり毎日毎日何回も繰り返し聴き続けた。
透き通った残響、そんな風に感じた。
家はピアノ教室、アルバムを聴きながら教室のピアノを弾くが同じ様な音が出ない。
とにかくこの曲を弾きたい、と思い始め少しずつだが真似していくつかの旋律や左手のオスティナートを拾っていった。しばらくするとこのアルバムの全曲が入った楽譜を父の知人が持って来た。
しかし僕は当時楽譜がほぼ読めないので楽譜とCDを首っ引きで数ヶ月かけていちやまマートで聴いた曲、「あこがれ/愛」(Longing/Love)を弾いた。
学校から帰ると寝るまでのおよそ全ての時間をこの曲を弾くことに使っていたと思う。来客の多かった実家、誰か来る度にその曲を弾かされた。
とはいえひたすらに感心しまくる人たちに気分は良かった。
あこがれ〜だけでなく他の曲もずっと聴いていた僕は楽譜もあるし同じやり方でアルバム一曲目に収録されている"Colors/Dance"、(後にこれは2つのテーマを続けて弾いている、という事と知った。)
も練習し始めた。この曲は左手が幾つかの異なるオスティナートを繰り返すその上で右手がメロディを自由に繰り広げる。そしてどうもこれは即興演奏らしい。それなりに時間はかかったが最後まで弾いてしばらく経つとその左手に合う音の集まり、(当時はまだスケールとかコードなど聞いたことすらない。)
を使って自分が綺麗だなと思うこと、そのオスティナートとぶつからない、そんな音列を行ったり来たりする、それが僕が最初にやった即興演奏、アドリブであった。これがとにかく楽しくて一度弾き出せば30分でも40分でも続けた。だから来客たちもなまじ"ぜひ聴かせて"などと口にすると大変、二曲も弾こうものなら1時間も黙って僕の演奏を聴き続けるハメになる。
もう一つ、僕の実家は音楽教室だったが僕は父にも母にも習ったことは無い。一度3年生の頃他の教室に通ったが1〜2ヶ月でやめてしまった。
どんな形でもこれほど音楽、ピアノに夢中になるとは思っていなかった両親は、嬉しかったのか僕の好きな様にさせた。

George Winsonに始まったがその後も僕は様々なCDを宝探しの様にどんどん開拓していった。
George Winstonの所属するレーベル、
"Windam Hill"の他のアーティストたちも次々に聴きあさりちょっとしたマニアの様になっていった。
映画「植村直己物語」のサントラがこのレーベルのアーティストたちによる物と知り狂喜した。
当時作品のラインナップもどんどん広がりかなりの人気もあったのだ。
好きな本や雑誌にも度々取り上げられていたことも思い出す。

実家にあった膨大なLPレコードを少しずつ漁る様になったのもこの頃。父のレコードを聴く事はもっと前からあったが以前はクラシック、それもオーケストラばかり聴いていた。
しかしこの時はまだピンと来た事が無い
Jazzのアルバムを聴く様になった。
僕は中学生になっていた。

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