JP-MIRAI youth 企画「学生レポーターによるインタビュー」 第4回 :実習生受入れ企業・日系ブラジル人・ 大泉町観光協会(群馬県大泉町)へのインタビュー(下)

「学生レポーターによるインタビュー」企画第4回目は、12月20日に群馬県大泉町を訪問し、技能実習生受入れ企業、大泉町在住日系ブラジル人、大泉町観光協会にインタビューしました!

今までの記事はこちら↓
第 1 回(監理団体)    
https://note.com/jpmirai_youth/n/n8b453e25907f
第 2 回(愛知県・介護施設)
https://note.com/jpmirai_youth/n/n4c7ca3f56d73
第 3 回(静岡県・建設会社)
https://note.com/jpmirai_youth/n/n2e31b62ce0d0
https://note.com/jpmirai_youth/n/n6897ca34e34b

※定住者とは
法務大臣が特別な理由を考慮して、一定の期間日本に住むことを認めた人に与えられる在留資格です。海外に移住した日本人の子孫(日系人)もその対象になります。

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最後に、大泉町観光協会の副会長、小野修一様にお話をお伺いしました!小野様は社会保険労務士として、外国人労働者の職場環境の改善や人権保護に貢献されています。

― なぜ大泉町に外国人が多いのか。

群馬県大泉町は北関東工業地域の一部であり、大手企業の機械の組み立て工場やその下儲け会社が数多く集積しています。1980年代のバブル期には製造分野において急成長する中、人手不足が深刻となりました。そこで1990年の入管法改正がきっかけで、「定住者」という在留資格が新設され、その対象者となる日系ブラジル人が出稼ぎ労働者として大泉町へ渡りました。
2021年11月現在、大泉町の総人口約41,000人に対して、約20%である7,920人が外国籍の方々です。国籍別でみると、ブラジル国籍者が最も多く、町総人口の10.8%を占めます。近年はネパール、ベトナムなど東南アジアからの技能実習生が増えています。在留資格別でみると、「永住者」が最も多く、2番目は「定住者」であり、その数は2,500人を越えます。
大泉町の面積は18.03平方キロメートルであり、県内で一番小さな町です。ところが大規模な工場が数多く立地することで人が集まり、人口密度で見ると実は群馬県で1位なのです。

― 日系人と技能実習生は何が違うのか。

まずは日本語のレベルです。日系人は日本人の血を引いていることで「定住者」、また一定期間在住すると「永住者」という在留資格を取得することができます。つまり日本語のレベルは関係なく国内で生活することが可能です。それに対して技能実習生は渡航前に事前教育を受けるため、ある程度の日本語を習得した方がほとんどです。2つ目に「定住者」と「永住者」には就労に制限がないことです。決まった職業でしか働くことが出来ない技能実習生とは異なり、違法ではない限り職業選択や勤務時間、勤務形態は自由です。その影響もあり、日系人の平均時給は他国籍や在留資格と比べて高く、現在は少なくとも1,800円以上だと言われています。一方で技能実習生は転職することができず、企業によっては日本人や「定住者」「永住者」よりも低い賃金で働いています。このように賃金格差による不平等が起きることもあります。

― 外国人労働者の犯罪についてどう考えるべきか。

大泉町内でも、外国人による犯罪は起きます。特に技能実習生による犯罪が近年増加しています。しかしながら、私達は技能実習生が悪いと考えてはいけません。彼らのほとんどは日本の技術を学び、母国に貢献したいという思いを持っています。そのため日本語や日本文化を一生懸命学び、渡航前は日本に対する期待感は高いはずです。一方で受入企業側は技能実習生を「人間」ではなく、「日本語ができる安い労働力」として捉えると、様々な労働問題や人権問題が起きます。優良な監理団体や企業では、実習生に事前に国内での生活費を教えたり、日本人や「定住者」と同じ賃金や福利厚生を提供したり、差別なく平等に接したりしています。残念ながらそうではない会社で働いている技能実習生の生活は困窮し、家族へ送金する余裕もなくなります。このような不良な監理団体は近年数多く摘発され、次々となくなりましたが、技能実習生は新たな監理団体に所属するまでは働くことができず、つまり収入がない期間があります。さらに本来実習すべき技術と関係ない業務に携わり、政府から不法就労とみなされ強制帰国させられた技能実習生もいました。技能実習生が犯罪に手を染めるのは、このような背景があることを考えなければなりません。そして、それは技能実習生本人の責任よりも、受入者である企業や監理団体にも責任があると思います。

― なぜ日系人は「たくさん働く」と言われているのか。

日系人は、派遣会社に所属する労働派遣社員が多いです。大泉町内のとある大手会社の工場では、約2,000人の労働者がいます。その中で直接雇用者や正社員はいなく、ほとんどは間接的に雇用された労働派遣社員です。正社員であれば様々な福利厚生、月毎の勤務日数に関係なく一定の月給が支払われます。一方で派遣社員は決められた勤務時間内に応じた給料しか発生しません。つまり年末やお盆など休日が多い月であるほど収入が減ります。派遣社員は労働基準法で定められた月45時間、年360時間までの残業が可能であるため、より多くの収入を得るために積極的に時間外労働をする日系ブラジル人が多いです。しかしながら、その規制を無視して、規定時間よりも働いている日系人や、それを容認する企業もあります。企業側としては人材不足をどうしても補いたく、一方で日系人らはより多く稼ぎたいという思いがあるからです。

―  日系ブラジル人の教育問題について

大泉町内に住む日系ブラジル人の子どもたちは、地元の公立学校またはブラジル人学校に進学する子が多いです。日本語ができなかったり、公立学校のカリキュラムについていけるか不安を抱いていたり、また将来ブラジルに戻る予定の子供たち等はブラジル人学校に進学する傾向があります。
ブラジル人学校の生徒の日本語レベルは様々です。出稼ぎの関係でブラジルから来たばかりの子もいれば、日系ブラジル人5世の子もいます。中にはポルトガル語(ブラジルの公用語)が中途半端な子もいます。母国語ができない子であるほど、日本語が上達しづらいです。
さらに、ブラジル人学校の生徒は国内の大学受験に不利です。まず国内で定住しているため「留学生」として扱うことができず、日本人と同じシステムで受験しなければいけません。日本語能力検定に合格するために日本語学校に進学したり、学費を賄うために就職してから大学へ進学する生徒がほとんどです。

―  大泉町は多文化共生を実践している町なのか。

総務省によると多文化共生とは、「国籍や民族などの異なる人々が、互いの文化的違いを認め合い、対等な関係を築こうとしながら、地域社会の構成員として共に生きていくこと」です。残念ながらこの町に住む半分ほどの日本人は外国人に対して好ましくない感情を抱いているように感じます。外国人を「人間」として捉えるのではなく、単なる「労働力」として考える人もます。労働力不足だから、海外から「労働力」を呼んだが、結果的には「人間」が来てしまい、その「人間」達と同じ環境で過ごさないといけなくなりました 。
私たちは外国人を完全に味方し、認め合わなくてもいいと思います。少なくともお互いの文化や慣習を「そういうものだ」と平常心で認識し、対等に接するべきだと私は考えます。
実は約30年前、入管法が改正し、大泉町内の企業が積極的に日系人を受け入れた頃には東毛地区雇用安定推進協議会による「外国人労働者雇用のための指針」が制定されました。その頃は日系人を直接雇用し、日本人と平等にするために会員企業に積極的に呼びかけをしていました。日本人も外国人も同じく平等な環境の下であれば、多文化社会も構築できたはずです。
ところが、労働者派遣法が成立すると、直接雇用よりも賃金が高い請負や派遣などの間接雇用が日系人の間で人気となり、会員企業から離れ派遣会社や請負企業に転職する人が増えました。また、技能実習制度ができ、より安い労働力が手に入ると考える企業は積極的に受け入れ、日本人、日系人とその他外国人間で賃金格差が生まれました。
現在、日系人で問題になっているのが「高齢化問題」です。直接雇用されていない日系人は残念ながら政府から年金を受け取ることができません。大泉町内の生活保護受給者の3割が日系人であり、これからも増える見通しであるため、自治体の財政支出にも大きな影響を与えています。日本国憲法第25条に定めている「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」では、あくまでも「国民」が対象であり、日系人は生活保護を受け取る権利はないと主張する住民も存在します。
ただし、町内にある6つの公立中学校の生徒数のうち3割から5割が外国人です。幼い頃から文化が多種多様な環境で育つ子ども達は差別的な考え方を持たないのではないかと考えます。大泉町に差別や偏見のない社会ができるよう、新しい世代に期待します。

― 多文化共生や外国人労働者に興味がある若者に一言お願いします。

メールやLINEでも構いませんので、周りにいる外国人と仲良くしてみましょう。彼らはどういう気持ちを持って日本で生活しているのか、どのような意見や価値観を持っているのかお互い知り合うことが大切です。さらに同じ興味関心を持つ友達の輪を広げてほしいです。様々な価値観を持つ人々と情報交換しながら、何か在留外国人に貢献できることはないか見出して欲しいです。


学生レポーターの気づき・学び

小野様からお話を伺い、日系人と技能実習生について深く学ぶことができました。雇用から賃金、生活、教育など様々な面において格差が生まれていることが分かりました。特に印象に残った一言が「労働力を呼んだのに人間が来た」です。確かに担い手や後継ぎが不足している日本では、様々な在留資格を設けながら海外から積極的に人材を受け入れている一方、共生共存することを想定せず「労働力」だけとして外国人を思っているからこそ様々な差別や偏見が生まれると思います。また、小野様がおっしゃるように、外国人に対しても日本人と同様な接し方をすれば差別はなくなる一方、既存の法制度やステレオタイプなど、それを行うのは難しいと思います。様々な背景を持つ人々との交流を深めるためには、まずは誰に対しても「同等」な接し方をするように今後意識してみたいです。(荘)


JP-MIRAI youthとは
JP-MIRAI youthは、責任ある外国人労働者受け入れプラットフォーム(https://jp-mirai.org/jp/)のユース組織です。2021年8月から始動し、外国人労働者に関する活動・研究をしている、または関心を持つ方のための学びや交流の場を提供しています。

「学生レポーターによるインタビュー企画」とは
学生が外国人労働者受け入れ支援に取り組んでいらっしゃる企業・監理団体・送出機関等に取材をし、さらに外国人労働者の方々にインタビューをすることで、多文化共生や在留外国人に関する知識と理解を深めることを目指す企画です。学生が外国人労働者支援の現場を実際に訪問し、そこで得た学びや気づきを同世代に発信していきます。


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