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【第3話】天国に一番近い教会を目指して(ジョージア)

ジョージア弾丸旅の2日目。

お目当てのツミンダサメバ教会に向かうべく、まずは地下鉄の駅を目指す。ジョージアの地下鉄はとても深いところに建設されていて、下が見えないくらいの長さのエスカレーターをひたすら下っていく。

ちなみに、日本のエスカレーターの2倍はあるんじゃないかってくらいに、速い。乗った瞬間に体がぐわっと持っていかれてしまいそうな、そんな感覚になるくらいだ。

海外の、こういう、ちょっと”雑”なところが自分は好きなのである。

日本はあまりにも丁寧すぎて、上手くできすぎていて、不便に思うところがほとんどない。海を越えると、それをつくづく実感する。

公衆トイレだってほとんどの場合は綺麗だし、貼り紙一枚で工事を示すことはなく大きな看板が建てられているし、電車は時間通りに来るし、1分でも遅れようものならば「大変申し訳ございません」のアナウンスが流れる。

それは、日本の当たり前であって世界共通ではない。

公衆トイレは有料だったり、無料のところは整備ができていなくて注射器やよくわからない葉っぱの匂いがしたりする。電車はよくもわからず10分くらい普通に遅れる。もはや時刻表なんてあるのか、と思うことさえもある。「待っていれば来る」、その”雑さ”が少し心地よくも感じる。

ジョージアも、例外ではなかった。電車がプラットホームに到着したことを知らせる、下から吹き上げる強い風を受けながら、そんなことを考えていた。


カズベギ村に向かう玄関口、Didube駅。

「カズベギ?カズベギ?」

駅舎を出ると、すぐさま客引きの人たちが声をかけてくる。

カズベギ村へ向かう方法としては、「乗り合いタクシー(バス)」がある。ミニバス、もしくは9名ほど乗れるバンに客が乗り合わせ、車がいっぱいになる人数に達したら発車するというものだ。

事前情報だと、「ボッタクリがいる」だとか「違うツアーを押し付けられる」だとか色々書かれていたので、少し気を引き締めてドライバーと交渉することにした。

カズベギ村にそのまま向かう直行便と、途中の観光名所に数カ所寄っていくツアー便と、それぞれ値段が違ってくる。相場は前者が400円、後者が800円ほど。自分は後者の方がお目当てだったので、ツアータイプを探していたので、声をかけてくるドライバーに、運行ルートを聞いて周った。

少し若めでアラブ系のドライバーと、規定より少し安い値段で交渉ができたのでその車に乗ることにした。無事にカズベギ村への足を確保した訳だが、何が起こるかわからないので警戒心は持ち続ける。

もし乗り合いの人たちとドライバーがグルで強盗をしてきたら?

そういった最悪のケースまで考える。日本ではあり得ない話なので大袈裟に思うかもしれないが、観光客を狙った強盗などの犯罪は、残念ながら起きている。なので『最悪のケース』を考えておくのは、最大のリスクマネジメントなのだ。

「いっぱいにならなくても、40分後には出発するから」

現在時刻は午前10時。ドライバーは僕に待っているように言い残して、他の客引きに向かっていった。なるほど、いっぱいにならなくても連れて行ってくれるのか。そんな情報はなかったので、ラッキーだと思った。

運転手が離れてから、僕は一度車を降りて車のナンバーを写真に撮る。何かあった時のために、SNSに投稿する。運転席付近に怪しいものがないか確認する。メインのクレジットカードを靴の中に隠す。財布から現金を少し抜いて、ポケットの中に入れる。

そう、ここまでする。

別に僕は旅先で死にたいわけでもないし、避けられるトラブルや事故はなるべく避けたいと思っている。だからこそ、石橋を叩いて渡る。無謀な危険を冒してまで、旅はしたくない。このラインは、旅をするごとに研ぎ澄まされていくものなんだと思った。


話を戻すと、「40分後に出発するから」とドライバーが告げてから40分後のことだった。

強い日差しにジリジリと車内の温度が上がる。窓を開けていないと汗が止まらない。

それはそうと、僕はまだ地下鉄の駅に停まっているバンの中にいる。

後部座席にはヨーロッパ系のカップルが5分くらい前に乗ってきて、「40分後に出発するらしい」という情報を僕に教えてくれた。


ああ、そういうことか。と納得した。

結局、時間が過ぎてもなるべく客引きは続けるし、運行スケジュールの時間なんてあってないようなものだということを痛感した。

最終的に、この8人乗りのバンが出発したのは昼の12時を過ぎた頃だった。

「いやあ、なかなか客が捕まらなくてさ」

頭を掻きながら苦笑いを浮かべるドライバー。

気持ちはわからなくもないが、こちらも2時間も待っている。


「よし、”揃った”ことだし、そろそろ出発しようか」


日本人バックパッカーと欧米系のカップル、中国人2人組を乗せたバンは、2つの空席を残したまま、カズベギ村に向かって出発した。


【第4話に続く】

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