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自分にしか出せない価値を追求したい。平日は法人営業、休日はお寺で働く社員

JTBには社員の多様な働き方を応援する制度がいくつかあります。その中の1つである「ふるさとワーク制度」は、生活の拠点として社に登録している「居住登録地」でリモートワークをベースに業務を行う働き方です。

この制度を利用すれば、転居転勤を要する事業所への異動発令時であっても、生活拠点を変えず家族と暮らしながら仕事をすることが可能になりました。また、家業の手伝いや両親の介護など、さまざまな事情で居住登録地の変更が難しい場合も、所属している事業所からの異動を伴うことなく、仕事を続けることができます。

今回、話を聞いたのは、実際に「ふるさとワーク制度」を利用して働く社員・末本一久すえもと かずひさ。JTB東京中央支店に所属し、平日はリモートワークを中心にJTBの業務を行い、休日は家業で大阪にある正福寺の住職をしています。

「ふるさとワーク制度」の利用に至った経緯や、JTBの法人営業、お寺の住職と2足の草鞋で働く末本の働き方に迫ります。

末本一久(すえもと かずひさ)
東京中央支店所属。2010年入社後、現在まで一貫して法人営業を担当。実家の家業を継ぐことになり、2021年より「ふるさとワーク制度」を活用し、大阪で勤務中。現在は重点顧客の営業拡大・戦略支援、支店の営業人財育成、大阪・関西万博の営業推進の三つの業務 をメインに仕事に取り組んでいる。

JTBを辞めたくなかった。家業との両立を模索して

——まずは、末本さんの現在の仕事内容を教えてください。

現在は、3つのミッションを持って仕事に取り組んでいます。1つ目は法人営業担当としての重要顧客の開拓、2つ目に営業の仕組み化や後輩の育成、業務効率化の推進などの営業戦略の基盤構築、そして3つ目が大阪・関西万博に関する業務です。

もともとは大阪にいながら東京マーケットでの営業や課の戦略設計を続けていたのですが、大阪・関西万博の仕事を受けてからは、東京と大阪をつなぐ役目も担うようになりました。東京中央支店の一員でありながら、拠点は大阪という立場を生かした働き方ができるようになってきています。

——「ふるさとワーク制度」を利用した経緯を伺えますか?

実家が寺ということもあり、幼いころからいつかは家業を継ぐことが決まっていました。兄弟がおらず、もともとは社会経験を積んだらその仕事は辞めて家業を継ぐのだと思っていて。僕のなかでは「東京オリンピックが終わったら区切りなのかな…」とぼんやりと考えていました。

でも、実際にそのときが近づくにつれ、まだまだJTBでやりたいこともあるし、貢献できることもあるはずなのに、辞めたくないと強く思うようになったんです。

家業をやりながらも、どうにかJTBの仕事を続けられないか道を探っているなかで、ちょうど「ふるさとワーク制度」が始まって。この制度なら生活拠点が変わっても、異動したり仕事内容を変えたりせずに、今のまま仕事を続けられるということで、上司と相談することになったんです。

——当時はかなり悩まれたのでしょうか?

そうですね。自分で言うのも何ですが、僕は愛社精神がすごく強いんですよ(笑)。若手の頃、一生懸命取り組んだ仕事に対して先輩たちが認めてくれて。本当に楽しい環境で生き生きと仕事をさせてもらってきました。自分をここまで成長させてくれた会社に対して、もっと貢献できることがあるはずだし、ちゃんと恩返しがしたかったんです。

どうしようもなければJTBか家業のどちらかを諦めるしかなかったのですが、「ふるさとワーク制度」導入のおかげで、こうして続けてこられたことに本当に感謝しています。

「ふるさとワーク制度」をきっかけに、改めて人の温かさを感じた

——末本さんが「ふるさとワーク制度」を利用してから4年目に入りました。現在はどのような働き方をしていますか?

平日はJTBの仕事をして、休日はお寺の仕事をしています。基本はリモートワークになりますが、月に複数回は東京に出張していますね。東京と大阪の距離感がある中で、どこまでやれるだろうと最初は不安を感じるところもありましたが、今では自分の理想的な働き方ができていると感じています。

何より、僕のこの働き方を支店のみんなが応援してくれる姿に、改めて人の温かさを感じています。その想いを裏切らないように「今の自分の環境だからこそ、提供できる価値とは何なのか」を常に考えながらやってきたつもりです。

——「ふるさとワーク制度」の活用に難しさを感じたことはありますか?

ふるさとワーク制度の難しさというよりも、リモートワークの難しさはありますよね。社内に対してもお客様に対しても、対面だからこそ伝わるニュアンスや温度感があると思うんです。いかにこの距離を感じさせないコミュニケーションが取れるかが大きな課題でした。

——東京と大阪という距離感を感じさせないために、何か工夫していることはあるのでしょうか?

月に一度でも東京に行って、その時間を濃密にすることですね。東京出張の日はできるだけ人と会い、他のメンバーからの質問に答える時間を設けるようにしているので、分刻みのスケジュールになっています。

支店のメンバーのなかには、添乗などで1週間くらいデスクにいない人も多くいるので、「あ、今日は末本さんいない日か」と錯覚させるくらいに、距離感を感じさせないことを目標にしています。

最初こそ盛大に送別会をしてくれたんですけど、今ではランチに誘っても「どうせまたすぐ東京に来るでしょ」と断られたりすることも(笑)。それはそれで、ある意味僕が理想としていた距離感が築けている証ですから、良かったのかなと思っています。

JTBと住職の仕事に共通する「地域とのつながり」

——JTBでの経験が住職としての仕事に生かされているなと感じることはありますか?

すごくありますよ。お寺の仕事というのは、ある意味専門職と言えます。専門性に特化することはプロフェッショナルとしてすごいことではある。でも、そこだけに特化することで、いわゆる一般の社会人がどんなことを考え、どんな悩みを持つのか、見えなくなってしまうこともあると思うんです。

僕は支店の後輩の育成も担っているので、ありがたいことに仕事の悩みや人生の悩みを聞くことが何回かあって。今の若者たちの悩みにちゃんと耳を傾けられるような、僕だからこそなれる僧侶の姿があるのではないかと。

——反対に、お寺の仕事がJTBの仕事に生きることもあるのでしょうか?

JTBとお寺の仕事の共通点としては、どちらも「地域とともにあること」だと思っています。お寺は地域に開かれた存在であり、JTBも地域交流を大切にしてきた会社です。

ただ、あくまでJTBは会社である以上、ビジネスを基盤としています。地域交流や地域課題解決というテーマを前にしたとき、どうしても「これをやっても儲からない」とか「地域のためになってもJTBのためにはならない」とか「それがビジネスとして成立するかどうか」という視点が強くなります。

一方、お寺はビジネスではありませんから、何百年、何千年という単位で大切なものを守り、伝えていくことが第一命題なんです。短期的なメリットではなく、かなり長い視点でものを見ています。

お寺らしい視点を交えながらビジネスと向き合ってみると、結構視野を広く持てるんですよね。例えば、短期的にはビジネス上の効果がないように見えても、それで地域が良くなれば、その恩恵はJTBにも巡ってくる。どこか一点が成長するのではなく、みんなで一緒に成長していくんだと。

お寺への親しみやすさを感じてもらえるように、正福寺の本堂には画家・寺門 孝之さんが描き下ろした絵が飾られている

——ビジネスでは得られにくい視点が持てる、ということですね。

ただ、寺の考え方だけがいいかというとそうでもないんです。本来はお寺も地域とともにあり、変化に対応して人々に寄り添っていくものなのですが、どうしても新しい挑戦に対して及び腰なところが多い印象があるんですよね。ただ待っているだけでは、敷居が高くて地域の人たちも入ってきづらいお寺になってしまいます

だから、JTBのようにこちらから地域に働きかけていく取り組みを見習いたいと思っています。実際に寺の横にある「文化会館」で地域の人たちが参加できるヨガ教室を開催したり、地域の子どもたちを招いたお寺体験とキャンプを実施したり、もっと地域の人たちが気軽に来られる場所になるよう、いろいろ仕掛けている最中です。

今の働き方だからこそ出せる価値があるはず

——末本さんの今後の目標を聞かせてください。

「ふるさとワーク制度」のロールモデルになっていきたいなと思っています。長く働いていると、家庭の事情と仕事のバランスで悩むタイミングは誰にでもあると思うんです。そんなときに、「実際にふるさとワークを使ってこんなふうに働いている人がいるんだな、自分にもできるかもしれない」と思ってもらえるようにしていきたいですよね。

かつての営業職もその1つでしたが「これはさすがにリモートではできないんじゃない?」と思われる業務でさえも、どんどん開拓していきたいと思っています。

ふるさとワーク制度のパイオニアとして「後輩も続きたくなるような前例にしていかないと」と、ある意味ちょっとした緊張感も持っているんです。今の働き方ができているのは、この制度ができたことだけでなく、仲間たちの協力のおかげですから、その期待は裏切りたくないですね。

大阪・関西万博の仕事で、東京と大阪をつなぐ役割を担えたように、むしろ「大阪にいてくれて良かった」と思ってもらえたり、お寺と両立している自分だからこそ思い付くアイデアを提供できたり、僕の今の働き方だからこそ出せる価値を追求していきたいと思っています。

写真: 斉藤菜々子
文:  佐藤伶
編集: 花沢亜衣

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