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地域と繋がる~総合の実践より~

仮想空間と現実空間が融合し、IoTによってすべての人とモノがつながるといわれるSociety5.0がもう目の前まで来ているということを最近、よく耳にする。

AIやロボット技術が革新的に進歩し、それと同時にさまざまな環境問題や社会問題が混在し、より複雑化・多様化する世界。
そんな社会の中で、学校だけでなんとかしようとする時代は終わりを告げ、これからは、地域と学校がより密に連携することで、子どもたちのより良い学びや成長に繋がっていくべきだと思う。

今、私の小学校5年生の学級の総合的な学習の時間には、毎時間のように地域の方がゲストティーチャーとして来ている。
時には、地域のケーキ屋さんと新しいスイーツメニューを考案し、
時には、地域で活躍するYoutuberが動画編集について直接教えてくれて、
時には、地域の生産者さんが、地産地消の大切さについて真剣に語ってくれている。

今回は、そんな地域と学校を繋げる総合的な学習の時間の取り組みについて紹介したい。


出会い~わくわくする方へ~

総合的な学習の時間の醍醐味は、何といっても、人・モノ・コトといった材と子どもたちの出会いである。

私が勤務する小学校がある地区は、食用「八重桜」の生産が盛んである。
資料によると、古くは江戸時代から地域の祭りの費用を捻出するために桜の塩漬けが作られて、それが庶民に愛されていた。今では日本有数の食用「八重桜」の生産地となっている。
しかし、農家の高齢化や跡継ぎの問題、また、桜を摘むのに7~8mの梯子を桜の木にかけておこなう高所作業は危険を伴う。
徐々に食用「八重桜」の文化が陰りを見せ始めている。

子どもたちにとっては、八重桜は幼少より近くにある存在であるが、当たり前にありすぎて、地域の宝としての意識は薄く、またそんな宝がピンチにあることも知る子どもは少ない。

そんな中、勤務校は数年前から地域指定のコミュニティースクール(CS)になった。CS化されると、学校職員と地域の方々で構成される「小中連絡協議会」が設立される。
昨年度の暮れ、小中連絡協議会が作成した「八重桜」に関するパンフレットが全家庭に配付された。

それが私と八重桜の出会いだった。
次の学年の総合はこれでやりたい!とアンテナにピーンと引っかかったのだ。

さっそく年度が変わる前から動き始め、まずは、小中連絡協議会の中核にいる方に連絡を取り、話を聴くところから始めた。
聞けば聞くほどおもしろい!
これは、子どもたちの学びに必ず繋がる。
そして、うまく行けば地域を巻き込んだダイナミックな活動ができる。
わくわくした。

何をするにしても、自分自身が「わくわく」することを大切にしている。『迷ったら、「わくわく」する方へ』
をいつも意識している。
子どもたちを主体的・意欲的にさせるには、まずは自分自身が心からそう思えないと始まらない。
その感情や感覚は、良くも悪くも必ず子どもたちに伝わる。

地域の課題が自分事になる

どういう風に子どもたちと八重桜を出会わせようか色々と計画していたが、自然相手はなかなか思うようにはいかなかった。
八重桜は、ソメイヨシノなどの桜よりも約2~3週間の遅咲きである。
「さぁ、今年はどんな総合をしようか?」とゆっくり総合開きをする予定が、例年よりも開花時期が早まり、4月中旬の総合開きとともに、出会わせなければいけなくなってしまった。
この機を逃すと、もう来年まで待つしかない。
しかも、摘み取り体験をする計画の日は、あいにくの雨模様。
八重桜は、開花後に雨に濡れると、食用としては使い物にならなくなってしまう。
急遽、予定を変更して、前日に私と地域の協力者で摘み取り、準備をして、桜の塩漬けを作る体験から始めることにした。
結果、これがよかった。

子どもたちは見よう見まねで桜の塩漬けを作った。漬物石はないので、自分たちの手で押して、塩に浸した。

約1か月後、出来上がった塩漬けで桜湯を作って飲んだ。
すると、見事に「うまい!」・「まずい!」が半分半分に分かれた。
子どもたちの本音がぶつかり合う。
でも、お湯を入れたときに、桜の花びらがふわ~っと広がる様子にみんなが「うわー」と目を輝かせた。

そんな体験を通して、「八重桜」(材)と子どもたちの距離がどんどんと近づいていった。
それと同時に、地域のゲストティーチャーのお話の中で、八重桜が生産の危機にあることを知る。
「地域の宝が危ない。」「自分たちの八重桜がこのままではなくなるかもしれない。」
地域の問題が、子どもたちの中で、どんどん自分事化されていった。


自分たちで作った八重桜の桜湯

プロジェクト発足!~何のために?~

そこからは、話が早かった。
八重桜をなんとかしたい、守りたい。
どう守るのか?
自分たちにできることは何か?
知らない人がたくさんいるから、八重桜のことをもっとたくさんの人に知ってもらい、買ったり食べたり楽しんだりしてもらうことで、それが「守る」ことに繋がるのではないか?

そうして、「八重桜プロジェクト」が立ち上がった。

最初に、プロジェクトのめあてを時間をかけて話し合った。
何のためにするのか、だれのためにするのか。
すべては、「八重桜を多くの人に知ってもらうため」
それを合言葉に、活動が進み、道を外れそうになったときも、常にそこに立ち戻れるように意識している。
そうして、子どもたちが探求的に学びを展開している。

学校を起点に地域が繋がり始めた!

それと同時に、地域のさまざまな方々とも繋がり始めた。
改めて思うことは、地域には、子どもたちの将来のモデルになるような素敵な大人がたくさんいる。
求めれば、みなさん喜んで協力してくれて、「子どもたちのために」と一生懸命話してくれた。
ゲストティーチャーの授業は、毎回、子どもたちからの質問や疑問を事前に募ることで、それに答える形で行ってもらった。
それが互いにとって一番いい形だった。

地域の生産者に直接話を聴いたときには、最後にこんなことを話してくれた。
「地域の特産物はみんなに買ってもらないと、続けていくことができない。結局は、売れないと廃れてしまうんです。」という言葉は、教科書のどんな言葉よりも子どもたちの心にささった。

ゲストティーチャーを呼ぶ毎に、子どもたちは
「自分たちは活動をして八重桜のことを知ったつもりになっていたけれど、話を聴くと、全然まだまだ知らないなということが分かった。」と答える。
「無知たるを知る」ことで、子どもたちがさらにアップデートされていくことを毎回、感じる。

そして、いつの頃からか、この「八重桜プロジェクト」の授業の一番の魅力は、「八重桜」自体ではなく、「八重桜」を通して出会う人々であることに気が付いた。
子どもたちは「八重桜」にかかわる人々の想いや願い、働きを知り、さまざまな価値観や考え方、生き方に触れることで、自分の生き方や考え方を振り返る。

さらに、おもしろいのは、ゲストティーチャーで呼んだ人たち同士が繋がり始めたことである。
八重桜に関わる地域の人々が、小学校(子どもたち)を起点(ハブ)にしてどんどん繋がっていく。
子どもたちの想いに感化され、大人たちも躍動し始める。
そして、思ってもみなかったが、来年の春先に、地域で初めて「八重桜祭り」が地域の方々の協力のもと、開催することが決まったのだ。地域の公民館が場所の提供に名乗りを上げてくれた。

「地域の大人がどれだけ声を張り上げて、地域の課題を訴えかけてもなかなかみんな見向きをしてくれない。ところが、子どもたちの声は多くの人の心に届いていくんです。」
と、地域の協力者が私に語ってくれた。

学校を起点にして地域と繋がっていく

地域と繋がることで広がる無限の可能性

今、その八重桜祭りの開催に向けて、子どもたちと地域の方々が文字通り、一丸となってプロジェクトに取り組んでいる。

最初の頃はどちらかというと受け身だった子どもたちが、最近では多くの子どもたちが「自走」を始めている。
以前は、こちらから各プロジェクトを回り、アドバイスをすることが多かったが、最近は「先生、~しようと思ってるんですけど、いいですか?」と報告してくれることが多くなり、自分たちで考えてどんどん動くようになってきたことは、とても嬉しい変化である。
その分、いろいろな子どもたちがさまざまな動き方をするので、各プロジェクトのリーダーを通して、全体を把握するのが大変になってきた。
嬉しい悲鳴である。

子どもたちは、地域の課題を自分事として捉え、その課題を解決するために、各教科で養った知識や技能を応用して、自ら考え、話し合い、探求的に課題解決に取り組んでいる。
これからの社会で生きる力を育むためには、地域と密に連携したこういった学びが必要なのかもしれない。

それぞれの地域にもう一度、目を向ければ、子どもたちの生きた学びに繋がるような「宝」がたくさん眠っているのではないだろうか。
そして、その「宝」はきっと子どもたちと地域を結ぶ橋渡し役をしてくれるはずである。
それぞれの地域が、地域の材を見直し、「学校」を軸にすることで地域同士が繋がり、それが地域活性化に繋がれば、そこには無限の可能性が広がっているように思う。

来年の春、八重桜祭りを終えて、「八重桜プロジェクト」を完結させた子どもたちがどんなことを語るのか。今からとても楽しみである。

つばっち_川原翼@神奈川


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