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【第2話】天国に一番近い教会を目指して(ジョージア)

ジョージアに到着して、数時間。

普段見慣れないグルジア語に囲まれながら、街を歩く。

トビリシの街は、極端だった。バスが通る大通りを抜けて一本路地に入ると、レンガや石造の家屋が並んでいる。目に見えるところは整っていて、少し外れると一気に生活感が増す。街灯もほとんどなく、夜になると真っ暗になる、そんな通りが多かった。

「チナ?チナ?コリア?」

路地を歩いていると、小さな子どもが自分を指差して叫んでくる。確かに、アジア系の人間はほぼおらず、ほとんどがヨーロッパ系の国なので、珍しく思うのも頷ける。ChinaやKoreaのことだとはわかったので、「Japan!」と返すと、「Japan!」と返された。ちゃんとわかってくれたかは定かではない。

さすが日本人がほとんど訪れない国、ジョージア。日本が選択肢にはないのか、と改めて実感した。


路地を抜けて、また賑やかな場所に出る。

ヨーロッパの国々を旅した人にとってはあるあるなのかもしれないが、大体の観光都市には「旧市街(Old City / Old Town)」という地区がある。

近年整備された地区ではなく、中世以降の建築物や近現代の施設が残る地区のことで、資料館や旧教会、お城などがあることが多い。トビリシもその例外ではなかった。

街のシンボルマークでもある『ナリカラ要塞』は4世紀のペルシャ時代から建築が始まったもので、さらに丘の上にある『メテヒ教会』も5世紀頃に作られたものだという。

旧市街は、他のヨーロッパ都市と同じような雰囲気で、「観光」のための案内板や、「観光地価格」のレストランが立ち並んでいた。

少し路地を入ると、一気に人通りは少なくなり、薄暗くなる。そのギャップが激しいほど、その路地に入りたくなってしまう。

街のいたるところに、カラフルなタイルが敷き詰められた壁があったり、こじんまりとした規模感が心地良い。

客引きも多くなく、観光客でごった返しているわけでもない。

マイナーな国ならではの雰囲気がそこにはあった。

ナリカラ要塞から、街を見降ろす。

丘の下の公園からロープウェイが開通しており、約100円で乗車することができる。

夕方になると、街はまた顔色を変える。

こうやってじっくりと時間をかけて歩いてみると、この街がヨーロッパとアジアの境目付近に位置していることを実感する。旧市街には中世以前に建てられた”アラブ式温泉街”もあり、日本から遠く離れた土地で「温泉」という言葉に出会えたことになんだか不思議な気分になった。

夜は、控えめな街灯りが美しく、昼間とは違った表情を魅せてくれるトビリシの街並み。

夜になると、観光地でさえ人通りは少なくなってくる。

トビリシは金融街としても発展しているため、終業後は郊外へと人が戻っていくのだ。

約半日、トビリシの街を歩いてみて、改めてアジア系の人々が少ないことを実感する。

日本語はもちろん、世界を旅しているとどこにいても必ず聞こえてくる中国語でさえほとんど聴こえてこない。だからかもしれない。「旅に来ている」と強く実感でき、その土地に没入する感覚があったのは。

その夜は、ホテルの近くにあったレストランにふらっと立ち寄った。

鶏肉とニンニクの煮込み、シュクメルリ。パンの中にとろけるチーズが入っており、上にボイルした卵が乗っているハチャプリ。ジョージア流の餃子、ヒンカリ。上記のようなジョージア料理のフルコースにレモネードをつけても、約800円。本当にヨーロッパなのかと疑いたくなるような、ジョージアの物価の安さに驚く。

オーダーをする時には英語で伝えようとするも、全く伝わらない。グルジア語が公用語の国なので、基本的に若い世代の人しか英語を話せないという。

「English person, wait」

オーダーを聞きに来てくれたウェイターさんにそう告げられ、しばし待つ。すると、もう一人のウェイターが出てきてくれた。そのウェイターさんにもほぼ英語が通じなかったので、ジェスチャーとGoogle画像検索で調べたメニューの写真を指差してオーダーを済ませた。

ちなみに、メニューはすべてグルジア語だった。

肝心の料理は、チーズやニンニク、クリーム系の”ガッツリ”したメニューが多いので、一人では到底食べ切れる量ではなかった。それに、ヒンカリには宿敵パクチーが潜んでおり、途中でリタイアしてしまった。

少し話は逸れてしまうが、最近なぜか日本で「シュクメルリ」がブームになっていたものの、本場の”脂っこさ”はわりと抑えられていて、さすが日本のチェーン展開だなあと感心した。訳のわからないくらいギトっとしたニンニクのクリームソースは、ぜひジョージアにいって味わっていただきたい。


こうしてジョージアの「食」に触れたあとは、ホテルに戻って明日に備えることにした。

ジョージア滞在2日目となる日は、お目当ての「ツミンダサメバ教会」に向かう日である。『天国に一番近い教会』とされるその景色を見るために、弾丸でジョージアまで来たのだ。

ツミンダサメバ教会のあるカズベギ村まで向かうバスが出ている地下鉄Didube駅までの道順を調べ終わり、お腹に残るジョージア料理たちによる胃もたれを確信しながら、眠りについた。


【第3話へ続く】


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