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【連載小説】ネオ東京の謎解き~名探偵明智光輝『団子坂殺人事件』前編

「団子坂殺人事件」の冒頭部分をお届けします。


団子坂殺人事件 第1話

登場人物

明智光輝こうき 28歳 丸の内の私立探偵。
橘花蓮  26歳 明智の助手。
そうせき 明智の飼い猫。光輝に溺愛されている。

藤谷ふじや清一郎 31歳 ミカ・シークレット営業マン。
矢田里美さとみ 30歳 ミカ・シークレット社長。

1996年、春のこと。文京区千駄木。団子坂の途中にある、ひっそりとした婦人下着通販会社「ミカ・シークレット」。坂の並びには、同社の小さなショップがある。ここで働く藤谷清一郎は、地味ながらも誠実な営業マンとして知られていた。しかし、その平穏な日常は、ある朝、会社の倉庫で同僚の女性が絞殺体で発見されたことで一変する。

警察はすぐに捜査を開始したが、事件の手がかりはほとんどなく、途方に暮れていた。そんな中、明智光輝と橘花蓮の名コンビが団子坂に現れる。明智は日本を代表する名探偵であり、橘は彼の助手であり、鋭い洞察力を持つ若き女性探偵だ。

「この事件、一筋縄ではいかないね。」明智は現場を一通り見回した後、静かに呟いた。

橘は倉庫の隅を指さし、「ここに何かあります。この繊維片は…」と言いかけると、明智は彼女の言葉を遮った。「それは後で。まずは、被害者の生活を探ることから始めよう。」

事件の真相に迫るべく、二人は藤谷の過去と現在を紐解き始める。藤谷は一体、どんな秘密を抱えているのか。そして、明智と橘は真犯人を暴くことができるのか。

事件は、団子坂の影に隠された闇の中で、静かに動き出す…


東京の古い街並みに抱かれた団子坂。その坂は、かつて江戸の菊人形の名所として賑わい、明治の風物詩として人々を魅了した。坂の名は、昔坂下にあった団子屋から取られたと言われ1、その歴史は今も人々の記憶に色濃く残る。

平成の時代に入り、団子坂は新旧の文化が交差する場所となった。昔ながらのお菓子屋や古道具屋が点在し、その一角には、観潮楼跡の残る鴎外記念本郷図書館が静かに佇む。しかし、その古き良き風景の陰で、団子坂は別の顔を持っていた。

夜が訪れると、坂の暗がりからは、平成の世の裏側を垣間見ることができた。坂を上る人々の足取りは重く、彼らの心には日々の喧騒を忘れさせるような、どこかダークなムードが漂っていた。

「団子坂は、ただの坂じゃないんだ。」地元の老人はそう言って、微かに笑みを浮かべる。坂の歴史を知る者にとって、団子坂はただの通り道ではなく、時代の移り変わりを見守る存在なのだ。

そして今、団子坂は新たな物語の舞台となる。平成の終わりを告げるこの坂で、何が起ころうとしているのか。坂の影に隠された秘密が、やがて明らかになる時が来る。

藤谷清一郎は、表向きは模範的な企画部員でありながら、裏では三重の生活を送っていた。彼は企画部の女性三人と同時に交際しており、そのうえ既婚者であるという事実が、彼の周囲の人々には知られていなかった。

彼は「ミカ・シークレット」の役員との親密な関係を利用して、彼は会社から特別な手当を受け取っていた。さらに、会社の裏家業にも手を染め、その暗部に深く関わっていることが、捜査を進める明智と橘によって徐々に浮かび上がってきた。

「この男、ただの営業マンではないね。」明智は藤谷の経歴を調べ上げた資料を眺めながら言った。

橘は藤谷のデスクを調べていると、引き出しの奥から一枚の契約書を見つけた。「これを見てください、明智さん。彼が役員と結んだ、何やら怪しい取引の証拠です。」

明智はその契約書を手に取り、細かい文字を読み解いた。「なるほど、これは…」と彼は目を細めた。

事件の真相は、藤谷の二重、いや三重の生活の中に隠されている。明智と橘は、この複雑な糸を解きほぐし、真犯人に辿り着くことができるのだろうか。

事件の日、藤谷はいつものように朝早く出社し、誰もいないオフィスで何やら怪しい電話をしていた。その内容は、明智と橘が後になってから知ることになる。

「この藤谷、一体何を企んでいるんだろう?」橘は藤谷のデスクの上に置かれたメモを指差しながら言った。

明智は深く考え込むと、「彼の動機を探るには、彼の過去を知る必要がある。」と静かに答えた。

そうして二人は、藤谷の過去を探り始める。彼の家族、友人、そして会社の同僚たちから聞き取りを行い、藤谷がどのような人物であるかを徐々に解き明かしていく。

しかし、その過程で明らかになるのは、藤谷の人間性だけではなかった。彼が関わっていた「ミカ・シークレット」の裏家業とは、一体何なのか。そして、その裏家業が今回の事件にどのように関係しているのか。

矢田里美は、東北の小さな町から大都会東京へと夢を抱いて上京した。彼女は独自のセンスとビジネススキルを武器に、28歳という若さで「ミカ・シークレット」という婦人下着通販会社を立ち上げた。彼女の会社は、団子坂の裏手にある洗練されたビルの一室に位置していた。

矢田社長は、その美貌と鋭いビジネス感覚で業界内外から注目を集めていた。しかし、彼女の成功の裏には、誰も知らない苦労と犠牲があった。東北での厳しい生活、上京後の孤独、そして事業を立ち上げるための壮絶な努力。それらすべてを乗り越えてきた彼女は、強く、そして冷静な女性になっていた。

「ミカ・シークレット」の裏家業についても、矢田社長は深く関わっていた。その事実が、明智光輝と橘花蓮の捜査に新たな展開をもたらすことになる。

「この会社、表の顔と裏の顔があるようだね。」明智は桐川社長の経歴を調べながら、その複雑さに興味を示した。

橘は桐川社長のオフィスを訪れ、「矢田社長、あなたの過去についてお聞かせください。」と直接話を持ちかける。

矢田社長は一瞬ためらうが、やがて深いため息をついて、自らの過去と「ミカ・シークレット」の秘密について語り始める。

団子坂の影は、今宵も深く、暗い。


この物語はフィクションであり、実在の人物、団体、事件とは一切関係ありません。

原作・イラスト 橘順

This story is a fiction, and it doesn't relate to the event of real existence.  この物語はフィクションであり、現実に存在する出来事とは関係ありません。

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