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映画業界をジェンダー視点での調査する重要性について

伊藤恵里奈
ジャーナリスト。#MeToo運動の最中に、各国の映画祭を取材し、映画業界のジェンダー問題への関心を高める。2021年4月から勤務先メディアを休職して、ロサンゼルス滞在中。フルブライトジャーナリスト。南カリフォルニア大学客員研究員

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コロナ禍は、映画業界に大きな打撃を与えました。十分な補償がないまま休業や短縮営業の要請がされ、現場は疲弊しきっています。

では「十分な支援とは何か」と考えたとき、私たちは映画業界の実態を意外なほど知らないことに気づかされます。

映画業界で働く多くの人がフリーランスやバイト・パートといった非正規の雇用です。

賃金や労働時間の処遇も悪く、雇用の保障もありません。

コロナ禍前から、それらの問題は指摘されていましたが、業界全体の雇用形態や平均賃金や就労年数といった調査はされてきませんでした。問題が顕在化されないので、人々の意識も啓発されず、各種の助成制度や政策も現場のニーズにあったものではありませんでした。

映画業界に限らず、働き方の問題は、ジェンダー格差の問題と表裏一体です。

内閣府男女共同参画局によると、日本の女性の非正規雇用労働者の割合は56%で、男性の倍以上(2019)です。映画業界も含む娯楽業やサービス業などに、特に女性の非正規労働者は集中しています。

日本では長らく、男性は長時間労働を強いられ、女性には子育てや介護といった無償のケア労働が課せられ、女性は働いても家計の補助ほどの収入しか得られないという、性別役割分業が根付いてきました。

それが、賃金の上昇や労働環境の改善、そして仕事の質の向上につながったのでしょうか。

いえ、日本の平均賃金はここ20年下落の一途です。平均賃金はG7の中では最下位で、かつOECD加盟国の中でも平均以下で、低水準のグループに属するようになりました。「時間当たり労働生産性」も、G7の中最下位で、仕事の質も落ちています。

各国の映画界では、その国全体がジェンダー平等にむけて前進するのにあわせて、ジェンダー格差をなくす動きがでています。

ジェンダー視点での調査も活発です。たとえば、南カリフォルニア大学(USC)では、興行収入100位以上の米映画における出演者やスタッフのジェンダー比、セリフの長さや役などにおける性差を毎年綿密に調査し、差別を「見える化」して問題提起しています。

#MeToo運動が広がったあと 、この動きは各国に広がっています。
映画祭の選考委員や入選作の監督、制作会社の幹部の数、俳優やスタッフの賃金や雇用の機会など、あらゆる分野でのジェンダー比を調べて、その偏りを是正する動きにつながっています。

日本の映画界に、このうねりは届いているのでしょうか。

映画製作者連盟が発表した2000年から20年までの興収10億円以上の実写映画のうち、女性監督は常に数%で、変化がありません。ここ20年、主要な教育機関で映画を学ぶ学生数は男女ほぼ同じですが、映画業界で女性は周辺に追いやられています。

映画業界のジェンダー格差は、日本の社会や働き方を色濃く反映したものです。作り手側の多様性は、映画の中で描かれる社会のあり方や女性像にも強く影響します。

弊団体では、USCの調査を参考にしつつ、ジェンダーギャップに関する調査を入り口に、「日本映画業界で働くこと」について、統計を積み上げていきます。


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