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近未来の建設現場の実現に向けて

坂田 昇
論説委員
鹿島建設株式会社
執行役員土木管理本部土木技術部長

我々の建設業の生産性は、ここ30年間で他産業が大幅に増大しているにもかかわらず、横ばいであるのが実状である。また、建設従事者の死亡率も高止まりしている。国が掲げるi-construction(アイ-コンストラクション)のもと、機械化、自動化が進みつつあるが、いまだに人力に頼って施工しているのが実態である。その理由として、工場で生産される製品と比べた場合、特に土木構造物は、非常に大きく単品生産であること、自然相手に環境条件が異なる場所に構築されることなどが挙げられる。その結果として、建設業は、いまだに従来の3Kのイメージが強く、学生が好んで希望する業種になっていないのも事実である。 

土木業界、特に建設業が若者からも魅力あるものになれるかを考えた場合、手作業が多い建設現場を、クリーンで安全な働きやすい環境にすることが一番である。そのうえで従事者が高い報酬を得るためにも生産性を高めていくことが望まれる。そのためには、土木の建設現場でも、機械化、自動化を推進する必要があるが、前述のように様々な障害があった。しかし、近年の機械やICT技術の進歩は目覚ましく、これらの技術を応用すれば、土木の建設現場においても、自動化の可能性がでてきた。現実に、国土交通省の成瀬ダム建設現場では、堤体構築においてCSG(Cemented Sand and Gravel;現地発生材(石や砂礫)とセメント、水を混合してつくる材料)のダンプによる運搬、ブルドーザによる撒出し、振動ローラによる転圧という一連の打設作業を、すべて自動化している。

これらに用いている重機は遠隔操作ではなく、プログラミングされたとおりに自動で動いており、トラブルの際にのみダムを一望できる管制室に居る技術者がプログラムを調整することで、昼夜にかかわらず24時間連続で施工を行っている。このように、土木の建設現場でも、一部については、既に自動化が現実のものになりつつある。

土木事業の生産性を高めるうえで、建設現場の機械化、自動化は有力な方法の一つである。しかし、すべての工種で自動化することは、簡単にできるものではない。よって、未来に亘って、自動化を実現し、進化させ続けることになる。その実現のために、土木技術者に機械分野、ICTやAI分野の人材も取り込む必要がある。これらの技術者が手を携えて、クリーンな環境で、発想力と創造力を活かして、施工の最適化を図り、施工計画やそのプログラムをコーディングし、自動で機械が構造物を構築する。このことにより、建設現場では、彼らが思い描いた構造物が現実のものとして建設されていくことになる。このようなパラダイムの変革によって、モノづくりの充実感を保ちつつ、土木をより魅力的と感じてもらえるようになると思っている。このようなコンセプトを官学民が共同して発信することで、今まで土木業界に目を向けていないICTやAIに関わる学生や技術者にも興味を持ってもらえるのではないか。

一方で、建設現場の機械化、自動化をしやすくするために、大量生産しやすい構造物については、単純化することも重要である。橋梁の長さやトンネルの断面形状・寸法は、個々にそれぞれの条件に最適なものが設計されているため、それぞれが個別である。よって、その都度、オーダーメイドする形となり、効率化において大きな妨げとなっている。例えば、トンネルの断面形状や寸法を3パターンくらいにすれば、同一形状・寸法のプレキャスト部材を大量に製造できることになる。また、掘削機やセントルなども、同じものが使用可能となり、転用が可能となる。個々の最適化を図るのではなく、全体最適が図られることによって、結果として、機械化、自動化しやすい、大量生産しやすい設計となるのである。2000年に、土木研究所から、材料費よりも労務費が施工費に及ぼす影響が大きいことから、コンクリート等の材料使用量を最小化する最適設計よりも、多少の使用材料が増えても、形状を単純化して施工を簡素化する方が、トータルコストが安く、品質が高いものができるとの報告がなされている。この考え方は、労務費の低減だけでなく、これから進めるべき機械化、自動化をやりやすくする方策の一つとなる。2000年のこの提案は、ハンチ部の省略など一部で適用されているが、会計検査や発注者の多様性から、その普及は限定的なものであった。今後、施工現場の機械化、自動化に向けて、構造物の形状を単純化するなどの提案を再度見直し、その考え方を広めていくべきである。

 以上のように、土木事業の生産性向上に向けて、様々な技術者が融合して、建設現場の自動化を推進することにより、建設現場をクリーンで安全な環境にすることができ、土木をより魅力的な産業に変革できるものと思われる。

土木学会 第167回 論説・オピニオン(2021年4月版)

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