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韓国リサーチvol.02(DGK 性暴力防止委員会)

Japanese Film Project

DGK(韓国映画監督組合)性暴力対策委員会のお二人に話を伺った。

通訳:ファン・ギュンミン(映画研究者・明治学院大学言語文化研究所 研究員)

【プロフィール】
キム・ドンリョン(※写真右):韓国国立映画アカデミー卒業。2004年以降より米軍基地住民やその土地についてのドキュメンタリー企画など、多くのビジュアルアート作品を手掛ける。初長編ドキュメンタリー『アメリカ通り』(2008)は山形国際ドキュメンタリー映画祭(YIDFF)にてアジア千波万波部門の小川紳介賞を受賞。監督2作目『蜘蛛の地』(2013)はHot Docs(カナダ)、イフラバ国際ドキュメンタリー映画祭(チェコ)、NYのMoMAを含む国内外での国際映画祭に招待され、YIDFF国際コンペティション部門特別賞を受賞。最新作『妊娠した木とトッケビ』(2019)もロッテルダム国際映画祭、釜山国際映画祭、ソウルインディペンデント映画祭など国内外数多くの国際映画祭で上映され、イメージフォーラム・フェスティバルにおいて寺山修司賞を受賞した。

パク・ヒョンジン(※写真左):韓国芸術総合学校の映画学科とテレビ&マルチメディア学科卒業。2008年に初長編『6年目も恋愛中』を監督。その後、長期間かけ取り組んだ長編2作目『ハッピーログイン』を2016年に発表。ウェブドラマシリーズ「空腹な女」(2013)と「アルファ・ガール」(2014)を複数監督で手がける。2017年ウェブドラマ「アイドル代行します!」をユン・スンホと共同監督。本作は長編映画として再編集され、ソウルインディペンデント映画祭にて上映された。3作目となる「モラルセンス 君はご主人様」はNetflixオリジナル映画として製作され、2022年2月に配信が開始された。

▼DGKと性暴力防止委員会とは?

DGK:DGKは監督達が所属するギルド(共同組合)です。(※解説文「ギルトとユニオンの違いとは?」文末記載)

ドンリョン:私は性暴力防止委員会の2期委員です。隣のヒョンジンさんは1期委員でした。今日は、DGK性暴力防止委員会の活動を中心にお答えできればと思います。

ヒョンジン:韓国映画業界では、性暴力ハッシュタグ運動がありました。性暴力防止委員会は、その後に作られた委員会です。私が委員会を設立したわけではなく、設立された直後に参加しました。当時はまだ今後どういった活動をしていくかは、はっきりしていませんでした。

ですが、「まずは被害者の声を聞かなければいけない」という問題意識があった。DGKは利益集団です。つまり、監督の権利を主張し、守るための組織。でも、他人の人権を侵害してはいけない。

JFP:DGKを利益団体とおっしゃっていますが、どういった意味でしょうか?

ヒョンジン:ギルドというのは、もともと利益を求めて集まった人達の団体だと私は認識しています。
もちろんDGKも公的な活動はできるわけですが、要するに、監督たちの利益を求めていく団体という意味で、利益団体という言葉を使いました。もともと、このギルドが最初に設立された目的というのは、監督たちの利益のためだったと認識しています。

▼中支申

DGK:まず、『“중지(Stop 中止), 지지(Support 支持), 신고(Report 申告)”という、中支申の原則』を作って、組合員と一緒にキャンペーンを展開していきました。中支申は、様々な労働環境で性的な嫌がらせをなくすために、『嫌がらせをストップし、被害者をサポートし、その被害内容を申告する』ということで作りました。海外の事例を参考にしてます。

ただ単に男女間での性暴力だけではなく、職場内での権力関係から生じる嫌がらせを防ぐために作られたものです。深刻な性暴力だけではなくて、「誰でも平等に職場内で人間らしく仕事をする権利を持つべきだ」という認識から、こういうキャンペーンを展開しています。

監督の場合、あらゆる状況でやってはいけない行為が詳細に記されています。例えば「オーディション時に、こういう話をしてはいけない」ということなど、監督が参考にできる内容となっています。

それ以外にも性暴力防止委員会で規則(ガイドライン)を定めました。まず、「どのような行動が性暴力なのか」を定義する必要がありました。

▼懲戒委員会を開く場合

実際にトラブルが発生した場合、DGKで懲戒委員会を開き、「会員資格の停止」、「活動に制限を与える」、「警告」と、主にこの三つに分けられます。メディアで大きい事件が報道された際も、被害者、あるいは加害者に会って、話を聞きます。DGKの名誉と組合員の人権に関わる問題でもありますから。

DGKは懲戒を下した後に「公告」を通じて懲戒委員会がどのような根拠で、なぜ該当事件の監督を懲戒したのか、その理由を記します。そこには加害者の監督がどういった理由で性暴力を犯したのか、詳しく書かれています。
重要なのは、それがDGK内の監督オンラインコミュニティで掲載されていることです。当然、すべての組合員が見ることができますよね。それが性暴力の予防に繋がっていると思います。

▼法的には処罰されないが、問題がある場合

DGK:性暴力防止委員会第1期の活動をみんな支持してくれましたが、とても大変でした。懲戒委員会は、DGKの監督だけでなく、性暴力の相談員や弁護士などの外部有識者を招いて、運営しています。

法的に明らかに処罰されているケースはそれほど難しくありません。ですが、例えば労働現場の性暴力・セクハラ規則に違反する事例は、法的な物差しとは別に審議する必要があるので、基準が曖昧なところもあり難しかった。同じ組合員に対して、そういう話を聞くのも難しいし、「そこまで処罰する必要があるのか」という声も少なくなかった。それが非常に大変でした。私たちは裁判所でもないし、全てを調査する権限もないんです。

JFP:要するに、法的に処罰されるケースは法的に処罰されると思うんですが、法的に処罰されないけれども問題になっているケースを組合の懲戒委員会で議論して、何かしらの対処を、専門家を入れながらやっているっていうことでしょうか?

DGK:そうです。例えば、裁判まで行かないけれど、被害者から「加害者が犯したハラスメントを認めさせた上で、DGKから処罰を出してください」と要求があるときなどです。全てケースバイケースで、対応もその都度変わってきます。

JFP:今、日本の状況を見ていると、「法的には黒なのかは分からないけれど、明らかに問題がありそうだ」というケースが沢山あって、その対処が難しいと感じています。その場合、DGKの相談窓口に被害者が相談し、DGKの組合員が対応するという仕組みでしょうか?

DGK:被害者本人が相談にくる時も、代理人から連絡が来る場合もあります。
被害者から直接相談が来ない場合でも、メディアで映画界の性暴力問題が取り上げられれば、私たちは自ら調査します。それがDGKの義務だと思うからです。

▼監督のギルドにできること

JFP:日本でも、「映画界に相談窓口が必要だ」と議論されています。JFPのシンポジウムで、「基本的に相談窓口は一つではなく、いくつかあった方が良い。相談したい人が、抱えている問題の特性に合わせて、相談窓口を選択できる形が望ましい」という有識者の意見がありました。
上記を踏まえ、DGKの窓口でなければ、対処できない問題はあるのでしょうか?韓国映画・ジェンダー平等センター・ドゥンドゥン(以下、センター)とも、役割が違ってきますよね?

DGK:センターは監督だけではなく、映画業界の様々なスタッフが性暴力被害を申告し、そこから公的・医療的な支援をしている団体です。

他方で、DGKは監督の権利や利益を主張し守る団体なので、センターと立場が少し違います。DGKは「いかなる場合も、他人の人権を侵害にしてはいけない」という問題意識、つまり被害者中心主義を持って、性暴力防止委員会をつくったわけです。
というのも、構造的にDGKというのは、実は加害者が生まれやすい。そういう立場にいる人間が多い団体なので、DGKにいる人達に「性暴力を絶対に起こしてはいけない」という認識を自ら根付かせるために性暴力防止委員会を設立しました。

センターは被害者支援が目的ですが、DGKはそうではない。それが違いだと思います。大前提として、「DGKは絶対に加害者の味方にならない」と、はっきり伝える必要がある
性暴力を犯すと自分のキャリアがなくなってしまう。今後、世の中に顔を出すことが出来なくなってしまうというメッセージを強くはっきり伝えています。

JFP:映画界にギルドがあることで良いと感じることはありますか?

DGK:監督の実態調査を実施しています。例えば、「ある監督が一年に何本を撮っているのか?ギャラはどのぐらいか?」などを調べ公表している。とりわけ、成功した監督だけが目立っている傾向がありますので、私たち監督は労働者として扱われない傾向があります。監督以外のスタッフが弱者として見られる場合が多いので、監督の実態も公表して、監督の労働者としての側面も理解してもらえるように努めています。

もう一つは著作権の問題です。例えば韓国では、映画の権利が監督になく、製作者に帰属されます。それに関する法を変えるべきだというよう活動もしています。そのために討論会を開催したり、AVACI(著作権の国際団体)のフォーラムにも参加しています。そして、国会議員をたずね、「こういう法律を変えるべきだ」と訴えています。他にも、現場にコーヒー車を提供したり、健康検診サービスも支援しています。

活動費は組合員からの会費だけでは足りませんので、最近は外部から金銭的な支援も受けています。

JFP:メンバーは、何人ほどいますか?

DGK:最近調査したところ、500人以上ですね。インディペンデントやドキュメンタリーの監督も加入しています。

▼どうすれば変わるのか?

JFP:日本より韓国の方が映画スタッフの労働環境が良いと見聞きします。労働環境が改善されるにあたって、キーになった出来事や組織は何かあるのでしょうか?

DGK:韓国は独裁政権の時代がありました。独裁政権下では、映画振興公社(영화진흥공사)という組織がありましたが、独裁政権が終わって、KOFIC(韓国映画振興委員会)に変わりました。

KOFICはガバナンス組織ですが、政府の組織が半分、あと民間の運営が半分入ることで、組織の性格が形作られています。それは映画界の中で、業界団体の役割を担うことができるということを意味します。

韓国映画界には、DGK以外にも撮影監督の組合など様々なギルドがありますが、映画産業労働組合という産業別労働組合(ユニオン)も存在しています。20年前には、KOFICで製作者たちが会議をしていると、映画産業労働組合の人達がやってきて、抗議やデモをしていた時期がありました。

映画産業労働組合は、メディアで様々なキャンペーンも展開していました。例えば、自分たちの労働環境が非常に悪いということをずっと訴えていたんです。国会議員の事務所に行って、「こういう法律を変えるべきだ」と。そういったロビー活動をずっとやってきました。

▼映画人の申聞鼓(シンムンゴ)

DGK:KOFICの中には、映画人の申聞鼓(シンムンゴ)が設置されました。

※申聞鼓(シンムンゴ)とは?
1401年朝鮮太宗代に、民衆が上訴できるように設置した太皷(タイコ)のことである。法律機関に訴えても納得しがたい場合、申聞鼓を叩くことで王に直接上訴することができた。身分に関係なく誰でも利用できた申聞鼓は現在の青瓦台ホームページの「国民請願掲示板」につながっている。
KOIFCが運営しているのは「映画人シンムンゴ」です。性暴力だけではなく、賃金の支払い、著作権の紛争、不当な解雇など、労働上のあらゆる問題について対応しており、無料の法律相談、医療支援も行っている。

例えば映画人たちが搾取されたり、ギャラの未払いが発生した際、この映画シンムンゴというところに申告します。申告された場合、調査が入ります。その結果、製作者会社の問題が認められると、例えばKOFICが展開してる様々な支援に申込み出来なくなります。

JFP:「ここは良くないプロダクションだ」ということが把握される仕組み、日本にも欲しいですね。

DGK(ヒョンジン):韓国には労働時間制度というものがあります。週に52時間以上の労働をしていけないということが国で決められているんです。
でも、最初は映画界でその規則は守られていなかった。けれど、様々な声が集まって、今では、1週間52時間が映画界でも基準になっています。

私は2002年に映画監督のキャリアをスタートさせましたが、その時に比べると、状況が良くなったことは確実です。でも最近、ドラマの現場で助監督が労働環境の問題を訴えて自殺したニュースがあって、助監督側がCJ傘下のスタジオドラゴンに対し裁判を起こしました。

その後、その助監督の名前をとって、新たにセンターが設立された事例もあります。確かに良くなった部分もありますが、解決しなければならないイシューも多く残されています。実際、法の隙間を狙って、過酷な労働環境を強いている制作会社がとても多いので、未だに課題があると思います。しかし、確かなのは、52時間制は映画業界の中でかなり守られています。

▼製作側はどこに・・・

JFP:性暴力防止委員会を運営するにあたって、監督を中心に活動することに難しさを感じることはあるのでしょうか。

DGK:DGKの性暴力防止委員会というのは、あくまで内部の問題を自ら解決するために作った組織です。監督自らが性暴力というものが何かを知って、それを予防する、そして実践しなければならないという問題意識を持つために、性暴力防止委員会を作りました。

実は、こういった問題意識の中で製作者側の声がないという指摘がありました。製作者は声が大きく、影響力があるにも関わらず。映画産業の労働組合は、あくまで現場で働くスタッフ(労働者)の立場から声を出している団体です。一方、監督の場合は立場が曖昧と言いますか、多様な立場に置かれている。
実際に状況を調べてみると、監督を取り巻く状況も良くないということが分かりました。

KOFICに監督も参加してはいますが、クリエイターを保護する政策を作るには力が及ばずにいます。 KOFICでは製作者やプロデューサーの影響力が強く、彼らの利益中心に政策が作られる傾向があるように感じます。

※ギルド・ユニオンの違いとは?
2つの用語の、世間での使われ方は明確には定義づけられていない。法律用語として存在するわけではなく、明確な定義があるとは言い難い。その上で、大枠としては次のように説明が可能である。

(1) 「ギルド」
 歴史的には、「熟練工」(高度のスキルを持った芸術家・職人など)の集まりを「ギルド」と呼ぶ。熟練工は、(無名の一労働者ではなく)自らの名前で仕事を請け負うような人々であり、ギルドを現代に引き付けて言うと、「高度の専門能力のある芸術家などの専門家集団」と言えるだろう。そうすると、下記の「ユニオン」との対比では、現代で「ギルド」と名乗る場合、「法的な意味での労働組合ではない」というニュアンスが感じられる。
 ただし、現代で「ギルド」と名乗る団体が、法的な意味での労働組合に該当するか否かは、その構成員(芸術家など)が「労働組合法上の労働者」に該当するかどうかによる。つまり、ギルドという名称と、法的な意味での労働組合か否かは、直接の関係はない。

(2) 「ユニオン」
 歴史的には、「ギルド」との対比で「非熟練労働者」の集団として発生したものをユニオンと呼ぶ。現代では、多くの場合、法的な意味での(=「労働組合法上の労働者」に該当する人たちが組織する)「労働組合」を指す場合が多い。
 ただし、「法的には労働組合ではないけれども、自分たちは同じ苦労を分かち合っている同業者の集団だ」という、いわば日常用語としての意味で「ユニオン」という名前を使っている団体もあるし、「現在の法律では労働組合を作れないけれども、これから法改正や運動を通じて労働組合になっていくぞ」という決意を込めて「ユニオン」と名乗っている団体もある。

文章監修:山下慎一(福岡大学法学部教授)

取材:歌川達人・近藤香南子・清水裕  /  記事作成:歌川達人
通訳:ファン・ギュンミン(映画研究者・明治学院大学言語文化研究所 研究員)

※本プロジェクトは、トヨタ財団 2021年度研究助成プログラム「日本映画業界におけるジェンダーギャップ・労働環境の実態調査」(代表:歌川達人)の助成を受けて実施されています。


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