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連載/長編小説【新入社員・山崎の配属先は八丈島!?】⑮

 間もなく島に来て二年目の夏を迎えようとしていた。
今ちゃんはPADIのライセンスを取るために、休みの日はブーメランのオットさんとダイビングに興じていた。
潜った日の晩には、その海中の美しさを淡々と毎回聞かされたが、実像を見ていないわたしには、その美しさの本髄までは想像すら出来なかった。

わたしはもっぱら板前の堀さん、五十嵐くんと一緒に連日連夜、釣りに熱中していた。
「ねえ、堀さん――今度、みんなで釣りのコンテストやってみませんか?」
「コンテスト?」
「誰が何匹釣ったかを競い合うんです」
「それだったら、なにかの基準を作ったほうがおもしろそうだな」
二人とも、遊びのこととなると仕事以上に真剣だ。
「わかりました、そうしましょう」
わたしは釣れそうな魚のリストを作成して、その重さに合わせてポイントをつけてみた。例えば「オジサン」(ウミヒゴイのことをここではそう呼ぶ)四百グラム以下は一点、四百グラムから八百グラムまでは二点といった具合だ。
地元民の洋食厨房の金川さんにも相談してみた。ウメイロやオナガなどの美味しい魚のポイントは高めにしてみた。
生き餌を流して狙えば、岸壁からでも「縞アジ・勘八・平政」の三大魚を釣り上げるのも、八丈では夢ではない。逆に釣り上げてしまったらマイナスポイントの魚も決めてみた――「エイ・鮫・ウツボ・海へび」などだ。
「面白くなりそうですね、第一回八丈島リゾート杯争奪:釣りコンテスト!!」
大会までは腕をあげる為に、仕事が終わると夜な夜な底土港へと出勤した。

今年の夏は研修生の受け入れがあると太田総支配人より話があった。
横浜に建設中の大型シティー・ホテルの一期生になる新入社員のトレーニングと繁忙期ヘルプを兼ねたものだ。
横浜はMM21地区に大規模な開発が進行していたが、ここ八丈島からはほど遠い、まるで違う世界の話のようだと聞きながら感じていた。もうすっかり島の人になりつつあった。
二班に分かれて二週間ずつの合計四週間の研修受け入れとなる。
フロントは二名ずつ、料飲は五名ずつがそれぞれの期間に合わせて到着する予定だ。
料飲での受け入れ担当は、昭一さんより私が担当するようにとの指示があった。
サービス業務の合間をみながら、ここでのオペレーションマニュアルや備品リストなどを作成し始めた。実は何も無いのである――わたしが着任した昨年も、自分で手書きにて必死に作成していた――ここにきてそれが役に立つ時がきたのだ。

あっと言う間に研修受け入れの日となっていた。
管理の小林課長が事務所で、横浜からのメンバーにここでの生活に関する説明を始めていた。研修期間中の住まいは空いている「六角小屋」だ。
「まずは衝撃を受けるぞ」と私は心の中で思いつつ後ろの方で様子を見ていた。
ぞろぞろとコテージの方へ、それぞれが大きなバッグを抱えて向っていった。
研修は到着日の今日から開始するという。
従業員食堂で昼食を終えて、制服のアロハに着替えたメンバーがフロント事務所に集合していた。
「それではフロント研修の二名はこのまま事務所に残るように」
「料飲研修の五名は、山崎さんお願いします」
「わかりました」「料飲課の山崎です、よろしく」
第一班は「中島・山本・江藤・生方・久貝」の五名で内三名は大卒、二名はホテル専門学校卒という。年齢も近いもののまちまちだ。
小林課長より、早速にバトンを渡された。
「では、料飲のメンバーはメインダイニングに移動します」
メンダイには昭一さんと田中チーフが待っていた。
「料飲マネージャーの浅沼さんと田中チーフです」
「よろしく」
二人から皆に一言二言の話があった後に、まずは館内を案内することとした。
さすがにわたしよりも年上はいない。初めて後輩が出来た気分だ。
エルピまで坂を下り、ランチ番をしていた田辺君を紹介した。
to be continued……

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