第三章 行くぜ!青春ウラ街道 今日から俺がキャプテンだ(後編)
この物語はフィクションです。登場する団体、名称、人物等は実在のものとは関係ありません。
赤線とはー
性風俗の混乱を恐れた国が慰安所として許可を出した特殊飲食店街。半ば公認で売春が行われ、警察の地図に赤い線で囲ったため、赤線と呼ばれた。ー
―特急「つばめ」 浜松・名古屋―
虎之介を仲間に誘い込んだその夜―
四人組として初めてのミーティングが再び江の島の旅館で行われた。浜やんが女郎屋に乗り込む段取りなどを再確認した後で檄を飛ばした。
「いいか、今日から俺がキャプテンだ。全て俺の舵さばきに従ってくれ。でないと船は安全に進めない。晴れの日もありゃ、シケの日だってあるんだ」
虎之介は上機嫌で、酒を飲みながら、いちいち浜やんの話に頷いていた。
「浜よ、おめえ昔から何かでっけえことやらかす人間だなって、思ってたけど、こんなこと考えていたとはなぁ、恐れ入ったよ。まぁ、俺がいれば百人力よ。バレたらバレたでボコボコにしてやるよ」
「あんまり力むなよ、虎。先ずは航海の無事を祈って乾杯しよう」
「乾杯!」
こうして四人組の詐欺師グループが誕生したのである。
赤線の経営者たちを敵に廻してマリとちか子を〝売り〟、周旋料を巻き上げる。一軒だけを狙うのならまだしも各地の赤線街で決行しようというのだ。客になりすました虎之介がマリたちを店からさらい、追っ手をくらます逃れの旅。もし失敗したら…警察に御用となるか、各地に縄張りを持つその筋の組織が黙ってはいまい。殺されて海にでも沈められるのがオチだ。
だが、命も重いが銭も又重い。浜やん、この勝負に賭けてみたいのだ。
―絶対に逃げ切ってみせる。
特急「つばめ」が浜松を過ぎ、名古屋、米原と下って行く。最初の目的地である京都は刻一刻と迫っていた。
虎之介は相変わらずやる気満々だ。
「浜よぅ、なんかわくわくするぜ。行くぜ!青春ウラ街道って感じだな」
「ハッハッハ、おめえもうまいこと言うな。お天道様に背を向けてってか」
虎之介と浜やんのやりとりにマリとちか子が顔を見合わせた。
「こっちはビクビクよ。ねぇ、ちかちゃん」
「そうよ、あまり無理するのやめようよ」
二人はだんだん心細くなってきたようだ。
浜やんはすっかりキャプテン気取りである。
「ハッハッ八ッ、わかってるさ。そんなに心配するなって。無茶はしないから。進路は今、南東にとっている。舵さばきはキャプテンに任せろって」
続き > 第四章 京の色里で ビビったやくざのインターン
―京都・橋本の赤線街―
参考文献
兼松佐知子(昭和62年)『閉じられた履歴書 新宿・性を売る女達の30年』朝日新聞社
木村聡(写真・文)(平成10年)『赤線跡を歩く 消えゆく夢の街を訪ねて』 自由国民社
木村聡(写真・文)(平成14年)『赤線跡を歩く 続・消えゆく夢の街を訪ねて2』自由国民社
澤地 久枝(昭和55年)『ぬくもりのある旅』文藝春秋
清水一行(平成8年)『赤線物語』 角川書店
新吉原女子保健組合(編)・関根弘(編)(昭和48年)『明るい谷間 赤線従業婦の手記 復刻版』土曜美術社
菅原幸助(昭和62年)『CHINA TOWN変貌する横浜中華街』株式会社洋泉社
『旅行の手帖(No・20)』(昭和30年5月号) 自由国民社
※近代庶民生活誌14 色街・遊郭(パート2)南 博 三一書房(平成5年6月)
名古屋市中村区制十五周年記念協賛会(編)(昭和28年)『中村区市』(名古屋市)中村区制十五周年記念協賛会
日本国有鉄道監修『時刻表(昭和30年)』日本交通公社
日本遊覧社(編)・渡辺豪(編) (昭和5年)『全国遊郭案内』日本遊覧社
広岡敬一(写真・文)(平成13年)『昭和色街美人帖』自由国民社
※戦後・性風俗年表(昭和20年~昭和33年)
毎日新聞出版平成史編集室(平成元年)『昭和史全記録』 毎日新聞社
松川二郎(昭和4年)『全国花街めぐり』誠文堂
森崎和江(平成28年)『からゆきさん 異国に売られた少女たち』朝日新聞出版
山崎朋子(平成20年)『サンダカン八番娼館』文藝春秋
吉見周子(昭和59年)『売娼の社会史』雄山閣出版
渡辺寛(昭和30年)『全国女性街ガイド』 季節風書店
大矢雅弘(平成30年)『「からゆきさん=海外売春婦」像を打ち消す〈https://webronza.asahi.com/national/articles/2018041300006.html〉令和2年12月14日アクセス 朝日新聞デジタル
※参考文献の他に物語の舞台となっている地などで、話を聞いた情報も入れています。取材にご協力いただいた皆様に感謝いたします。ありがとうございました。
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