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国民のため全力で戦い「宅急便」を当たり前にした男の軌跡〜小倉昌男 経営学

ゼロベースで考えよ。

社会人になってからこんなフレーズをよく耳にするようになりました。

前例踏襲が解決策になりづらくなってきている社会情勢も踏まえてか、課題を解決するには既成の枠組みに囚われることなく、広く解決策を求めにいかないとよい解決策が見つからないというケースが増えているように感じています。

このゼロベースという考え方。
このタームが以前はどの程度広まっていたのかは不明ですが、過去の名経営者と言われている人の話を聞いたり、書籍を読んでいるにつれ、革新的な事業や製品を世に出しているひとは、基本、”ゼロベース”で思考し、実行に写していることが共通点かと思います。

今回読んだのはヤマト運輸をほぼ今の形にした創業者の子供、小倉昌男さんが著した一冊。
自伝兼経営哲学を語った内容。

宅急便ができるまで

今や一般用語と言っても差し支えないであろうこの言葉。ヤマト運輸の商標登録がなされてるそう。
で、遠方近郊に限らず荷物を送るとなると当たり前のように使う宅急便。ネットでの買い物が当たり前のこの時代、お世話になってない人はいないでしょう。

しかし、この当たり前になるまでは熾烈とも言える戦いがあったことはご存知ない方も多いのではないでしょうか。
自分も本書を読むまでは知りませんでした。

1番のネックは運輸省の許可。
小倉さんが宅急便をヤマト運輸の商売の主軸にしようと考えていた当時は、運送業は国の許可がないとできず、値段も自由に決められなかったそう。
既成の枠内でアクションをおこすのであれば、全国展開可能なように大量に申請し、許可をもらいことになります。
しかしながらこの許可、出るのに数年、しかも結構な割合で取り下げさせられるというヤクザなシステム。
でも、全国展開の宅急便を事業の主軸にするためにはどうしても許可が必要。

もし自分が同じ立場だったらどうするか。
・国はおかしい、何もわかってない!と愚痴る
・国担当者に飽きずに手続きを進めてくれるようにお願いする
こんなところかと思います。
でも、小倉さんは違いました。

運輸省相手に訴訟を起こします。
で、新聞に”運輸省が許可してくれないからみなさんに素晴らしいサービスが届けられません”という広告を打ち、喧嘩を売るとともに、世論を味方につけます。

なんてロックなの、小倉さん・・w

少し目を広げてみると、料金が事業者の自由に決められないものはそれなりの数があります。

たとえば、昨今原子力の再稼働や燃料費の高騰で、各電力会社が電気料金の値上げ申請をしたことが大きなニュースになりました。
たしかに、公共料金の中には、もしかしたら市場原理に任せると不具合が生じうる可能性もあり、料金設定に慎重になるのは理解できるところではあります。
しかしながら、今、国介入がある料金の中にももしかしたら市場原理に任せた方が、結果、国民の利益に供するものがあるかもしれない。

仮にですが、電力も自由化した現在、完全に市場原理に委ねてしまう方が時々に応じた料金設定が可能になり、電気料金も安くなり、国民のためになる。
そんなストーリーもありうるのではないか、と思いました。

当たり前かもですが、社員を大切に

ヤマト運輸、従業員が20万人もいるそう。

それほどの規模の会社、社員の評価の仕方や制度、組合との関係も独特なものがありました。

まず、社員の評価の仕方(人事考課)。
一般的な企業は上司が部下の採点をするというのが一般的かと思います。
小倉さんはこの上司が部下を評価するシステムに疑問を呈します。
人によっては、部下全員に同じ評価を下したり、好き嫌いで判断してしまいます。
さらに、業務はそれぞれ性質がことなり、画一的な評価が難しいことは自分自身を含め、社会人なら皆よくわかっていることかと思います。
営業活動を頑張っている人と、経理で会社を支えているひと、どちらを会社として評価すべきかなんて簡単に決められないですよね。
会社員である以上、彼・彼女らがいないと会社が回らないはずですし、そこに貴賎なんてないはずです。

そこで小倉さんが取り入れたのは「横からの評価」と「下からの評価」でした。その字のとおり、同僚と部下からの評価、ということですね。そして、評価項目は実績ではなくて”人柄”だそう。

だいぶ思い切ったな、と思います。
会社を利益追求の入れ物とすると、一番多く数字を稼ぎ出した人を1番にするのは当たり前のように思ってしまいますよね。
小倉さん自身も完璧な人事考課制度があり得ないことを認識した上で、次善の策としてこのような制度にしているそう。

ちなみに、この考えの根底には、人柄の良い社員はお客様に喜ばれる良い社員になる、という信念があるそう。
人事考課にAIを導入する企業も増えてきているとのことですが、果たして、客観的に・全社員を正しく評価することは可能なのでしょうか。無理っぽいなと思いつつも、ここはAIの発達にも期待したいと思います。

会社員や経営者が、参考になる点を探すように読むもよし、純粋に小倉昌男氏の自伝としても魅力の詰まった一冊です。

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