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いまから始めるミアナシメント

 良質なグルーヴを湛えた、ミアナシメント入門曲10選。

 常に太陽のような明るさと愛嬌を持つ生粋のブラジリアンで、長く日本に在住しているゆえ日本語も堪能。小柄ながらモデルも務めるスタイリッシュさとカポエイラやローラースケート、ボルダリングなどにもチャレンジするアクティヴかつスポーティな一面も持ち合わせている。そんなシンガー・ソングライターのミアナシメントは、解散後も時折シティポップなどの文脈で名が挙がるガールズ・ファンキー・コレクティヴ“Especia”出身。だが、冨永悠香(現・HALLCA)や脇田もなりといった大阪・堀江系を名乗っていた時代のメインヴォーカルとは異なり、東京へ拠点を移し、アイドル要素は廃してアンニュイなブラックネスへ重心を寄せた“第2章”からのメンバーで、ほとんどがサブヴォーカル的な立ち位置だったこともあって、Especiaの愛聴者もシンガーとしての強みや特色を掴めていない者も少なくない。

 Especia解散後は、アイドル・ジャズ・ポップ・バンドやエレクトロ・ポップ・グループ、客演参加などを経て、2021年2月よりソロとして再始動してから、丸3年が経とうとしている。R&Bなどのブラック・ミュージックの要素を軸に、さまざまな佳曲を着実に発表してきているものの、まだ流通盤プロダクツがなく、配信楽曲も少ないこともあり、残念ながら具体的に楽曲に触れる機会に巡り合わないことも多いはずだ。

 そこで、“ミアナシメント入門編”としていくつかタイプ別に楽曲を紹介してみようかと思う。ブラック・ミュージックに重心を寄せてはいるが、多くが自身が手掛けた作風は、ムーディなアプローチからダンサブルなアッパーまでヴァラエティに富んでおり、琴線に触れる楽曲があるはずだ。肩肘張らずに、ジョージ・マイケル のアルバム『リッスン・ウィズアウト・プレジュディス Vol.1』のタイトルよろしく、偏見や先入観をなくして(“without prejudice”)聴いてみてほしい。

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◆《Night Groove & Mellow》系
 まずは、ミアナシメントの真骨頂であるナイトシーンと親和性の高い作風の楽曲を3曲紹介。R&B/ネオソウルを下敷きにしたUSコンテンポラリーなアプローチが、夜を艶やかに、メロウに彩ってくれる。

「forget」

 初期からライヴで披露されてきたミディアム・チューンで、センチメンタルやノスタルジーが漂いながら、もどかしさや歯がゆさ、儚さに触れた作風が美味。視線を下ろしたアンニュイな歌唱が甘美を醸す。 

「Night」

 夜にまつわる曲が好きなミアが、文字通りに“夜”をタイトルに冠した。USオルタナティヴR&Bにも通ずるトラックで、セクシー&スウィートな歌唱が映える。「Night」シリーズでは「Lonely Night」もスウィートな一曲。

「Snow White」

 冬を舞台にしたミディアムR&B。意外にもビートは跳ねているが、雪景色を想起させるキーンと張りつめたような涼感にノスタルジックなメロディが重なり、濃密なムードを描出。アウトロのファルセットが美味。


◆《CHILLOUT》系
 続いて、リラクシンなムードが漂うチルアウト感のあるナンバーを3曲ピックアップ。単に“緩い”というのとは異なり、ブラックやソウルを通底させたグルーヴのもとで、肩肘張らないムードを生み出している。

「Jasmine no Kaori」

 豪・シドニーを拠点とするHoofulが手掛けた、2000年代R&Bを意図したようなミディアム・スロー・ジャム。ビートは比較的忙しくレイドバック感は少ないが、華やぎあるカラフルなポップネスが、心地よい揺らぎを生む。

▢「不透明」

 こちらもなかなかビートが跳ねているものの、その合間を緩やかにたゆたうメロディとポエトリーなラップが浮遊感をもたらす。幻想的なムードも垣間見えるなど、不思議なテイストが耳を惹き、緊張を解していく。

▢「Kumo」

 おそらくミアナシメント楽曲のなかで最もリラクシンで、独創性に溢れた楽曲のひとつ。ゆるふわ系のラップとキュートなトラックのマッチングは、まさしく掴みどころのない“雲”のよう。時折挟まれる吐息も好アクセント。


◆《Floor Killer》系
 最後は、ミアナシメントのチアフルなキャラクターやバネのあるグルーヴ感覚という資質を活かしたダンサブルなアッパー・チューンを紹介。はつらつとした笑顔が弾ける、腰を揺らすフロアキラーたちだ。

「Shake」

 タイトルよろしくミアの腰も“シェイク”する。フックの「朝までdancin'」 の後のクラップが一体感を高めるフロアキラーで、序盤から徐々に熱を帯びていくヴァースが、週末へ突入する期待感を増幅させる。

▢「Sweet Magic」

 ブラコンや90年代のチープなシンセ・ディスコ、ヒップホップの要素を組み込んだファンキー・グルーヴ。ラップ・グループ“絶対忘れるな”の志賀ラミーによる“黒”感覚とミアのパッションが好反応を示したフロアキラーだ。

▢「Don't stop the party」

 “パーティを止めないで”という感情を端的に示したダンサブル・チューン。推進力あるハウシーなトラックに、派手やかな鍵盤とホーンという賑やかな彩りもあって、チアフルなラテンのパッションが満開。

▢「Good Time」

 ジャズ・テイストのスウィンギンなアプローチを巧みに汲み入れたファンキーなダンス・チューン。アシッドジャズ要素も見え隠れし、パーティ・ダンサー濃度はミア楽曲群随一か。これで踊らない訳がない。

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 以上、入門編として10曲を気ままにピックアップしてみたが、もちろんこれがミアナシメントのすべてではない。ブラジリアンならではの愛嬌ある陽気キャラクターが、楽曲が鳴ると一転、楽曲の世界観に入り込み、持って生まれたグルーヴとセンスで表情豊かに歌い踊る。そんな魅惑的なパッションで包まれるステージが、1月20日(土)に開催される。通常は音源によるステージだが、この日は24歳生誕記念も相まって、長谷泰宏(key)、伊賀航(b)、北山ゆう子(ds)、山之内俊夫(g)、関美彦(syn)というバンドメンバーを従えてのスペシャルな公演となる。会場は演者との距離の近さも魅力的なアットホームなライヴスペース「モナレコード」。少しでも耳を惹いたのなら、ミアナシメントの世界に一歩、足を踏み入れてもらいたい。良質なグルーヴを是非。

Mia Nascimento 〈Mia musica〉

■ ミアナシメント 〈Mia musica〉
2024年1月20日(土) 
開場11:30 / 開演12:00
東京・下北沢 mona records
前売3,500円(+1Drink)

https://www.mona-records.com/livespace/17629/

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【Mia Nascimentoに関する記事】
2017/11/15 MILLI MILLI BAR@代官山WEEKEND GARAGE TOKYO
2018/01/25 MILLI MILLI BAR@北参道STROBE CAFE
2018/05/30 MILLI MILLI BAR@六本木VARIT.
2018/09/05 MILLI MILLI BAR@北参道ストロボカフェ
2018/10/14 Mia Nascimento with 田辺真成香@星空カフェgift
2019/01/24 Mia Nascimento@下北沢BAR?CCO
2019/03/01 LOOKS GOOD! SOUNDS GOOD! @北参道ストロボカフェ
2021/05/08 〈LOLIPOP〉@mona records【Mia Nascimento】
2021/05/30 Mia Nascimento @渋谷La mama
2021/09/10 Mia Nascimento / ddm @mona records
2021/10/17 Mia Nascimento / WAY WAVE @GARRET udagawa
2021/11/19 Mia Nascimento / 桐原ユリ @mona records
2022/01/28 Mia Nascimento / 桐原ユリ @mona records
2022/06/17 Mia Nascimento @mona records
2022/07/07 〈Like Sugar〉@新宿Red Cloth
2022/08/20 〈Softly Blue #3 〉 @ROCK CAFE LOFT
ミアナシメントはEspeciaの異端なのか
Mia Nascimento @月見ル君想フ(20230122)
Mia Nascimento @Red Cloth〈Meta Lyric〉(20230522)
Mia Nascimento pre. 〈FRIDAY NIGHT〉@mona records(20231117)
Mia Nascimento @red croth〈ヒッピハッピシェイク〉(20231220)
ddm @mona records(20231226)
いまから始めるミアナシメント(本記事)

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