Mia Nascimento pre. 〈FRIDAY NIGHT〉@mona records(20240927)
フレッシュな出会いが導いた、新たなフライデーナイトの彩色。
東京・下北沢の金曜の夜を賑やかに、華やかに彩ろうという趣旨からスタートさせた、ブラジリアン・シンガー・ソングライターのミアナシメント主催による恒例のイヴェント〈Mia Nascimento presents FRIDAY NIGHT〉が、まだ日中は暑さが残る9月下旬に開催。“日々を小さなフェスティバルに”をコンセプトとした下北沢のライヴスペース「モナレコード」に、Chiaki、masa. 、あんにゅとえでんの3組を招いて、ミアナシメントのフレンドシップを感じさせるステージを展開した。
〈FRIDAY NIGHT〉シリーズで男性アーティストをラインナップしたのは初めてか。その意味ではいつもの〈FRIDAY NIGHT〉よりもヴァラエティに富んだラインナップになったといえよう。惜しいことに、トップを飾ったChiakiの途中からの観賞となったが、それぞれに初めての組み合わせということもあって、初々しさも覗かせながらホットかつウォームなステージとなった。
Chiakiは、“エロチルエンターテイナー”を自称し、早稲田大学在学中は名門ア・カペラ・サークルに所属して全国大会に2年連続出場の経験を持つというシンガー・ソングライター。柄モノのジャケットに首元を緩めたナロータイのブラウスシャツ、秦基博のようなナチュラルなヘアスタイルといった出で立ちは、好奇心旺盛な好青年といった面持ちだ。
ア・カペラとしての活動も並行しているということから、発声も良く、ハーモニーが心地よく響くような印象の曲調だ。自身はサーフ・ミュージックなどを好むと言っていたが、確かに清涼感が溢れるポップ・ミュージックを軸にした感じで、ヴォーカルは闊達で爽やか。杉山清貴あたりのAOR~シティポップ作風を最初に頭に浮かべたが、溌溂を全面に出した福山雅治や清々しさに舵を振り切った山崎まさよしのような印象もあるチアフルなポップ/ロック・サウンドが特色か(オフィスオーガスタ感あり)。岡村靖幸や大江千里、渡辺美里など80年代の〈エピックソニー〉サウンドを彷彿とさせるところもあって、決して古さは感じないが、ほんのり80'sの煌めきが見え隠れする作風が、耳を惹きそう。一瞬エステルの「アメリカン・ボーイ」のフレーズを想わせる「Highway Love」や、“I say” “You say”のコール&レスポンスでフロアに熱をもたらした、ビールがテーマの「CRAFT BEER」などは、けだし夏に相応しいポップ・チューンといえる。
自身を初めて聴くという観客に馴染みのあるカヴァー曲をということで、サザンオールスターズの「いとしのエリー」を挟んだ後は、「My Favorite Japan」と「Sing the night away!!」とオリジナル2曲でフィニッシュ。自身がブレンドもするくらいハマっているという日本茶の品評会「日本茶AWARD」のイメージソングに起用されたという「My Favorite Japan」は、ケロ・ワンやジェフ・バーナットあたりにも通じそうなジャジィ・ヒップホップ・マナーのビートを敷いたメロウなミディアムで、バックにしっかりと“和”を意識したアレンジを施すなど、練り込まれたものに。「Sing the night away!!」は対照的にチャチャッチャというクラップ・リズムとともに快活に展開する、前述の〈エピックソニー〉モードライクなフレッシュ・ダンサー。人懐っこい表情とともに、終わらない夏の風景を描いて見せたようだった。
2番手は、福岡県出身で東京を拠点としている20歳のシンガー・ソングライターのmasa.。なかなか検索でヒットしづらいアーティストネームだが、最後にドット「.」がつく。ミアナシメントとは18歳の時に初のライヴで対バンして交流を深めたとのこと。久しぶりの下北沢ということで、古着ファッションで登壇したが、他のアーティストはそれを特に意識しないファッションだったゆえ、拍子抜けして(浮いてると思って)しまったとも。おそらく4組のなかでも最年少ということもあって、初々しさも垣間見えた。
MCでは緊張していて、歌詞も間違えてしまったと自ら表明していたが、久しぶりのステージということもあったようだ。11月23日に開催するワンマンライヴが3rdワンマンというから、場数もこれから重ねていくところか。
とはいえ、しっかりと自らの世界観を持っていて、ビートが走り出せば、温もりを湛えた声色とともにソウルフルなグルーヴを醸し出していく。全5曲のうち、ラストに披露した、自身にとってメモリアルな初のシングル「Remember」(ファンからのリクエストをもらったとのこと)はバラードマナーのミディアムだったが、それ以外は軽快なグルーヴを携えたR&Bとポップを往来するような作風。SIRUPと藤井風を組み合わせたようでもあり、「Remember」のような落ち着きのある曲では清水翔太を想わせたりも。
個人的には、2曲目に披露した「愛を戻して~」というフックが耳に残る楽曲(曲名はわからず)や、フットワークあるストリングスをバックにファンキーなグルーヴが展開する「I Don't Wanna Make It」が印象深く残った。「oh ohh Like it Like it」のフレーズでフロアと交流した「Night Walking」も爽快なヴァイブスが駆け抜けるナイトドライヴィンな曲調が心地よく、フロアキラーの一つになり得そうだ。
あんにゅとえでんは、神奈川県厚木市在住のみつはしあきのラップ・プロジェクト“MCあんにゅ”と、dokka no umiという音楽プロジェクトや下北沢の蕎麦屋で働くなど料理人としても活動しているふじなみゆりのラップ・プロジェクト“MCえでん”からなるコラボレーション・ユニット。MCあんにゅは、1週間前にミアナシメントとマグノリアの雫。の共同企画イヴェント〈kira kira-きらきら-〉(記事→「〈kira kira -きらきら-〉@新高円寺LOFT X(20240920)」)に出演し、独創性豊かなパフォーマンスを行なっていたが、このユニットではいわゆる“ゆるふわラップ”を軸としたアクトを完遂。MCえでんは1曲のみだったが、ギターを抱えて歌唱する場面も。
「だれもいないニライカナイ」「ひかり」をはじめ、先日のイヴェント〈kira kira-きらきら-〉でMCあんにゅが披露した楽曲を含めた7曲にて構成。アコースティックギターの温かい音色とともにたゆたうような緩やかでハートウォームなラップを、表情豊かに紡いでいく。ただ、ハートウォームといっても単に穏やかに歌うのでもなくて、MCあんにゅの奔放で時にくすぐったくも感じる歌声とMCえでんのチャーミングな歌唱が、不思議なヴァイブスを生み出していく。ヴォーカルの相性も良さそうだ。
“ランランランランララララ…”のフレーズが印象的なオムライスやハンバーグ、カレーライスなど食べ物が登場する「しなもんめるつの上で」、MCえでんのブー笛(バズー)から始まる、シンプルなギターコードをバックに『みんなのうた』に出てきそうなキッズソング風に歌うドーナッツの歌など、ほっこりとするほのぼの感がこのユニットの魅力の一つ。胎教ミュージックではないのだろうが、ひだまりや昼下がりにちょっぴり睡魔が訪れる時に合いそうな雰囲気も漂わせている。ラストはスチャダラパー「GET UP AND DANCE」(『ポンキッキーズ』のオープニングテーマ)のイントロよろしく“ぱっぱらっぱっぱっぱぱぱ~”というスキャットフレーズが楽しい「まろやかDAYS」で、ユニークなステージを終えた。
トリは、民族衣装の柄にも見えたショートセーターと黒のスキニーなパンツ・スタイルで登場した主催のミアナシメント。軽快なリズムとともに「今日の調子はどうだい?」の問いかけで始まる「All right」からスタート。先日のイヴェント〈kira kira-きらきら-〉の時よりは喉の調子も悪くなさそうだったが、ブレスなどをみるに、まだ万全ではなさそう。とはいっても、それをフォローして余りあるグルーヴを有しているミアナシメントだから、“不調”という二文字はほぼ感じさせることはない。“踊ろうよFriday Night”と歌う〈FRIDAY NIGHT〉のテーマソングの一つといえる「Shake」で、早速フロアをロックしていく。
ここで一気にヴォルテージを上げるかと思いきや、この日の天候に寄り添ってしっとりと、物憂げなムードを湛えたミディアムR&B「rainy day」でギアをローに戻す“焦らし”を繰り出すのが、ミアナシメントの“らしさ”の一つ。「rainy day」からシームレスに「night」へ繋いで、深い夜のアフェアへと滑り込む展開は、いつ聴いてもR&Bラヴァーの胸を躍らせてくれる。
恋の焦燥やもどかしい感情を雨や夕暮れといった光景をR&Bマナーで切り取った「forget」でナイーヴな心象を描くと、「rhythm」からは明澄なモードに。派手な音を使っている訳ではないけれど、パッと華やぐ世界へと瞬時にチェンジする術は、爛漫なキャラクターのミアナシメントならではの資質か。麗らかなストリングス・アレンジをバックに、春めいた煌めきをもたらしていく。
EP『Novo comeco』収録曲のうち「Good Time」と肩を並べるファンキー・ディスコ・ダンサーで、“輝くミラーボール”“帰りたくない”といった金曜の夜にピッタリなフレーズも飛び出す「Don't stop the party」が、〈FRIDAY NIGHT〉のエンディングを飾ることに。このところステージの最後を飾ることの多いダンサブルなキラー・チューンでさらなるクラップを呼び起こし、フロアのヴォルテージを高めたところでスパッとステージアウト。そのまま金曜の夜の余韻を味わう空間へと引き渡す演出にもなった。
2024年はなかなか新曲への産みの苦しみが続いているようだが、パフォーマンスは比較的安定してきている。曲構成などにアレンジやアクセントを加えながら、今後もグルーヴを湛えてやまないステージを期待したい。
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<SET LIST>
《Chiaki Section》
01 visitor
02 Highway Love
03 CRAFT BEER
04 いとしのエリー(original by サザンオールスターズ)
05 My Favorite Japan
06 Sing the night away!!
《masa. Section》
01 Like A Smoke
02
03 I Don't Wanna Make It
04 Night Walking
05 Remember
《あんにゅとえでん Section》
01 だれもいないニライカナイ
02 ひかり
03 しなもんめるつの上で
04 (ドーナツの歌)
05
06 あのこはまやかし
07 まろやかDAYS
《Mia Nascimento Section》
01 All right
02 Shake
03 rainy day
04 night
05 forget
06 rhythm
07 Don't stop the party
<MEMBERS>
Mia Nascimento / ミアナシメント(vo)
Chiaki(vo)
masa.(vo)
あんにゅとえでん:
MCあんにゅ(vo, Laptop)
MCえでん(vo,g)
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