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読書感想文『先生の白い嘘』1|Tone.

※本記事には一部ネタバレ、また過激な暴力・性描写が含まれます

以前、私がつぶやきに載せていた漫画
「先生の白い嘘」を読了した。
元々はネットニュースで本作品がドラマ化されるということで本書を知った。
更に記事に記載されていた簡単なあらすじをざっと見て
「これは読まねばなるまい」と
なったからである。
この「読まねばなるまい」となった理由は
文末にて述べるつもりだ。

同じタイミングで相互フォローのつむさんも
お読みになるとのことだったので、
互いに課題感想文を書くことにした。

これには明確な意図がある。
この作品を通して女性と男性の感じ方の違いを顕在化させるとともに、
読み比べることによって「性」に対する相互理解や考えを深める一助になればと思ったからである。



あらすじ

主人公の先生は高校教師。大学時代に友達の彼氏にレイプされてからずっと関係を続けさせられており、心身は人知れず不安定な状態となっていた。
やがてその友達の彼氏は友達の夫となるが、依然として関係を強いられている。
ある時、クラスを受け持つ男子生徒が不倫していると噂が立つ。
男子生徒もまた逆レイプを受けた被害者だった。
しかし先生は自身の経験から男子生徒に男への怒りをぶつけてしまった。
その後男子生徒は先生が怯えながら男と会っている姿を目にしてしまい、先生が気になって仕方がない。
男子生徒との関わりの中で先生は自身のトラウマや恐怖と向き合い、似た傷を持つお互いと触れ合っていく。
彼らを取り巻く周囲もまた数々の傷に溢れている。
それぞれが絡まり合って展開していくそれぞれの性、そして性の格差とは-

雑感

まず、泣きました。
どこでかはネタバレになるので
詳細は言いませんが何か所かありました。
男がこういう漫画で泣くって嘘っぽいかなって考えたんですけど、
結構、嗚咽が漏れそうなレベルで
泣いてました。
多分それは色んな意味で、
この作品がリアルさから目を逸らさないどころか読者にまざまざと見せつけてくるからだと思います。

ただ、本作が「性の格差」をメインテーマに据えているかと言われると、
個人的にはもう少し色々あるのかなって思います。

僕は男性視点で
細かいディテールよりはポイントポイントで感銘を受けたこと
気になったことをつらつらとあげていこうと思います。

主要人物紹介

  • 美鈴
    この漫画の主人公。高校教師。
    担当は恐らく現代文?
    親友の美奈子にはことあるごとにマウントを取られ
    色々と引っかかりながらも友人関係を続けている。
    そんなある日、美奈子の婚約者である早藤にレイプをされ
    その後も関係性を強いられることになる。
    そんな中、図らずも自分のなかで性の快楽が肥大していく様を自覚し、
    罪悪感と葛藤に苛まれる。

  • 早藤
    美鈴の親友である美奈子の婚約者。
    不動産勤め。美鈴含め処女ばかりを狙う鬼畜レイプ魔。
    婚約関係である美奈子とは仕事の疲れを理由にセックスを断り続けている。
    美鈴を襲った後も「学校に乗り込む」など言葉巧みに脅して
    継続した関係を強制している。

  • 美奈子
    美鈴を親友と呼んでいるが、実際は見下す相手として便利に使っている。
    早藤と婚約をしているものの、
    早藤の仕事疲れを理由に
    セックスレスと日常のコミュニケーション不足に陥っている。

  • 新妻君
    美鈴の教え子。バイト先のパート主婦に逆レイプ(※)され
    以降EDになってしまう。
    校内で主婦と不倫関係にあるとの噂を流されてしまう。
    担任である美鈴と面談した際に、真実を打ち明けるものの
    自身が「男」であることを理由に責められてしまう
    ※主婦にホテルに誘い込まれたものの寸前で行為を拒否。
     しかし主婦に「男として責任を取れ」などと迫られ
     心を押し殺し行為におよんでしまう

気になったポイントや感想

美鈴の葛藤(心の傷に反する体の反応)

最初からかなり重いテーマを突き付けられると同時に、性被害者の心身で一番目を背けられ、
「無きことにされがち」なテーマなのではないかと思う。
この話の中でも重要度がかなり高いテーマだ。

早藤から最初に襲われた際、
それは完全な暴力であり
痛みと恐怖しか感じなかった。
被害を届けることもできたが、彼女は
「自分が女に生まれてしまったことがそもそもの罪だったのだ」
思い込むことで心に蓋をすることにした。
しかし、その後の早藤の脅しと巧みなグルーミングにより
引き続き関係を強制される中で彼への嫌悪に反して体は快楽を感じてしまう。
彼女はそんな自分の心を裏切るような体と欲望に罪悪感と激しい自己嫌悪感を覚えながら葛藤の日々を送ることになる。
まさに心と体をバラバラにされたのだ。

ここで私が率直に思ったのが、
グルーミングを巧みに利用して
行為の継続を強いられた場合、
美鈴のように心に離反して体が快楽に反応してしまうことはあり得るのだろうなということ。
初回の暴行時ではないところが更に一つのポイントだ。

私は、この点は敢えて誤解を恐れずに言及する必要があると思った。
なぜならば、性加害に対するネットでの意見や反応を見るたび
主に女性側から「半ば強制された行為で感じることなんて有り得ない」
いったような意見が散見されるからだ。

勿論、
このような女性側の意見が出てくる理由は
重々承知しているつもりだ。
これは今回の主張と微妙に食い違う状況、
つまり初回暴行時を想定しているが、
男性側が女性への性加害を疑われた際、
弁明に「女性側も感じていた」とか「女性器が濡れていた」とか
女性側の体の反応を利用する傾向があるからだろう。
だからこそ女性側は前述したように、
それらの特に感じていたという
反応については「あり得ない」
反論しなくては、
男性側の横暴を赦してしまうことにつながりかねないとの危惧を抱いてるからではないか。

性加害事件での取り調べや
その過程で男性側が弁明として用いる
これらの言説は
所謂セカンドレイプとして女性を
一層苦しめることになってしまう。
故にセカンドレイプを抑止するための意見ともいえるのではないか。

一方で、
今回のように巧みなグルーミングのもとに
行為の継続を強いられた場合、
体の方は心に反して
同意不同意にかかわらず「性行為に適応」してしまうことは私は有り得ると思う。
なぜ、再三私がこのことに言及するかといえば、そのような女性がたとえ稀で少数であったとしても
それらが「無きもの」にされてしまうと、
今回の美鈴のような被害者は、
ただでさえ自分の体の反応に自己嫌悪を覚えているのに彼女の味方であるはずの意見が、
輪をかけて彼女に生じた事実
彼女の体そのものを抹殺、意図せぬ社会的排除につながってしまうことを
とても危惧しているから
である。

つまり、レイプやセカンドレイプを許さない
また男に言い訳をさせないためには
美鈴の一部は邪魔であり、
存在してはいけないもの
として
この世から消し去られてしまうのではないだろうか。
これはともすればサードレイプともいえる
被害者にとっての三重の苦しみを与えることになるのではないかと考えさせられたのである。

美鈴、彼女の体は罪なのだろうか。
彼女は、
自分で自分が女であることがそもそもの罪だと
初回暴行時に思い込むようになってしまった。
心の防衛の意味も多分にあるのだろうが、
それがこの性加害・被害というものの、
最も複雑で厄介で、且つ我々がよく知りもしない性をよく知ろうともしないまま断罪に結びつけてしまいがちな闇であろうかと思う。

そう、我々は「性」のことを自分が思っている以上に何も知らないのではないだろうか?
「理解なき正義感が更に弱き者を苦しめる可能性がある」
考えさせられた描写だった。

これは昨今、大問題となっている男性同士の性加害問題。
ジャニーズ問題にもかかわってくる話である。
つまり、性加害・被害による心と体の乖離は女性だけではなく男性側にとっても他人事ではないのだ。

セックスの責任は男性のみにあるのか?

次はパートの女性に
意思とは反する性行為を強要された
新妻君の例を引き合いに、
くだんの件を考えてみたい。

新妻君も美鈴と同じように自分の心や意思とは裏腹に体は性行為に適応してしまった。
また、美鈴とは違い男性側であることから身体能力では女性に勝るにもかかわらず、
そして初回の行為にもかかわらず
結局は彼の心の未成熟さ、
幼さを逆手に取った女の言葉巧みな心理攻撃に
抵抗できず
体は男として反応してしまうのである。
※詳細は本書、またはつむさんの感想文をご覧いただきたい。

この時、女は彼に「ホテルに"連れ込んだ"責任を取って最後まで抱け」と
迫ってくる。
事実は彼が決して連れ込んだわけではない。
だがしかし、女は所謂一般論を逆手に「男の責任」という一方的なロジックを展開させ、
まだ的確な判別のつかない未成熟な高校生の彼に罪悪感の濡れ衣を着せ、行為に導いたのである。

その後、彼は後遺症からEDとなり、
とあるトラブルから美鈴と面談をすることになるわけだが、
似たような苦しみを背負っているはずの両者ですらぶつかり合ってしまう。

美鈴は新妻君に対し「男として生まれた罪」「男と女の腕力の圧倒的格差」を理由に
抵抗できなかった彼を責め、
それどころか「その不条理な力を使って望むと望まざるにかかわらず、女を汚し続けて生きていくのだ」というような残酷な宣告をする。

新妻君は己の正しさ男としてのどうしようもない機能の矛盾との
間に挟まれ、その苦しみに苛まれ葛藤していくことになる。

ここでのテーマは見出しの通り
「いつだってセックスの責任は男にあるのか」
というものだ。

昨今の性同意・不同意の見直しにより
男性側も被害者になりえることが認められてきたが、本書の連載当時はまだ男性への性加害はある意味で
「無きもの」とされていたように思う。

そして、つい数年前までは「据え膳食わぬは男の恥」という概念が普通にまかり通っていたし、今だって暗黙の了解のようになっては
しないだろうか。

実際、私自身は今でもそう思っている。
それでも私は過去に所謂「据え膳」を食べないことが殆どだった。

理由は単純で「後でもめるのが凄く面倒」だったからにほかない。
その他、浮気や不倫をすると彼女や妻を傷つけるのが嫌だったから。
よしんば黙っていても、ウソがばれやすいのでやめておこうと結論づけた
結果
である。
つまりはまぁ私は真面目系クズなのだ。

じゃあ結果どうなったか。
目の前で散々罵られたり、あるいはあからさまにガッカリされた。

「女の子に恥をかかせるつもりなの?」「意気地なし」「女々しい」
「結局覚悟も勇気もないんじゃん」「草食なんだね」
「男としてどうなのそれ?」

そんな私はずっと
「まぁ男だからしゃーない。男ってもんは悪者になるのも仕事のうちの一つだ」
割り切ってだまって相手に謝ってきたのだが、
今考えるとそれが正しい対応だったのか疑問がよぎる。
細かいこというと私はラブホに誘い慣れていないので、大抵女友達の家に行ったときや、
終電逃して相手から(明確にでも暗にでも)ラブホや自宅で一夜を過ごすことを仄めかされたときの出来事である。

つまり男性側がセックスを拒否することは男性側の罪であるという
刷り込みがどこかで存在しているのではないだろうか。

余談だが、今考えると結婚前だったら据え膳食べときゃ良かったと思い出すことも多々ある。
なんでこんなにあけっぴろげに話すかというと
「男にとっての性」とか「男にとってのセックス」とはみたいなところも本音で語らないと
本書含め「性」に関する男女の相互理解は進まないと考えている
からだ。
「性」にまつわる一見美しいファンタジーは
時として生身の人間を苦しめることがある
と私は考えている。

これをお読みいただいている皆さまはどうお考えだろうか?
男女ともに伺いたい「SEXの責任はいつも男性側にある」と思いますか?

感想文1のまとめと2で書きたいこと

感想文1を終えて

正直、noteをやっていて一番神経を摩耗した。
そして、これを書いただけで死ぬほど疲れた。
課題感想文につきあってくれたつむさんには
多大なる感謝を捧げたい。

皆さんもおわかりだと思うが、
「性」はただでさえ扱いづらく
デリケートな問題だ。
そこに意思と反する行為の強要という問題が出てくるのだから。
そして、心と体と頭っていう人間の複雑な構造や社会通念という
システムの問題も絡んでくるわけで、一筋縄でいかないことだけは確かである。
また恋愛は時にゲームであり駆け引きであるという要素も多分に絡んでくるのだ。

それでも、
これらを一度つぶさに見ていかないと、
一部の偉い人や声の大きな人だけに
我々の大切な「性」の方向性を
勝手に決められてしまうのではないかと
大きな危惧を抱いている。

そして私はずっとずっと以下をテーマにした記事をあげてきた。

本書の中では「罪」という言葉に対し「罰」という言葉が出てくる。
男に生まれてきた罪、女に生まれてきた罪…。
ある意味で聖書で語られる「原罪」のようでもある。
そのうえ付けられてしまった罪悪を果たして人はどのように克服し
救われていくべきなのか。
その過程で私が一番こだわるのが「無きものにしないこと」である。
当事者が忘却によって救われるのならばそれでもいいだろう。
しかし、第三者がそれを強要しようとすれば、
それは排除につながりかねない。
特に被害者の立場として「無きもの」とされ排除されてしまうことは
どれだけの絶望感を与えるだろうか?
闇を抉り出すためには時に同じ深さの闇まで潜る必要も出てくる。
もしそれをしないで済むのであれば、その解決策も探っていきたい。
そんな想いだ。

感想文の2で書いていきたいテーマ

こちらは僕を通じての男の性やSEX観をメインに取り上げていきたいなと
考えている。炎上しそうで今から気が重い。それでも書いてみる。
だって多分僕らは互いの「性」について実はそんなに知らない。
きっとそうだと思うから。
そこを出発点にしないと、何が問題でどこですれ違うのか
延々と過ちを繰り返してしまうのではないだろうか。
まぁこと「恋愛」だけで見れば、
その過ちすらストーリーの一部になり得るのだろうが、
今回は性加害や性被害というテーマも絡んでいるので
できるだけそこにも配慮して快適なファンタジーよりは不快な事実に着目した記事にしていきたいと思う。

また個人的なSEX観の一部は以下有料だが
記事にまとめているので、ご興味があれば?
お読みいただけると大変嬉しく思う。

それでは数日以内に感想文2を上梓したいと思います。
お読みいただきまして、ありがとうございました。


※2(後編)はこちら

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