スパイのためのハンドブック/ウォルフガング・ロッツ

去年の5月はクリムトと志賀理江子を見るために東京に行った。物見ついでにBOOK&BEDに泊まり、ベッドの簡易さ(防音性が皆無、梯子がおそろしい降りづらさ)に閉口しつつも眠くなるまで本を読んで楽しんだ。そのとき読みかけていたのを大きい本屋で探して見つからずにいたのが、先日最近相性のいい本屋で発見した。

僕は人間をあまりに簡単に信用するので、そのぶん後になってその関係を終わらせるなりなんなりするのが非常に手間で無駄が多い。信用は性善説にもとづくわけではなく、とりあえず多めに取って後で捨てようというがさつさと、来るものの拒み方がわからない鈍感さによる。基本的に人間の感情の細かい機微を捨てているので、裏の真意を読んだり取引をしたりすることができない。信用した人間には過剰に自己開示をするが、それも親愛の情からというよりは、生育環境から得た「愛情は何かを与えたり役に立ったりした時見返りとしてあたえられる」という歪んだ認知によるところが大きい。そのために相手にとっては一時的に「重い友人」になるが、その季節が過ぎると過剰さを嫌って離れていく感じになる。利用されて捨てられるというとあまりにも殺風景ではあるが。

誰も信用してはならず、個人的に深入りすることができない、孤独で強靭なモサドのスパイの精神論と作法を読んでわが身を反省した。本を読むと直接関係なさそうな思索から自分の中で納得がいき、突然頭がクリアになるという玉突き事故みたいな内省ができていい。僕はモサドのスパイではないので、明日からもどうせ出会った人間5秒で友達、のような感じで気安く人と付き合ってしまうのだろうが。

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