直木賞作家×イノサンのAI悪魔本と、新人作家のゾンビ本ができるまで。

編集部員の添田です。

私が編集を担当した新刊小説『DEVIL’S DOOR』と『マーチング・ウィズ・ゾンビーズ』が明日6/19に発売されます。

実は、JUMP j BOOKSからノベライズではない、オリジナルの小説単行本が刊行されるのは非常に稀です。そのぶん、いわゆる文芸単行本ではない、マンガ的なJUMP j BOOKS的な要素が詰まった本になっています。その魅力を担当編集の視点から、ちょっとお話ししてみたいと思います。

直木賞作家のAI×悪魔小説『DEVIL’S DOOR』の見どころ

本作の舞台は南米風の近未来、〈マニュピレイテッド〉と呼ばれる人型AIが人間社会に浸透している世界。人々はその助けによって生活していますが、一方でマニュピレイテッド擁護派と反対派が対立し、人の真似をするマニュピレイテッドにどこか人間性が侵食されているような恐怖感が漂っています。

そんな社会に住む、マニュピレイテッドの主人公ユマとそのパートナーで悪魔のアグリという、人ではない者たちの物語、というのが本作のポイント。人ではない者から社会やストーリーを描くことによって、人というものの輪郭や、人が持っている魂とは何かという問題が浮き上がってきます。

それを解き明かすキーワードのひとつが「歌」です。本作では歌姫のシオリと、そのマネージャーであるルピタという人物が登場します。その歌姫に悪魔が憑いているかもしれない、という依頼を受けて、ユマとアグリは調査を開始します。

たとえば「魂がこもった歌」とか、ブルースには「悪魔と契約したギタリスト」という伝説などがありますが、歌には「魂」が関わっているのでは?という問いをきっかけに、AIと悪魔の事件は思わぬ事態へと進展していきます。

本書のクライマックスでは、AIと悪魔の二人が思わぬかたちで人の愛と苦しみ、そして魂の問題に直面することになります。非常に切なく美しいラストが待っていますので、ぜひ楽しみに読んでいただきたいです。

東山彰良先生のノベライズでの活躍

東山彰良先生は、直木賞受賞の『流』をはじめ、文学・文芸で活躍される一方で、JUMP j BOOKSでは数々のマンガのノベライズを手がけていただきました。

『魔人探偵脳噛ネウロ』にはじまり、『NAURTO』や『テラフォーマーズ』など多くのノベライズがあります。とくに『NARUTO ド根性忍伝』は、主人公ナルトの師・自来也の自伝小説であり、マンガ本編でも重要なアイテムとして登場する小説を、現実の本として作りあげるという異色作です。

『NAURTO』の設定背景と密接にリンクし、世界観を深めるものでありながら、かつ、完全なスピンアウトなので、実は『NARUTO』を読んでいなくても楽しめます。儵(しゅく)忽(こつ)渾沌という3国を舞台に(お気づきの方もいるかと思いますが「荘子」がモチーフとなっています)、ナルト、ツユ、レンゲ、という3人の忍者の運命が壮大なスケールで展開する、傑作の忍者アクション小説です。本書は私が東山先生を担当することになった最初の作品であり、私の物語観やキャラクター観を形作ってくれた貴重な本でもあります。ご興味がありましたら、ぜひお読みください。

そういったノベライズの経験から、若い読者へ向けたエンターテイメントを書いてほしい、という依頼で実現したのが『DEVIL’S DOOR』です。

『イノサン』坂本眞一先生の装画

マンガのノベライズがメインの編集部ですから、装画はマンガ家の方にぜひともお願いしたいと思っていました。AIや悪魔といった世界観、愛や苦しみという人の魂の葛藤をビジュアルで表現してくれるアーティストは誰かを考え、『イノサン』の坂本眞一先生にオファーしました。マンガ『イノサン』では激動のフランス革命時代を舞台に、愛や苦しみを徹底的に描いており、『DEVIL’S DOOR』とは時代やモチーフ、ジャンルは違えども、テーマや問題意識には通じるものがあるのでないかと感じたからでした。結果、喜んで引き受けていただくことができました。

坂本先生とデザイナーと私とでキャラクターや世界観のイメージを話し合い、また、映画のポスターを参考に見ていたりするうちに、ガンズ・アンド・ローゼズのジャケットに代表される髑髏や薔薇、それと中南米の死者の文化のイメージはどうか、というようなアイデアを話しました。結果、機械的にして悪魔的、耽美にしてエキゾチック、死者の香りが色濃く漂う、無二にして最高のビジュアルが生まれました。構図は左右対象で悪魔の聖書と銃が対置され、天地は人と山羊(バフォメット)の髑髏になっているというこだわりよう。また、精緻極まる細部は永遠に眺めていられるほど美しいです。ぜひ拡大してご覧ください。

デザインについて。テラエンジン高橋さんの仕事

デザイナーであるテラエンジンの高橋さんは、前述の『NARUTO ド根性忍伝』をはじめとして、東山先生が執筆した『NARUTO』ノベライズのすべてのデザインを手がけてもらっています。東山先生の初のJUMP j BOOKSオリジナル小説ということで、ぜひとも高橋さんに、ということでオファーしました。

近未来的でありながら禍々しさと神々しさを両立させるようなデザインで、美しい佇まいの本となりました。クロス用紙で巻かれた白い帯とのバランスも素晴らしいです。この風合いは紙の書籍でしか味わえません。ぜひ書店で手にとってみてください。

ポップでせつない青春ゾンビ小説『マーチング・ウィズ・ゾンビーズ』の見どころ

こちらの作品は、第4回ジャンプホラー小説大賞〈金賞〉受賞作です。先日、ジャンプホラー小説大賞の宣伝隊長であるミニキャッパー周平から、レビューも公開されました。

上記でも触れられているように、本作は現代日本を舞台にしながら、ゾンビの対処法やワクチンが確立し、その存在が社会的に認知・管理されている世界です。ゾンビ化にも進行具合によって段階・ステージがあります。「ゾンビの会」という自助会があり、医療的なサポートや悩みを相談しあう場所も用意されています。完全なゾンビの状態=ステージ5のゾンビになる前に、役所に書類を提出すれば、安楽死の申請をすることもできます。

ワクチンを打ってなかった主人公は、ゾンビに噛まれてゾンビになることが決定づけられてしまいますが、意思疎通もできるし、まだ完全なゾンビではありません。ゾンビの会に通い、安楽死の申請をして日々を過ごし、大学にも通います。ですが、社会や家族から少しずつ切り離されていきます。

一方、ゾンビではない他の登場人物たちも、なにげなく日々を過ごし、所在なさげな人たちです。

そんな彼らが集る場所が文芸部の部室。とくになにをするでもなく、面白い話が飛び出すわけでもない、モラトリアムを謳歌できる場所。ところが、ゾンビ化進行中の主人公がきっかけで、みなが部室に集まらなくなってしまいます。やがて部室はなくなり、集まる場所そのものがなくなってしまうことで、彼らのつながりは断たれ、集まる理由もなくしてしまいます。

唯一の居場所が奪われたとき、ゾンビではない他のみんなもさまようことになります。それはさながらゾンビのように。人間だけど、居場所がなければ誰しもゾンビと変わりのない存在なのではないでしょうか。たとえば、SNSでひっきりなしに他人とコミュニケーションをしていても、どこか疎外感を感じたり、居場所がないなと感じることがあります。本作は孤独と居場所についての物語であり、それが本書の大きな魅力のひとつであり、共感してもらえるポイントではないかなと思います。

私がジャンプホラー小説大賞で推したポイント

「ゾンビになっていくかわいそうな主人公」から始まるストーリーですが、やがて主人公の自己犠牲的な精神によって、居場所を取り戻そうとする…この主人公の態度と行動が私がとくに気に入っているところで、ジャンプホラー小説大賞の審査会でも推したポイントです。

人間ではなくなったけれど、まだゾンビでもない主人公は、自分が原因でみんなの居場所が失われてしまったことに気づきます。そこで、自分がステージ5の完全なゾンビになる前になにかできることがあるのではないかという思いに駆られて、話は大きく展開していきます。安楽死直前にして行動を起こそうとする主人公の心情の変化に、ぜひ注目してほしいです。

ほかにも主人公が、何にも夢中になれない、冷めてしまう状態を「フィッツジェラルドの法則」と名付け、フィッツジェラルドの『グレートギャッツビー』を参照しながら、1920年代のニューヨークの孤独と、現代日本の孤独を対比的に描き出す、そんな野心的な試みも非常に面白く、ほかの応募作にはない魅力でした。

ここまで本書の魅力を書いてきて、なにか暗い内容のように思われるかもしれませんが、けっして堅苦しくも悲惨でもない、肩肘を張らない描写で綴られており、ストーリーにはポップさがあふれています。筆致や文体にもぜひ注目してみてください。才能あふれる新人作家・折輝真透さんのデビュー作を担当できたことを、この上なく光栄に思います。

イラストレーター・うらむらさんの装画

ゾンビというキャッチーなキャラクター、ポップでせつない青春ストーリーという、本作の魅力をさらに高めてくれる方を探したときに、うえむらさんのイラストに出会いました。彼は、不思議でかわいい、シュールなモチーフやセリフが特徴的なイラストレーターです。音楽のジャケットイラストやマンガも手がけています。

「ゾンビもの」でありながら「青春もの」でもある、そんな日常と非日常のあわいや不思議な空気感を、うえむらさんであれば魅力的に表現してもらえるのではないかと思ってオファーしました。やわらかい線とタッチで描かれたキャラクター、スカイツリーと東京の街並みが広がる風景は、本作の空気感をしっかりと伝えてくれるイラストになっていると思います。

デザインについて。ローカール・サポート・デパートメント浅見さんの仕事

イラストとともに、本作の「ポップさ」の要素を担当してくれたのが、デザイナーの浅見さんでした。浅見さんは、ローカール・サポート・デパートメントに所属するデザイナー。弊社の仕事では『ONE PIECE magazine』や『東京喰種』『青の退魔師』、他社でも『よんでますよ、アザゼルさん。』『へうげもの』などで知られるデザインスタジオです。

マンガ的なキャッチーさとポップさをデザインで叶えてくれるのではないかと思ってオファーしました。結果、うえむらさんのイラストを活かしつつデロデロとした緑のロゴが目を引く装丁が完成しました。

書影ではややくすんでしまってわかりづらいのですが、目に眩しい蛍光グリーンのインクが異彩を放っており、書店の文芸書コーナーで見かけたら「なんか変な本がある!」となることうけあいです。ぜひ手にとってみてください。

最後に

以上、担当した書籍の紹介でした。どちらの本も、作家とデザイナーと社内外をはじめいろんな方の協力のおかげで、ようやく世に出すことができることができます。やや紹介しすぎたきらいもありますが、どこかひっかかって、少しでも読んでもらえるきっかけになれば幸いです。明日、試し読みを『DEVIL'S DOOR』は10000字、『マーチング・ウィズ・ゾンビーズ』は12000字無料公開予定です!

ほかにもJUMP j BOOKSでは、私が担当した『スクールポーカーウォーズ』をはじめ、いろんなオリジナル小説が刊行中です。ノベライズと合わせてさらに展開していきたいと思っていますので、今後もチェックしてみてください。


読んだご感想をぜひアンケートフォームにお寄せください。アンケートに答えていただいた方には、6/19より『マーチング・ウィズ・ゾンビーズ』の壁紙をプレゼントいたします。また、映像関係などメディア化のご相談もお待ちしております!「クリエイターへのお問い合わせ」からご連絡ください。

試し読み

※6/19公開しました! お楽しみください。