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ボランティアで通訳させられたのがトラウマ

私はトリリンガルであるが、小中学生の時、先生から「できるでしょ?」みたいなノリで現地学生と日本人学生との間の通訳を任されたことがある。

中学生で日本人学校に通っていた時のことはまだ鮮明に覚えていて、現地学生と日本人間でインタビューみたいなことをするとなり、その場で通訳させられたのはなかなかのトラウマだったかもしれない。

言葉がわからないことは問題ではなかった。むしろ何言ってるかは全然わかるのだが、混乱して日本語が全く出てこなくて何もできなかったことをよく覚えている。周囲の反応はよく覚えてない。信頼は失ったとは思うが、もともと無かった気もする。
とりあえず二度とやらないと思ったし、その気持ちは今も変わってない。
「なんでやらないの?」と聞かれれば「できないからだよ」としか答えられない。

日本の学校で言うとピアノできる子が伴奏を頼まれる感じなのかもしれないが、私からすると難易度はもっと高くて、当日に楽譜わたされてその場で弾かされる感じだと思っている。

訳は慎重に行いたい作業

訳っていうものは意外と乱暴なことをしなきゃいけない作業と子供ながらに感じてはいた。伝わるようにするのが第一でも、そこには長い前提があることが大抵で、この前提が特にとりこぼされやすい気がしている。「取りこぼしのないようにするのが仕事」という意見もあるだろうが、どう頑張っても読んでいる、あるいは聞いている側には絶対に100%は伝わらないと思っている。読者が知識、ないしは元の言語に付随する常識を持ち合わせていなければ、原文で読んでも当然伝わらない、つまり受け取り方が本来と変わってしまうことから逃れられないのだ。

誰でも知ってそうな例では「アナと雪の女王」の"Love is an open door(邦題:「とびらを開けて」)"は結構典型的だと思う。

背景を書き切るにしても限度というものがあって、切り捨てられた情報が必ず発生していること、原文の"再現"ではなく"書き換え"であることを意識しなければいけないと感じている。両方の気持ちや考えを知っているほど、100%がいかに不可能か理解できるはずだと思うのだ。「絶対伝わるはず!」って夢見るところではないのだと。("触り"程度にはなると思うが。)

悪意のある訳はマジで最悪だと思っている

誤訳も多い世の中で、意図的な誤訳はものすごく許せない。そしてそれを実際に見かけることがある。イントネーション等で「あ、この人字幕と違うこと言おうとしてるな…」と気付けるのは、機械的に訳させたのもわかるし、まだ序の口だ。

能力=武器とはよく言ったもので、意図的な誤訳は対象の人と訳を受け取る大衆にその武力を行使することだと思う。語学力という力で他人の人生を変えることもできる。例えば警察に捕まった後、まともな通訳がつかなければ釈放は無理だと思った方がいい。実例として"不法滞在者より国民を優先"を"外国人を排除"って訳した例があり(具体的にどこの誰の仕業かは言及しない)、これはインタビュー対象の人をracistに見せていて、その人を差別的な人間に仕立て上げると同時に、言葉がわからない人に事実無根の怒りの感情を抱かせるという形の暴力を振るっていると感じた次第だ。ビジネス通訳では取引を潰すことも可能かもしれない。

別にこれはバイリンガルとかマルチリンガルに限った話ではなくて、1つの言葉しかできなくても同じだ。何人たりとも人を傷つける能力を持っていることは誰もが自覚すべきだと思う。

結局のところこういう手の能力は信用が全てで、悪意を持っていないと証明する術は基本的にはない。そういう信用を潰す行為は、言葉を複数使える人全員の信頼を貶める行為なのでとても迷惑だ。一部の態度悪い観光客が外国人全体のイメージを悪くするみたいな感じかもしれない。

子供にやらせることじゃない

私は大学入試で初めて真面目に翻訳をやらなきゃいけなくなったのだが、秒で壁にぶつかった。逐語訳をすべきなのか意訳すべきなのかでまず迷った。この場合は試験なので点が取れることが大事なので「正確さを見るという点では逐語訳の方が点数は稼げるが、完璧に訳せるなら意訳の方が評価は高い。あなたの語学力なら意訳を狙ってもいいんじゃないか」と日系の塾でアドバイスをもらった。

いざ大学に進学すると通訳・翻訳のコースがあったので履修してみた。とは言っても通訳のノウハウを学んだりするわけではなく、ちょっとレベルの高い文章を理解するとこに重点が置かれている授業だった。しかし他の授業も含めて翻訳を求められる場面はあって、やはり気付きはあった。たくさんの言葉を両方の言語で知っていないといけない、原文の意図を理解していないといけない、認識のギャップを埋めないといけない、そしてやり続けて初めてわかる"コツ"みたいなものがある。「これ、ちょっと2ヶ国語できる子供にやらせる作業じゃないな。地味にタスクが多いな」と再認識した次第だ。むしろ「これバイリンガルである必要が全く無い。大人になって訓練した人のが(細かい齟齬が気にならないから)職業として成立させやすくて有利だ」と実感した。

と言うわけで、あまり気軽にマルチリンガルの子供にやらせない欲でほしい。流暢かつ律儀な性格の子供ほど悩むことになってしまう。
逆にある程度大人になってから「通訳いいなー…でもネイティブじゃ無いし…」となっているそこのあなた、むしろオススメですよ!まだ遅く無いですよ!

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